足立慶友医療コラム

股関節の外側が痛むときに疑われる疾患と検査

2025.07.29

歩き始めや立ち上がりの瞬間、または長時間座った後に、股関節の外側にズキッとした痛みを感じることはありませんか。

その痛みは、日常生活の質を大きく下げる要因になり得ます。股関節の外側の痛みと一言でいっても、その原因は一つではありません。

筋肉や腱の炎症、関節自体の変化、さらには腰からの影響など、様々な可能性が考えられます。痛みの原因を正しく理解することは、不安を和らげ、適切な対処への第一歩となります。

この記事では、股関節の外側に痛みが生じる場合に考えられる代表的な疾患や、医療機関で行われる検査について、専門的な観点から詳しく解説していきます。ご自身の状態を把握するための参考にしてください。

股関節の外側が痛む主な原因

股関節の外側に痛みを感じる場合、その原因は股関節そのものにあるとは限りません。股関節周辺の複雑な構造を理解することで、痛みの根本原因を探る手がかりが得られます。

ここでは、痛みを引き起こす可能性のある主な要因を解説します。

筋肉や腱の問題

股関節の外側の痛みで最も多い原因の一つが、お尻の横から太ももの外側にかけて付着している筋肉や、その先端にある腱のトラブルです。

特に、歩行や片足立ちの際に骨盤を支える重要な役割を持つ「中殿筋」や「小殿筋」に問題が生じることが多くあります。

長時間の歩行やスポーツによる使いすぎ、あるいは加齢による筋力低下などが、これらの組織に炎症や微小な損傷を引き起こし、痛みの原因となります。

筋肉や腱に由来する痛みの特徴

特徴説明
動作時の痛み歩き始め、階段の上り下り、寝返りなどで痛む。
圧痛股関節の外側の骨の出っ張り(大転子)周辺を押すと痛い。
放散痛太ももの外側や膝にかけて痛みが広がることがある。

関節自体の問題

股関節は、骨盤の寛骨臼という受け皿に、大腿骨の先端にある球状の骨頭がはまり込む形をしています。

この関節の表面は滑らかな軟骨で覆われていますが、加齢や体重の負荷などにより軟骨がすり減ると、関節の動きが悪くなり、炎症や痛みを引き起こします。これが「変形性股関節症」です。

初期段階では、股関節の付け根(鼠径部)に痛みを感じることが多いですが、症状が進行したり、痛みをかばう動作を続けたりすることで、股関節の外側にも痛みが出ることがあります。

神経の問題

痛みを感じている場所と、原因となっている場所が異なるケースもあります。

これを「関連痛」と呼びます。股関節の外側の痛みの場合、腰に原因がある可能性も考えなくてはなりません。

例えば、腰椎(背骨の腰の部分)で神経が圧迫される「腰椎椎間板ヘルニア」や「腰部脊柱管狭窄症」などがあると、その神経が支配している領域であるお尻や股関節の外側に痛みやしびれとして感じられることがあります。

この場合、股関節自体には異常が見られないことも少なくありません。

その他の要因

上記以外にも、股関節の外側の痛みを引き起こす要因は存在します。

例えば、スポーツ活動などで股関節周辺を強く打撲した場合や、女性の場合はホルモンバランスの変化が影響することもあります。

また、稀ではありますが、感染症や腫瘍などが原因となることもあるため、痛みが長引く場合や、安静にしていても痛みが治まらない、徐々に悪化するといった場合は注意が必要です。

中殿筋・小殿筋のトラブルと痛み

股関節の外側にある「大転子」という骨の出っ張り周辺の痛みは、多くの場合、骨盤を支える重要な筋肉である中殿筋や小殿筋のトラブルが関係しています。

これらの筋肉が正常に機能しないと、歩行やバランス能力に大きな影響を及ぼします。

中殿筋・小殿筋の役割とは

中殿筋と小殿筋は、お尻の側面、やや上部に位置する筋肉です。主な役割は、脚を外側に開く(外転)動作と、歩行時に片足で立った際に骨盤が傾かないように支えることです。

もしこの筋肉がなければ、歩くたびに体が左右に大きく揺れてしまい、スムーズな歩行はできません。このため、日常生活のあらゆる動作で常に負担がかかっている筋肉と言えます。

中殿筋・小殿筋の主な機能

機能具体的な動作
股関節の外転脚を横に持ち上げる、カニ歩きをする。
骨盤の安定化歩行時、走行時、片足立ちの際に体を支える。
股関節の内旋・外旋つま先の向きを変える動作を補助する。

腱付着部症(エンテソパチー)

腱付着部症とは、筋肉が骨に付着する部分(腱付着部)に、繰り返しの負荷がかかることで炎症や変性が生じ、痛みを引き起こす状態です。

中殿筋や小殿筋は、太ももの骨の外側にある大転子に付着しており、この部分で腱付着部症が起こりやすいです。

長距離のランニングや、急な運動量の増加、あるいは長時間の立ち仕事などが誘因となります。痛みは、動作時に強くなり、安静にすると和らぐ傾向があります。

筋膜性疼痛症候群(MPS)

筋肉を包む「筋膜」が硬くなったり、癒着したりすることで、痛みやしびれを引き起こすのが筋膜性疼痛症候群です。

中殿筋や小殿筋に持続的な負担がかかると、筋肉内に「トリガーポイント」と呼ばれる痛みの引き金になるしこりが形成されることがあります。

このトリガーポイントを押すと強い痛みを感じるだけでなく、そこから離れた場所(太ももの外側や膝など)にも痛みが響く「関連痛」が生じるのが特徴です。

デスクワークでの不良姿勢や、同じ動作の繰り返しが原因となることもあります。

日常生活での注意点

中殿筋や小殿筋に由来する痛みを抱えている場合、日常生活での何気ない動作が症状を悪化させる可能性があります。

例えば、痛い方を下にして横向きで寝る、足を組んで座る、あぐらをかくといった姿勢は、患部に持続的な圧迫や伸長ストレスを加えるため、避けることが望ましいです。

また、急に長距離を歩いたり、坂道や階段を無理して上り下りしたりすることも、症状を悪化させる要因となるため注意が必要です。

大腿骨大転子部痛症候群(GTPS)

最近、股関節の外側の痛みを表現する言葉として「大腿骨大転子部痛症候群(Greater Trochanteric Pain Syndrome: GTPS)」という診断名が使われるようになってきました。

これは、特定の疾患名ではなく、大転子周辺に生じる痛みを引き起こす複数の病態をまとめた総称です。

GTPSとは何か

GTPSは、以前は「転子滑液包炎」と診断されることが多かった症状を含みますが、研究が進むにつれて、痛みの原因は滑液包の炎症だけではないことがわかってきました。

実際には、中殿筋や小殿筋の腱の損傷や変性(腱症)、腱付着部症などが痛みの主たる原因であることが多いとされています。

GTPSは、これらの病態を包括的に捉えるための概念です。特に中年以降の女性に多く見られます。

GTPSに含まれる主な病態

病態概要
中殿筋・小殿筋腱症腱の微細な断裂や変性が起こっている状態。
転子滑液包炎大転子と腸脛靭帯の間にある滑液包の炎症。
腸脛靭帯の肥厚太ももの外側にある靭帯が硬くなること。

転子滑液包炎との違い

滑液包は、骨と筋肉や腱がこすれ合う部分にある、潤滑液を含んだ袋状の組織です。大転子の部分にもこの滑液包が存在し、炎症を起こすと痛みを生じます。

これが転子滑液包炎です。しかし、画像検査などを行うと、実際には滑液包に炎症がないケースも多く、むしろ腱の問題が主体であることが判明してきました。

このことにより、GTPSという診断名が、より正確に患者の状態を反映していると考えられるようになっています。

GTPSを引き起こす要因

GTPSは、単一の原因で発症するわけではなく、複数の要因が絡み合って起こると考えられています。

解剖学的な要因としては、女性の方が骨盤が広く、大転子にかかるストレスが大きいことなどが挙げられます。

また、日常生活における動作の癖や、体幹の筋力低下、肥満なども大きな影響を与えます。

GTPSのリスクを高める要因

  • 加齢
  • 女性
  • 肥満
  • 長時間の立ち仕事や歩行
  • 腰椎疾患の既往

自分でできる簡単なチェック方法

GTPSが疑われる場合、いくつかの簡単なテストで確認することができます。まず、痛い方の脚で30秒間片足立ちをしてみてください。

この時に股関節の外側に痛みが出たり、バランスを保てなかったりする場合、中殿筋の機能低下が考えられます。

また、仰向けに寝て、痛くない方の脚の上に、痛い方の足首を乗せて数字の「4」の形を作ります。

この状態から、痛い方の膝をゆっくりと床に近づけていき、股関節の外側や後ろに痛みや強い張りを感じる場合も、GTPSの兆候である可能性があります。

ただし、これらのチェックで痛みが出る場合は無理をせず、専門医に相談することが重要です。

変形性股関節症の可能性

股関節の痛みと聞いて、多くの方が「変形性股関節症」を思い浮かべるかもしれません。これは加齢とともに関節軟骨がすり減っていく疾患で、股関節痛の代表的な原因の一つです。

外側の痛みも、この疾患の一つのサインである可能性があります。

変形性股関節症の基本

変形性股関節症は、股関節のクッションの役割を果たしている関節軟骨が、長年の使用によってすり減り、骨と骨が直接こすれることで痛みや変形が生じる疾患です。

日本では、生まれつき股関節の受け皿が浅い「臼蓋形成不全」が原因で発症するケースが多いとされています。

初期は無症状で経過することもありますが、徐々に軟骨の摩耗が進行すると、痛みや可動域の制限が現れます。

なぜ外側が痛むのか

変形性股関節症の典型的な痛みは、足の付け根(鼠径部)に現れます。

しかし、痛みをかばって歩くうちに、歩行バランスが崩れ、骨盤を支える中殿筋などの股関節外側の筋肉に過剰な負担がかかるようになります。

この筋肉の疲労や炎症が、股関節の外側の痛みを引き起こすのです。

したがって、外側の痛みは、変形性股関節症が進行している、あるいは代償動作(かばう動き)が強くなっているサインとも考えられます。

初期症状の特徴

変形性股関節症の初期症状は、非常に軽微なことが多いです。

  • 立ち上がりや歩き始めの痛み
  • 長時間歩いた後のだるさや重い感じ
  • 股関節の動きの悪さ(靴下が履きにくい、足の爪が切りにくいなど)

これらの症状は、少し休むと改善することが多いため、見過ごされがちです。しかし、この段階で適切な対応を始めることが、将来の進行を遅らせる上で大切です。

進行度による症状の変化

変形性股関節症は、レントゲン画像などから進行度を判断します。進行度によって、現れる症状も変化していきます。

変形性股関節症の進行度と症状の目安

進行度主な症状痛みの場所
初期立ち上がり、歩き始めの痛み。可動域制限は軽度。鼠径部が中心。
進行期持続的な痛み。安静時にも痛むことがある。可動域制限が強くなる。鼠径部、殿部、大腿部、膝など広範囲に及ぶ。外側の痛みも出やすい。
末期常に強い痛みがある。歩行が困難になる。関節が固まり、脚の長さが変わることも。股関節周辺全体に強い痛み。

腰に原因がある関連痛

股関節の外側が痛いのに、股関節自体を調べても異常が見つからないことがあります。このような場合、痛みの発生源が別の場所にある「関連痛」を疑う必要があります。

特に、腰の疾患が股関節周辺に痛みを引き起こすことは珍しくありません。

関連痛とは

関連痛は、内臓や深い部分の筋肉・骨格の異常によって生じた痛みの信号が、脳に伝わる過程で、同じ神経が支配している皮膚や表面の筋肉の痛みとして誤って認識される現象です。

心筋梗塞で左腕が痛むのが典型例ですが、整形外科の領域でも頻繁に見られます。

腰から足にかけて伸びる神経が腰部で圧迫されると、その神経の通り道である股関節の外側や太ももに痛みとして感じられるのです。

腰椎椎間板ヘルニアと坐骨神経痛

背骨の骨と骨の間でクッションの役割をしている椎間板の一部が飛び出し、神経を圧迫するのが腰椎椎間板ヘルニアです。

圧迫される神経の場所によって症状は異なりますが、腰の下部で神経が圧迫されると、お尻から太ももの外側、すね、足先にかけて「坐骨神経痛」と呼ばれる鋭い痛みやしびれが生じます。

この痛みが、股関節の外側の痛みとして感じられることがあります。前かがみになったり、椅子に座ったりすると痛みが強くなるのが特徴です。

腰部脊柱管狭窄症

加齢などにより、背骨の中にある神経の通り道「脊柱管」が狭くなり、神経が圧迫される疾患です。

特徴的な症状は「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」で、しばらく歩くと足に痛みやしびれが出て歩けなくなり、少し前かがみになって休むとまた歩けるようになる、というものです。

この痛みやしびれが、股関節の外側を中心に現れることもあります。背筋を伸ばすと脊柱管が狭くなるため、立っている時や歩いている時に症状が強くなります。

腰か股関節か見分けるヒント

痛みの原因が腰にあるのか、股関節にあるのかを自己判断するのは難しいですが、症状の出方にある程度の傾向があります。

股関節痛と腰由来の痛みの特徴比較

項目股関節が原因の可能性が高い腰が原因の可能性が高い
痛みが強くなる動作あぐら、靴下を履く、車の乗り降り長時間座る、前かがみ、歩き続ける
痛みの範囲足の付け根、股関節の外側など局所的お尻から足先まで広範囲に及ぶしびれを伴う
楽になる姿勢安静にしている、楽な角度で座る前かがみになる、横になって膝を曲げる

これらの特徴はあくまで目安です。両方の問題を合併している場合もあるため、正確な診断には専門医による診察が必要です。

医療機関で行う検査

股関節の外側の痛みが続く場合、自己判断で放置せず、整形外科などの医療機関を受診することが重要です。

医療機関では、痛みの原因を正確に特定するために、様々な角度から検査を行います。ここでは、代表的な検査について解説します。

問診と身体診察(触診・徒手検査)

診断の第一歩は、医師による丁寧な問診から始まります。いつから、どこが、どのように痛むのか、どのような時に痛みが強くなるのか、過去の病気や怪我の有無などを詳しく伝えます。

この情報は、診断の方向性を決める上で非常に重要です。 続いて、身体診察が行われます。

医師が直接患部やその周辺を触って圧痛点(押して痛い場所)を確認したり、股関節を様々な方向に動かして可動域や痛みの再現性を調べたりします。

また、筋力テストや歩行状態の観察なども行い、総合的に状態を評価します。

問診で伝えるべきポイント

  • 痛みが始まった時期ときっかけ
  • 痛みの具体的な場所(指でさせるか)
  • 痛みの性質(ズキズキ、ジンジン、ピリピリなど)
  • 痛みが強くなる動作や時間帯
  • 日常生活で困っていること

画像検査の種類と目的

問診や身体診察で得られた情報をもとに、必要に応じて画像検査を行います。それぞれの検査には特徴があり、目的によって使い分けられます。

レントゲン(X線)検査

骨の状態を評価するための基本的な検査です。変形性股関節症の診断には必須で、骨の変形、関節の隙間の狭さ(軟骨のすり減り具合)、骨棘(こつきょく)の有無などを確認します。

骨折や脱臼の診断にも有用です。ただし、レントゲンでは筋肉、腱、神経といった軟部組織は写らないため、これらの組織に問題が疑われる場合は他の検査が必要になります。

MRI検査

磁気と電波を利用して、体の断面を様々な角度から撮影する検査です。レントゲンでは見えない筋肉、腱、靭帯、軟骨、椎間板などの軟部組織の状態を詳細に描出することができます。

中殿筋や小殿筋の腱の損傷(GTPS)、腰椎椎間板ヘルニア、疲労骨折などの診断に非常に有効です。

超音波(エコー)検査

人体に無害な超音波を当てて、その反響を画像化する検査です。リアルタイムで筋肉や腱の動きを観察できるのが大きな利点です。

中殿筋腱の炎症や損傷、滑液包の腫れなどをその場で確認できます。また、注射を行う際に、正確な場所に針を誘導するためにも用いられます。

主な画像検査でわかること

検査名主な目的わかることの例
レントゲン検査骨の評価変形性股関節症、骨折、臼蓋形成不全
MRI検査軟部組織の評価腱の断裂、椎間板ヘルニア、骨の内部の異常
超音波検査軟部組織の動的な評価腱の炎症、滑液包の腫れ、肉離れ

その他の検査

関節リウマチなどの自己免疫疾患や、感染症が疑われる場合には、血液検査を行うことがあります。炎症反応の有無や、特定の抗体の値を調べることで、診断の助けとなります。

また、神経の障害が疑われる場合には、筋電図検査などで神経の伝わる速度を調べることもあります。

痛みを悪化させないためのセルフケア

正確な診断を受け、適切な治療方針が決まるまでの間、あるいは治療と並行して、ご自身でできることがあります。

痛みを悪化させず、少しでも快適に過ごすためのセルフケアのポイントを紹介します。

ただし、痛みが強い場合や、これから紹介するケアで症状が悪化する場合は、すぐに中止して医療機関に相談してください。

安静とアイシングの基本

痛みが急に強くなった場合や、運動後に痛みが出た場合(急性期)は、まず安静を保つことが第一です。無理に動かすと炎症を悪化させる可能性があります。

痛む部分に熱感がある場合は、アイシングが有効です。氷のうや保冷剤などをタオルで包み、1回15分から20分程度、痛む部分に当てて冷やします。

これを1日に数回繰り返します。長時間のアイシングは凍傷のリスクがあるため避けてください。

避けるべき動作や姿勢

日常生活の中には、無意識に股関節の外側に負担をかけている動作や姿勢があります。これらを避けるだけでも、痛みの軽減につながることがあります。

避けるべき動作・姿勢の例

動作・姿勢理由
痛い方を下にして横向きに寝る患部を直接圧迫し、血行を悪化させる。
足を組む、あぐらをかく股関節外側の筋肉や腱を過度に伸長させる。
低い椅子やソファに座る立ち上がる際に股関節に大きな負担がかかる。

ストレッチを行う際の注意点

痛みが少し落ち着いてきたら、硬くなった筋肉をほぐすためにストレッチを取り入れることも有効です。しかし、やり方を間違えると逆効果になるため、注意が必要です。

基本は「痛気持ちいい」範囲で行い、鋭い痛みを感じる場合はすぐに中止します。特に、炎症が強い急性期に無理なストレッチを行うことは避けるべきです。

どのようなストレッチが適切かは、原因となっている疾患によって異なるため、自己判断で行う前に、医師や理学療法士に相談することをお勧めします。

医療機関を受診するタイミング

セルフケアはあくまで対症療法です。以下のようなサインが見られる場合は、早めに整形外科を受診することを強く推奨します。

  • 痛みが2週間以上続いている
  • 痛みがだんだん強くなっている
  • 安静にしていても痛む、夜間に痛みで目が覚める
  • 足のしびれや力が入らない感じがある
  • 転倒したり、強くぶつけたりした後から痛む

早期に適切な診断を受けることが、症状の悪化を防ぎ、回復への近道となります。

よくある質問

ここでは、股関節の外側の痛みに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問を解消する一助としてください。

温めるのと冷やすのはどちらが良いですか?

これは非常に多い質問ですが、状況によって異なります。運動後や急に痛くなった時など、熱感や腫れがある「急性期」は、炎症を抑えるために冷やす(アイシング)のが基本です。

一方、痛みが長引いていて、動かすと楽になるような「慢性期」の場合は、血行を良くして筋肉の緊張を和らげるために温める(温熱療法)方が効果的なことがあります。

入浴などがその一例です。

状況に応じた対処法(温める vs 冷やす)

状況推奨される対処法目的
急性の痛み(ズキズキ、熱感)冷やす(アイシング)炎症と腫れを抑える
慢性の痛み(重だるい、こわばり)温める(入浴など)血行促進、筋肉の弛緩

どのような靴を選べば良いですか?

靴は歩行時の衝撃を吸収し、足元を安定させる重要な役割を担います。股関節に痛みがある場合は、かかとがしっかりしていて、クッション性の高い靴を選ぶことが大切です。

靴底が硬すぎたり、薄すぎたりする靴は避けた方が良いでしょう。また、ヒールの高い靴は骨盤の傾きを変え、股関節への負担を増やすため、できるだけ控えることをお勧めします。

ご自身の足に合った、適度なフィット感のあるスニーカーなどが理想的です。

サプリメントは効果がありますか?

グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントが、関節の健康に良いとして広く知られています。

これらは関節軟骨の成分であり、変形性股関節症の進行を緩やかにする可能性については一部で報告されています。

しかし、痛みを直接取り除いたり、すり減った軟骨を再生させたりするほどの強力な効果は科学的に証明されていません。

また、筋肉や腱のトラブルが痛みの原因である場合には、効果は期待しにくいです。あくまで食事の補助として考え、過度な期待はしない方が良いでしょう。

使用する際は、かかりつけの医師に相談することをお勧めします。

痛くても歩いた方が良いですか?

これも難しい問題です。運動不足は筋力低下を招き、さらなる症状の悪化につながるため、適度な運動は必要です。

しかし、痛みを我慢して無理に歩くことは、炎症を悪化させ、逆効果となります。

「痛いけれど、なんとか歩ける」という程度であれば、歩く距離や時間を減らしたり、クッション性の良い靴を履いたりするなどの工夫をして、様子を見るのが良いでしょう。

もし「痛くて歩けない」「歩くと明らかに痛みが悪化する」という場合は、無理をせず安静にし、医療機関に相談してください。

水中ウォーキングなど、股関節への負担が少ない運動から始めるのも一つの方法です。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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