足立慶友医療コラム

ハイドロリリースによる四十肩・五十肩の治療について

2022.02.09

肩関節, 上肢

肩関節周囲炎、いわゆる”四十肩””五十肩”をはじめとする肩関節疾患を発症した場合、肩関節の可動域制限が生じることがあります。バンザイが上がりにくい、背中に手が回りにくいなどといった動きの制限を伴うことがほとんどです。

当院では、肩関節の可動域制限に対して「超音波ガイド下ハイドロリリース」を行っています。

今回はハイドロリリースについて解説していきます。

今回の10秒まとめ

①筋肉と筋肉の間に存在する、筋膜、腱、靱帯、末梢神経等を構成する結合組織などを総じて「ファシア」と表現する。

②ハイドロリリースとは、癒着したファシアをエコー画面にて確認しながら、生理食塩水と少量の麻酔薬・鎮痛薬を用いてはく離し、鎮痛効果に加えてファシアの柔軟性(伸びやすさや滑りやすさ)の改善を期待する治療手技である。

③ハイドロリリースは、肩関節周囲炎の診断を受け、拘縮期移行で肩関節の可動域制限がある方が対象となる。

④ハイドロリリースを行うと、神経や筋肉の滑走性が改善して可動域が改善する。また神経周囲のハイドロリリースにより、末梢神経の圧迫が解消され神経性の痛みや痺れが軽減される可能性がある。

⑤ハイドロリリースを行う部位は、胸背神経、腋窩神経、肩甲上神経、烏口上腕靭帯といった神経、靭帯の周囲である。動きの制限が強い箇所を医師が判断し、必要な部位に対して注射をする。

ハイドロリリースでは生理食塩水を注射するため、生理食塩水自体の大きな副作用はないが、針を使って注射を打つため一般的な注射と同様の副作用がある。

⑦ハイドロリリース後は新しく得られた可動域の獲得と正しい動きを学習するためのリハビリテーションが重要である。

ファシア、ハイドロリリースとは?

筋膜リリース”という言葉を皆さんは聞いたことがあるでしょうか?

TVなどでもよく取り上げられているかと思います。

この”筋膜”というのは筋肉を包んでいる膜のことを差し、全身に張りめぐらされています。

近年はこの筋膜だけではなく、靱帯末梢神経等を構成する結合組織などを包み込む鞘のようなものも含めて「ファシア」と表現するようになりました。

この”ファシア”が硬くなったり、隣の組織と癒着して動きを制限することで痛みの物質が貯留したり、神経そのものを圧迫することで、柔軟性(関節が動く範囲)の低下、力の発揮のしにくさ、痛み(肩こりや腰痛)などが起こると言われています。

ハイドロリリース (Hydro release) とは,文字通り、(ハイドロ:Hydro)で癒着したファシアという膜を剥離(リリース:Release)することを言います。

超音波(エコー)画面で異常なファシアを確認しながら、生理食塩水と少量の麻酔薬・鎮痛薬を用いてリリースし、鎮痛効果に加えてファシアの柔軟性(滑りやすさや伸びやすさ)の改善を期待する治療手技になります。

ハイドロリリースの対象

当院でのハイドロリリースは肩関節周囲炎、いわゆる四十肩・五十肩の診断を受け、肩関節の可動域(関節が動く範囲)の制限が生じている方が対象となります。

時期としては炎症が治まった後の拘縮期に移った方が対象となります。

発症直後は炎症期と呼ばれ、肩関節に炎症が生じているため炎症を抑えることが最優先となります。この時期には炎症を抑えるための注射や服薬などの治療をメインに行います。

 【炎症期の特徴】

 ✔︎ 夜間痛(夜寝付くときの痛み)がある

 ✔︎ 安静時痛(じっとしているときの痛み)がある

 ✔︎ 腕を上げると可動範囲内で常に痛い

 ✔︎ 可動域の制限(腕が上げにくい、背中に回しにくい...など)

炎症期が終わると拘縮期と呼ばれる時期に移行します。この時期からがハイドロリリースの対象となります。

【拘縮期の特徴】

✔︎ 炎症期に比べて痛みが軽減する

✔︎ 可動域の最後での痛みが残る

✔︎ 挙上(腕を上げる)動作結帯(背中に手を回す)動作外旋(外に開く)動作結髪(後頭部を触る)動作などが困難になる

拘縮期は通常3ヵ月〜12ヵ月に及ぶと言われていますが、それより長期に及ぶこともあります。

拘縮期移行に硬さのある箇所に対してハイドロリリースを行うことで、肩関節の可動域制限がより早く改善することが期待できます。

肩関節周囲炎に関しては下記の記事も参考にしてください。

肩関節周囲炎について

ハイドロリリースの効果

ハイドロリリースを実施することによって、肩関節の動かしにくさや痛みの改善を図ることができます。

通常、肩をスムーズに動かすためには

①筋肉や靭帯・神経などの滑走性(組織と組織の滑りやすさ)

②筋肉や靭帯・神経などの伸張性(伸びやすさ)

③肩を動かすための筋力

大きく分けると以上3つの機能が必要になりますが、肩関節周囲炎を患うことにより、これらの機能が破綻してしまいます。

痛みや安静により肩を動かさない期間が続いてしまうと、筋肉が短縮してしまうだけでなく腱や靭帯、神経などの軟部組織の間に”癒着”が生じ、滑走性が低下します

”腕を上げる””頭を触る””手を背中に回す”などの日常生活動作をスムーズに行うには、筋肉と筋肉、筋肉と皮膚、筋肉と神経がなめらかに滑りあうことが重要になります。

ハイドロリリースは癒着している組織に対して生理食塩水を注射することで、結果的に神経や筋肉の滑走性が改善して可動域が改善します。

また神経周囲のハイドロリリースにより、末梢神経の圧迫や締め付けが解消され神経性の痛みや痺れが軽減される事も報告されています。

ハイドロリリースを行う部位

当院のハイドロリリースは、神経周囲、靭帯周囲に実施します。

治療対象となる代表的な部位を以下に示します

  • 神経胸背神経腋窩神経肩甲上神経
  • 軟部組織烏口上腕靭帯

動作の制限や神経・靭帯等の動きの制限が強い箇所を医師が判断し、必要な部位に対して注射をしていきます。

副作用やリスク

ハイドロリリースでは基本的に生理食塩水を注射するため、生理食塩水自体の大きな副作用はありません

ただ、針を使って注射を打つため一般的な注射と同様の副作用があります。

具体的には、痛み、出血、脹れ、穿刺部からの感染、注射刺激による遅発性筋痛、神経損傷などが生じる可能性があります。

解剖学の知識と技術のある整形外科医がエコーを用いて正確に部位を同定して実施する注射であるため、安全性の高い治療法と言えます。

ハイドロリリース後のリハビリテーション

ハイドロリリースは打って終わりではなく、その後のリハビリテーションが非常に重要です。

注射により組織同士の滑走性が改善しても、また使わない時間が長く続いてしまうと元に戻ってしまいます。

リハビリテーションを行うことで長い期間使っていなかった可動範囲での動きをしっかりと練習し、新しく獲得した可動範囲を定着させる必要があります。

また注射後のリハビリテーションにおいては、「使い方」も重要になります。

元々可動域の制限があったり、痛みがあった動作においては、代償動作(痛みや制限をかばうような動き)を身体が学習してしまっている場合があります。

このような悪い動作を身体が覚えてしまっている状態で関節を闇雲に動かすことは、正常な動作の獲得に悪影響を与えます

「量×質」の両方を確保できるようにストレッチや筋力強化、動作の学習など含めたリハビリを丁寧に実施していただければと思います。

まとめ

ハイドロリリースは超音波画像によって動きの悪い筋膜やその周辺の組織を見ながら、正確に生理食塩水を注射して癒着した膜の動きを改善することで、痛みや可動域を改善する治療法になります。

また、神経と筋肉が一緒に動いてしまって神経性の痛みが出てしまうという場合もあり、これに対してハイドロリリースを打って剥がしていくことで神経と筋肉が独立して動いてくれて痛みが取れるとも言われています。

生理食塩水自体の大きな副作用がないため、近年では多くの医療機関で広まりつつある治療法です。

ハイドロリリース実施後は可動域を広げたり正しい動き方を定着させるためのリハビリテーションが重要になりますが、当院の理学療法士が全力でサポートさせていただきます。

肩関節が動く範囲に制限があり、日常生活に支障を来している方がいらっしゃいましたら決して我慢せず、医療機関を受診して下さい。

上記のような症状でお悩みの方は、一度当院までご相談ください。

当院のご紹介

整形外科の診療に必要な設備が整った診療所

当院は、各種専門領域を持った医師の診療に加え、大学病院と同様の医療機器を有し、かつ、理学療法士・作業療法士によりリハビリテーションも積極的におこなっている診療所です。また、併設の慶友整形外科脊椎関節病院では手術加療も行なっております。

そのため当院では、整形外科疾患におけるほぼ全ての治療を提供することができます。

初めての患者さまへ当院のご紹介

当院の『7つの特徴』や『ミッション』についてご案内いたします。

各部門の専門家が集まった特殊外来を設置

当院は、一般的な関節の痛みや筋肉の痛みを診る整形外科の他に、「脊椎(首・腰)」、「肩関節」、「股関節」、「膝関節」、「手」、「足」とそれぞれの専門家が集まった専門外来を用意しております。

他院で診断がつかない症状に関して、各領域の専門家が診察をいたします。

整形外科のご案内

手や足が痺れる、膝や股関節は痛い、背中が曲がってきたなどの症状でお困りの方へ。

都内最大級のリハビリ室を完備

患者様の健康を取り戻すため、当院ではリハビリテーションに力を入れております。

国家資格を有するセラピスト達が、責任を持って治療を行います。

リハビリテーション科のご案内

腰が痛い、姿勢が悪い、歩くとふらつくなどの症状でお困りの方へ。

交通事故診療に強い整形外科専門医が診察

不幸にも交通事故に遭われた患者様の多くは、「事故のことは保険屋さんに聞けば良いが、体の不調をどこに相談すれば良いのかわからない」という悩みを抱えていらっしゃいます。

当院では交通事故診療に強い整形外科専門医が治療を行います。ぜひ一度ご相談ください。

交通事故にあわれた方へ

当院は、整形外科専門医が交通事故治療を行う医療機関です。

Author

新海貴史

理学療法士

赤十字救急法救急員

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