変形性膝関節症と診断されたら – 進行度別の治療選択
膝に痛みや違和感を覚えて医療機関を受診した結果、変形性膝関節症と診断された方は少なくありません。
膝関節の軟骨がすり減り、変形をともなうこの疾患は、進行すると歩行や日常生活に大きく影響します。
初期段階は軽い痛みやこわばり程度であっても、放置すれば症状が悪化し、長期間にわたる治療やリハビリテーションが必要になる場合もあります。
進行度によって治療方針や対処法が異なるため、自分の段階を理解したうえで適切に対処することが重要です。
目次
変形性膝関節症とは
加齢や日常生活の負荷によって膝関節の軟骨がすり減ると、骨と骨が接触しやすくなり痛みが生じます。
さらに関節部分が変形し、膝が曲げにくくなったり、正座や歩行が困難になったりします。変形は徐々に進むことが多く、早めの対処を心がけることが大切です。
病気の概要
変形性膝関節症は中高年以降に多くみられる慢性疾患で、特に膝に負荷がかかりやすい女性に多く発症します。
関節軟骨はクッションの役割を果たしていますが、長年の使用や運動不足、体重の増加などで摩耗が進み、痛みや腫れを伴うことがあります。
膝変形性膝関節症の発生要因
加齢による軟骨の変性が代表的な要因ですが、以下のような生活習慣や身体的特徴も影響します。
- 肥満による膝への過度な負荷
- 運動不足による筋力低下
- 日常動作での負担(長時間の立ち仕事、重い物の持ち運びなど)
- 過去の膝のケガ(半月板損傷など)の後遺症
加齢による関節の変化
年齢を重ねると軟骨組織の再生能力が低下し、擦り減った軟骨が元に戻りにくくなります。
軟骨がうまく保護しきれなくなると、骨の露出部分同士が直接ぶつかり合い、痛みや炎症を引き起こします。関節包や靱帯にも負担がかかり、次第に変形が目立つようになります。
変形性膝関節症の進行度と症状の関係
進行度 | 主な症状の目安 | 日常生活への影響 |
---|---|---|
初期 | 朝にこわばり感がある程度 | 正座や階段の昇降で軽い痛みを感じる |
中期 | 歩き始めや長距離歩行で痛む | 立ち上がり動作がつらくなる |
進行 | 少し動いただけでも痛む | ひどい場合、膝が大きく変形し歩行困難 |
受診のきっかけ
多くの方は「痛みが続いている」「階段の上り下りに強い負担を感じる」などの理由で医療機関を受診します。
症状が軽度でも、長期化や変形が進む前に整形外科の診察を受けるほうが回復を見込みやすくなります。
本人が「大したことはない」と感じていても、膝変形性関節症のリスクが高いケースは見逃せません。
病期分類と進行度の目安
病期を把握することは治療方針を決めるうえで重要です。医師はX線画像や痛みの度合い、日常生活における支障の程度などを総合的に判断し、病期を分類します。
X線画像での分類
レントゲン撮影で膝関節の隙間がどの程度狭くなっているか、骨の変形がどれだけ進んでいるかをチェックします。
関節裂隙が狭いほど軟骨のすり減りが進み、骨棘(骨のとげ)が形成されていることもあります。
X線画像における主な変化
分類 | 関節裂隙の変化 | 骨棘の有無 |
---|---|---|
初期 | 軽度に狭くなっている | わずかな骨棘の出現 |
中期 | かなり狭くなっている | 明確な骨棘の形成 |
進行 | ほとんど隙間が見られない | 大きな骨棘が複数存在 |
関節軟骨のすり減り方
軟骨は加齢や負担の蓄積で徐々に薄くなります。初期段階は軟骨が部分的に摩耗しているだけで、日常生活への影響は限定的ですが、中期から進行期にかけて全体的に損傷が広がります。
軟骨の欠損部位が増えると炎症や強い痛みにつながります。
痛みの度合い
痛みの強さは病期の進行とともに増す傾向があります。初期は活動開始時だけに軽い痛みがある程度ですが、中期になると歩行時や立ち座りの動作で強く感じます。
進行期では安静時でも痛む場合があり、睡眠にも影響することがあります。
膝変形性関節症の進行過程
膝変形性膝関節症は以下のように進みます。
- 初期:運動開始時や階段昇降時に軽い痛みが起こる。軟骨の摩耗は軽度。
- 中期:明らかな膝の違和感と痛みがある。レントゲンで関節裂隙が狭くなり、骨棘もはっきり見える。
- 進行:膝の変形が顕著で、日常生活動作(歩行や正座など)に大きな制限が出る。安静にしていても痛むことがある。
病期別に注意したいポイント
- 進行度の早い段階で治療を始めると、痛みのコントロールがしやすくなる。
- 中期から進行期では日常生活や仕事への影響が大きくなり、手術も視野に入る。
- 医師と相談しながら、定期的な検査と適切なケアを継続すると予後が良くなる。
症状の特徴と日常生活で意識すること
症状には個人差がありますが、多くの人が共通して訴えるポイントがあります。適切な生活習慣の改善や運動を組み合わせると、痛みの軽減や変形の進行を遅らせる効果が期待できます。
代表的な症状の変化
初期は「立ち上がり時に膝が固まったように感じる」「少し歩き始めると痛みが出る」といった違和感が主体です。中期以降は運動中だけでなく、安静時や就寝時にも痛むケースが増えます。
歩くときに膝が外側に傾いたり、O脚が顕著になる場合もあります。
痛みを誘発しやすい動作
- 長時間の立ちっぱなし
- 急な階段の上り下り
- 深くしゃがむ動作
- 重い荷物を持つ動作
これらは膝関節に高い負荷をかけやすいため、日常生活のなかで注意が必要です。
生活習慣の改善ポイント
適度な運動と、膝への負担を減らす生活習慣が症状緩和に役立ちます。ウォーキングや軽い筋力トレーニングを習慣化し、膝周囲の筋肉を強化すると膝への衝撃を和らげやすくなります。
体重管理も痛みの軽減に有効な方法です。
日常動作を見直す(箇条書きは使わない言及ルールに注意)
- 深くしゃがむ必要があるときは、手すりや台を活用して膝の負担を減らす
- 椅子から立ち上がるときは、手を膝や太ももに添えて補助する
- 厚みのあるクッションを使用して座ると、膝の曲げ伸ばしが楽になる
膝変形関節症と運動量
膝変形関節症があっても、過度な安静が筋力低下を招き、症状を悪化させる恐れがあります。痛みが軽い範囲での運動は関節をスムーズに動かすうえで大切です。
ただし、痛みが増すほどの無理な運動は関節を傷める原因になります。
運動量の目安
運動レベル | 内容 | 目的 |
---|---|---|
軽度 | 軽いウォーキング、簡単な膝の屈伸 | 関節可動域を保ち、筋力を落とさないため |
中等度 | ジョギングや軽いランニングなど | 筋力維持と体重コントロール |
高強度 | 激しいスポーツ、長距離ランニングなど | 膝への負荷が高く注意が必要 |
初期段階の治療選択
初期段階は比較的症状が軽く、保存的な治療方法を中心に進めることが多いです。
投薬や物理療法、適度な運動療法などを組み合わせると痛みを抑えやすくなり、日常生活の質を向上させる狙いがあります。
保存療法の役割
保存療法では、薬物療法や装具の使用、リハビリテーションを組み合わせて症状緩和を図ります。
特に初期段階では膝に負担をかけずに行える運動を取り入れることで、筋力維持や血行改善を狙います。
投薬と物理療法
消炎鎮痛薬やヒアルロン酸注射などを使用して痛みの緩和を行うことがあります。
同時に物理療法(温熱療法や超音波療法など)を活用すると、患部の血行を良くして炎症を和らげやすくなります。
投薬時に気をつけたい点
- 医師の指示に従って用量と頻度を守る
- 副作用(胃腸障害など)があらわれる場合は医療機関に相談する
- 痛みが落ち着いても、勝手な判断で薬を中断しない
運動療法とリハビリテーション
理学療法士の指導のもと、太もも前部の大腿四頭筋や膝周辺の筋肉を強化するエクササイズを行います。
正しい方法で続けると、膝関節への負荷が軽減し、症状の進行を遅らせる可能性があります。
主な保存療法の種類
種類 | 具体的な内容 | 主な目的 |
---|---|---|
運動療法 | ストレッチ、筋力トレーニング | 筋力維持と関節可動域の確保 |
物理療法 | 温熱療法、超音波など | 血行促進と痛みの軽減 |
薬物療法 | 内服薬、外用薬、注射(ヒアルロン酸など) | 炎症軽減、関節保護 |
サポーター・装具の使用 | 膝関節を安定させるサポート | 膝への負担を抑える |
装具や日常ケア
膝専用のサポーターや装具を使用すると膝関節を安定させ、痛みを緩和しやすくなります。日常ケアとして、温めて血行を促進し、過度な動きや体重増加を避ける工夫が大切です。
中期段階の治療選択
中期になると痛みが強くなり、階段の昇降や立ち座りなど、日常動作にも明確な支障が出始めます。
保存療法だけでは十分な痛みの緩和が得られないケースもあり、より積極的な治療法が検討されます。
中期における痛みの特徴
中期の痛みは運動開始時だけでなく、運動を続けているうちに強くなることがあります。さらに安静時にも違和感が残る場合が増え、炎症が慢性化する恐れも出てきます。
関節鏡視下手術を選ぶ理由
保存療法で症状があまり改善しない場合、関節鏡視下手術を検討するケースがあります。これは小さな切開から関節内部を確認し、損傷部分の洗浄や軟骨の滑らかにする処置を行うものです。
大がかりな手術と比べて負担が少ない利点がありますが、適応は医師の判断に委ねられます。
関節鏡視下手術の利点と注意点
項目 | 内容 |
---|---|
利点 | 切開が小さい、関節内部を直接確認できる |
注意点 | 症状によっては効果が限定的な場合もある |
痛みのコントロールと生活指導
痛みが日常生活の大きな支障になる場合、鎮痛薬のほかに生活指導が強化されます。立ち仕事や長距離移動など、膝への負担が大きい場面を避ける工夫や適度な休息が不可欠です。
医師や理学療法士に相談しながら、自分の症状に合わせて活動量を調整してください。
中期に検討できる治療手段
- 関節鏡視下手術
- 強化版のリハビリプログラム
- 痛みの状態に応じた薬物療法の変更
- サポーターや装具の買い替え
再評価と専門医との連携
中期以降は定期的な診察で膝関節の状態を評価し、必要に応じて治療方針を変更します。痛みや変形の進行具合を把握し、将来的に人工関節置換術を行うタイミングを見極めることも大切です。
医師やリハビリスタッフとの連携を密にすると症状の悪化を抑えやすくなります。
進行段階の治療選択
進行段階では明らかな変形や強い痛みがあり、保存療法や関節鏡視下手術だけでは対処が難しいケースが増えます。
日常生活に支障が出るレベルであれば、人工膝関節置換術などの外科的治療が選択肢に入ってきます。
変形が強い場合の考え方
骨と骨の接触が進んでいる状態では、軟骨の再生は望みにくくなります。
痛みが強く、歩行や立ち座りがままならないほど変形が進んでいると、手術によって関節機能を回復させる方法が検討されます。
高齢者でも健康状態によっては手術が可能なケースがあるため、医療機関での相談が重要です。
人工膝関節置換術の概要
人工膝関節置換術は、損傷した軟骨や骨の表面を取り除き、金属やプラスチックでできた人工関節を装着する手術です。
大きく分けて部分置換術と全置換術がありますが、どちらを選ぶかは変形の程度や軟骨の摩耗範囲によります。
人工膝関節置換術の概要
区分 | 対象となる変形範囲 | 特徴 |
---|---|---|
部分置換術 | 膝の内側または外側のみの損傷 | 切開範囲がやや小さく、回復も比較的早い |
全置換術 | 膝関節全体 | 広範囲の軟骨欠損や変形に対応可能 |
術後のリハビリと注意点
手術後のリハビリは関節の可動域を取り戻し、筋力を補う大切な段階です。リハビリを怠ると、せっかくの手術の効果が十分に得られないことがあります。
医療スタッフの指導を守り、適切な方法で少しずつ負荷をかけていくと、関節可動域や筋力の回復を促しやすくなります。
術後リハビリで気をつける動作
- いきなり深くしゃがまない
- 手すりや杖を使いながら歩行練習を行う
- 膝の痛みが増したら無理をせず休む
- 指導された運動を正しいフォームで継続する
他の疾患との合併リスク
高齢になると骨粗しょう症や下肢の血行障害などを合併する場合があります。人工関節の安定性やリハビリ進行に影響を及ぼすため、術前検査や術後の経過観察が欠かせません。
血行障害がある場合には特に注意が必要です。
関節鏡視下手術の症例や人工膝関節置換術の検討タイミング
症例区分 | 主な検討タイミング | 手術後のケア |
---|---|---|
関節鏡視下手術 | 中期段階で保存療法が難しいとき | 短期入院・リハビリが中心 |
人工膝関節置換術 | 進行期で生活動作に大きな支障があるとき | 長期的なリハビリと定期検診 |
予防と再発防止に向けた対策
変形性膝関節症は一度始まると完全には元に戻しにくいため、予防と再発防止が重要となります。
適度な運動や体重管理、早期発見と早期治療など、日常的にできる工夫を取り入れることが大切です。
筋力維持の運動
大腿四頭筋やハムストリングスなど、膝を支える筋力がしっかりしていると衝撃を吸収しやすくなります。
プールでのウォーキングや自宅での軽いスクワットなど、膝への負担が少ない運動を選んで継続するとよいでしょう。
筋力維持に有用な運動例
運動名 | 方法 | 注意点 |
---|---|---|
プールウォーキング | 水中で歩行し、膝への負荷を軽減 | 水温や歩くペースに注意 |
椅子スクワット | 椅子を支えにしながら軽くスクワットを行う | 痛みが出ない範囲で行い、無理しない |
レッグエクステンション | 椅子に座り、片脚ずつ膝を伸ばしてキープ | 背筋を伸ばして正しい姿勢を保つ |
適切な体重管理
体重が増えると膝関節にかかる負荷が大きくなるため、適度なカロリーコントロールと運動を組み合わせて体重を維持することが望ましいです。
特にBMIが高い方は、医師や管理栄養士と相談しながら食事内容を調整してみてください。
体重管理のコツ
- 食事はバランスを意識し、過度な制限は避ける
- 脂質や糖質の過剰摂取に注意する
- 大豆製品や魚、野菜などを積極的に摂る
- ウォーキングなどの運動を定期的に取り入れる
日々のケアとサポート体制
朝や入浴後に膝を温めて血行を促すなど、痛みをコントロールする方法はさまざまです。テーピングやサポーターを活用すると不安がやわらぎ、外出や運動を続けやすくなります。
家族や周囲のサポートも必要です。
膝変形性関節症の進行を抑える工夫
小さな痛みや違和感を放置しないことが肝心です。定期的な検診で軟骨の状態をチェックし、必要に応じて治療を調整しましょう。
通院の間隔や運動プログラムの変更など、医療スタッフと相談しながら柔軟に対応することが望ましいです。
日常ケアのポイント
- 痛みがひどい日は安静を取りつつ患部を温める
- 長時間立つ場合は合間に座る時間をつくる
- エレベーターやエスカレーターを有効活用する
- 柔らかい靴や膝にやさしいインソールを選ぶ
よくある質問
膝変形性関節症で治療を考える際に、多くの患者さんが抱く疑問と回答の要点をまとめます。自身の症状に合わせて役立ててください。
手術後に普通の生活に戻れますか
人工膝関節置換術を受けた後は、リハビリを正しく行うことで日常動作がしやすくなる方が多いです。
ただし、個人差があり、完全に元のように動くかどうかは術前の膝の状態や筋力、リハビリへの取り組み方によります。焦らず段階的に筋力や可動域を向上させる意識が重要です。
リハビリはどれくらい続ける必要がありますか
個人差がありますが、数か月程度ではなく1年以上継続して行うことが多いです。痛みが落ち着いた後も筋力維持のための運動を行い、再発を防ぐことが望ましいです。
装具はどんなタイミングで使用するといいですか
立ち上がりや歩行時に不安を感じるときや、痛みが強いときなどに活用すると生活が楽になります。医師や理学療法士と相談して、適切なタイプの装具やサポーターを選ぶことが大切です。
痛みがあるときに運動しても大丈夫ですか
あまりに強い痛みがある場合は一時的に休んだほうがいいですが、軽い痛みの場合は少しずつ運動を行ったほうが膝関節の動きを保ちやすくなります。
医療機関や理学療法士と相談しながら無理のない範囲で続けましょう。
以上
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