足立慶友医療コラム

股関節の開閉時に起こる痛みの原因と治療法

2025.07.28

あぐらをかく時や足を開く動作をした際に、股関節の付け根に「ズキッ」とした痛みを感じることはありませんか。

その痛みは、日常生活の些細な習慣から、股関節の重要なサインである可能性も考えられます。多くの方が経験するこの痛みですが、原因は一つではありません。

筋肉の硬さや炎症、関節自体の問題など、さまざまな要因が複雑に関係しています。この記事では、股関節を開くとなぜ痛むのか、その背後にある主な原因を分かりやすく解き明かします。

さらに、ご自身でできるケアの方法から、専門的な診断、そしてどのような治療法があるのかまで、段階を追って詳しく解説していきます。

股関節の構造と痛みの関係

股関節の痛みについて理解を深めるためには、まず股関節がどのような構造で、どういった役割を担っているのかを知ることが大切です。

私たちの体を支え、歩く、座る、立つといった基本的な動作を可能にする股関節の仕組みと、痛みがどのようにして発生するのかを解説します。

股関節とはどこの関節か

股関節は、骨盤のくぼみである「臼蓋(きゅうがい)」に、太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」の先端にある球状の「大腿骨頭(だいたいこっとう)」がはまり込む形で構成されています。

体の中で最も大きな関節であり、体重を支えるという重要な役割を担っています。

関節の表面は「関節軟骨」という滑らかな組織で覆われており、この軟骨がクッションの役割を果たすことで、スムーズな動きを可能にしています。

股関節の正常な動き

股関節は球関節(きゅうかんせつ)という種類に分類され、非常に自由度の高い動きができます。この複雑な動きは、多くの筋肉や腱、靭帯によって支えられています。

股関節の主な可動方向

  • 屈曲(前に曲げる)
  • 伸展(後ろに伸ばす)
  • 外転(外に開く)
  • 内転(内に閉じる)
  • 外旋(外にひねる)
  • 内旋(内にひねる)

なぜ開くと痛むのか

股関節を開く動き(外転・外旋)は、日常生活であぐらをかいたり、車の乗り降りをしたりする際に行われます。

この動きで痛みが出る場合、関節を構成する骨や軟骨、または関節周りの筋肉や腱などに何らかの問題が生じているサインと考えられます。

特定の動きで負担がかかる部分が炎症を起こしたり、組織が硬くなって正常な動きが妨げられたりすることで、痛みとして現れるのです。

動きと関連部位

動き主に使われる筋肉考えられる問題
足を開く(外転)中殿筋、小殿筋筋肉の炎症、腱の損傷
あぐらをかく(外旋)梨状筋、内閉鎖筋など筋肉の硬縮、関節包の肥厚
足を閉じる(内転)内転筋群肉離れ、筋肉の柔軟性低下

股関節を開くと痛い主な原因

股関節を開く際に生じる痛みの原因は多岐にわたります。ここでは、特に多く見られる原因を「関節の外の問題」と「関節の中の問題」に分けて詳しく見ていきましょう。

ご自身の症状がどれに近いかを確認する参考にしてください。

関節の外の問題(筋肉や腱)

痛みの原因として最も多いのが、股関節周辺の筋肉や腱といった軟部組織の問題です。これらは比較的改善しやすく、早期の対処が重要です。

筋肉の柔軟性低下と血行不良

長時間同じ姿勢でいることが多いデスクワークや、運動不足は、股関節周りの筋肉を硬くする大きな原因です。

特に、お尻の筋肉(殿筋群)や太ももの内側の筋肉(内転筋群)が硬くなると、股関節を開く動きが制限され、無理に動かそうとすると痛みが生じます。

筋肉が硬い状態は血行不良も招き、痛みを悪化させる悪循環に陥ることがあります。

腱や滑液包の炎症

股関節の周りには、筋肉と骨をつなぐ「腱」や、摩擦を軽減する「滑液包(かつえきほう)」という袋状の組織があります。

スポーツや仕事などで特定の動きを繰り返すことにより、これらの組織に過度な負担がかかり、炎症を起こすことがあります。

これを「腱炎」や「滑液包炎」と呼び、股関節を動かした際に鋭い痛みとして感じられます。

肉離れなどの外傷

スポーツなどで急に足を開いたり、伸ばしたりした際に、筋肉の一部が断裂する「肉離れ」を起こすことがあります。

特に太ももの内側にある内転筋群で起こりやすく、受傷直後から強い痛みとともにはれや内出血を伴うこともあります。

完全に治癒する前に運動を再開すると再発しやすいため、注意が必要です。

関節の中の問題(骨や軟骨)

痛みが長引く場合や、特定の角度で「ゴリッ」という音やひっかかり感を伴う場合は、関節内部に原因がある可能性を考えます。これらは専門的な診断が重要になります。

変形性股関節症

加齢や体重の増加、あるいは若い頃の臼蓋形成不全などが原因で、関節の軟骨がすり減っていく病気です。

初期の段階では、立ち上がりや歩き始めに軽い痛みを感じる程度ですが、進行すると軟骨が失われ、骨同士が直接こすれるようになり、強い痛みや可動域の制限が現れます。

特に股関節を開く動きは、症状の早い段階から制限されやすい特徴があります。

臼蓋形成不全

生まれつき、あるいは成長過程で、大腿骨頭を覆う臼蓋のくぼみが浅い状態を指します。

臼蓋の被りが浅いために関節が不安定になり、関節軟骨や、関節の縁を取り巻く関節唇という組織に負担がかかりやすくなります。

若い女性に多く見られ、長期的には変形性股関節症に移行するリスクが高いことが知られています。

関節唇損傷

関節唇は、臼蓋の縁を取り囲む軟骨様の組織で、関節を安定させる役割を担っています。

スポーツなどの激しい動きや、臼蓋形成不全による不安定性から、この関節唇が傷ついたり断裂したりすることがあります。

股関節を深く曲げたり、ひねったりする動きで鋭い痛みが走り、クリック音(ひっかかり音)を伴うのが特徴です。

大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)

股関節を深く曲げた際に、大腿骨の骨頭と臼蓋の骨が衝突してしまう状態を指します。

骨の形状にわずかな異常がある場合に起こりやすく、繰り返される衝突によって関節唇や軟骨を損傷し、痛みを引き起こします。

特に、スポーツ選手など股関節を大きく動かす人に多く見られます。

考えられる原因の比較

原因主な症状特徴
筋肉・腱の問題動かした時の痛み、圧痛ストレッチで改善することがある
変形性股関節症歩き始めの痛み、可動域制限進行性で、安静時にも痛むことがある
関節唇損傷・FAI鋭い痛み、ひっかかり感特定の動きで誘発されることが多い

痛みの特徴から原因を探る

痛みの感じ方や、どの部分が痛むかによって、原因となっている箇所をある程度推測することができます。ご自身の痛みがどのような特徴を持つか、注意深く観察してみましょう。

ただし、これらはあくまで目安であり、正確な診断には専門医の診察が必要です。

痛みの種類で考える

痛みの性質は、原因を探る上で重要な手がかりとなります。

ズキッとする鋭い痛み

瞬間的に走る鋭い痛みは、関節唇損傷やインピンジメント(骨の衝突)、あるいは腱の炎症などが考えられます。

特定の角度や動きで急に痛みが現れるのが特徴で、痛みのためにそれ以上動かせなくなることもあります。

ジンジン、ズーンとする鈍い痛み

重だるいような鈍い痛みは、筋肉の疲労や血行不良、あるいは変形性股関節症の初期症状として現れることがあります。長時間歩いた後や、夕方になると痛みが強くなる傾向があります。

動かし始めが特に痛い

「こわばり痛」とも呼ばれ、長時間座っていた後の立ち上がりや、朝起きた時の一歩目など、動き始めに強く痛むのが特徴です。

これは変形性股関節症の典型的な症状の一つで、少し動いているうちに痛みが和らぐこともあります。

痛む場所で考える

股関節周りのどこが痛むかによっても、原因は異なります。

股関節の前側(足の付け根)の痛み

足の付け根、いわゆる「鼠径部(そけいぶ)」が痛む場合、関節唇損傷や大腿骨寛骨臼インピンジメント、あるいは腸腰筋というインナーマッスルの問題が考えられます。

変形性股関節症でもこの部分に痛みが出ることが多いです。

股関節の横側(出っ張った骨のあたり)の痛み

お尻の横、ズボンのポケットのあたりにある骨の出っ張り(大転子)周辺が痛む場合、中殿筋や小殿筋といったお尻の筋肉の腱が付着する部分の炎症(腱付着部炎)や、大転子滑液包炎の可能性が高いです。

股関節の後ろ側(お尻)の痛み

お尻の奥の方が痛む場合は、梨状筋症候群など、お尻の深層にある筋肉が硬くなることで坐骨神経を圧迫している可能性があります。

腰の問題(腰椎椎間板ヘルニアなど)からくる関連痛であることも少なくありません。

痛む場所と主な原因

痛む場所考えられる主な原因関連する動作
前側(鼠径部)関節唇損傷、FAI、変形性股関節症深く曲げる、あぐらをかく
横側(大転子部)中殿筋腱炎、滑液包炎歩行、階段昇降
後ろ側(臀部)梨状筋症候群、腰椎由来の痛み長時間の座位、前かがみ

自分でできるセルフチェックと注意点

医療機関を受診する前に、ご自身の股関節の状態をある程度把握しておくことは、医師に症状を正確に伝える上で役立ちます。

ここでは、自宅で安全に行えるセルフチェックの方法と、その際の注意点を解説します。

可動域のチェック

左右の股関節の動きを比較してみましょう。痛みや違和感のない範囲で、ゆっくりと行ってください。

あぐらチェック

床に座り、あぐらをかく姿勢をとります。左右の膝が同じように床に近づくか、片方だけが浮き上がっていないかを確認します。

膝が床から離れている側に、股関節を開く動き(外転・外旋)の制限がある可能性があります。

膝抱えチェック

仰向けに寝て、片方の膝を両手で胸に引き寄せます。正常であれば、太ももがお腹につくくらいまで曲がります。

この時、お尻や足の付け根に詰まり感や痛みがないか、左右で差がないかを確認します。

セルフチェック時の注意点

セルフチェックは、あくまで状態を把握するための目安です。無理に行うと症状を悪化させる危険性があります。

痛みを感じたらすぐに中止する

チェックの途中で鋭い痛みや強い違和感を感じた場合は、その時点で直ちに中止してください。無理に動かすことは、関節や周辺組織を傷つける原因となります。

自己判断で終わらせない

セルフチェックで異常を感じた場合はもちろん、特に問題がないと感じても痛みが続く場合は、必ず専門の医療機関を受診してください。

自己判断で「大丈夫だろう」と放置することが、症状の悪化につながるケースは少なくありません。

医療機関を受診する目安

  • 痛みが2週間以上続いている
  • だんだん痛みが強くなっている
  • 安静にしていても痛む
  • 歩行が困難になるほどの強い痛みがある
  • 足のしびれや感覚の異常を伴う

専門医による診断方法

股関節の痛みの原因を正確に特定するためには、専門医による診断が重要です。

医療機関では、問診から始まり、身体診察、そして必要に応じて画像検査などを組み合わせて総合的に判断します。

問診

医師はまず、患者さんの話を詳しく聞くことから始めます。正確な診断のために、以下の点についてできるだけ具体的に伝えられるよう準備しておくとスムーズです。

問診で伝えるべき情報

項目伝える内容の例なぜ重要か
いつから痛むか「3ヶ月前から」「先週サッカーをしてから」急性の問題か慢性の問題かを判断する
どんな時に痛むか「あぐらをかく時」「歩き始め」原因となっている動作や病態を推測する
痛みの程度・種類「ズキッとする」「重だるい」炎症の度合いや損傷の種類を判断する

視診と触診

次に、医師が実際に股関節の状態を見て、触って確認します。歩き方や姿勢を観察したり(視診)、痛みのある場所を直接押して圧痛の有無を確認したり(触診)します。

また、医師が患者さんの足を動かして、股関節の可動域や、特定の動きで痛みやひっかかり感が再現されるか(誘発テスト)を調べます。

画像検査

問診や診察で得られた情報をもとに、より詳しく関節内部の状態を調べるために画像検査を行います。

レントゲン(X線)検査

骨の状態を確認するための基本的な検査です。骨の変形や、骨と骨の隙間(関節裂隙)の広さから、変形性股関節症の進行度を評価します。

また、臼蓋形成不全の有無なども確認できます。

MRI検査

磁気を利用して体の断面を撮影する検査です。レントゲンでは写らない軟骨や関節唇、筋肉、腱といった軟部組織の状態を詳しく見ることができます。

関節唇損傷や腱の炎症、初期の軟骨変性などを診断するのに非常に有用です。

超音波(エコー)検査

超音波を使って、筋肉や腱、滑液包の状態をリアルタイムで観察できる検査です。特に、関節の外にある軟部組織の炎症や損傷の評価に適しています。

体を動かしながら観察できるため、インピンジメントの評価にも役立ちます。

痛みを和らげるための治療とセルフケア

股関節の痛みの治療は、原因や症状の程度によって異なりますが、多くの場合、手術をしない「保存療法」から開始します。

ここでは、代表的な保存療法と、日常生活で取り組めるセルフケアについて解説します。

保存療法の基本

保存療法の目的は、痛みをコントロールし、股関節の機能を維持・改善することです。複数の方法を組み合わせて行います。

安静と活動の調整

痛みが強い急性期には、股関節に負担をかける動作を避けて安静にすることが第一です。

しかし、過度な安静は逆に関節周りの筋肉を衰えさせ、関節を硬くしてしまうため、痛みが落ち着いてきたら、無理のない範囲で少しずつ動かしていくことが重要です。

痛みを悪化させない活動と休息のバランスを見つけることが大切です。

薬物療法

痛みが強い場合や炎症を抑える目的で、薬を使用することがあります。

飲み薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDsなど)、貼り薬や塗り薬(湿布やゲル剤)、そして関節内への注射(ヒアルロン酸やステロイド)など、症状に応じて使い分けます。

物理療法

温熱療法(ホットパックなど)で血行を促進して筋肉の緊張を和らげたり、電気刺激で痛みを緩和したりする方法です。

リハビリテーションの一環として、理学療法士の指導のもとで行われることが多いです。

運動療法(ストレッチと筋力トレーニング)

保存療法の中心となるのが運動療法です。硬くなった筋肉を伸ばして柔軟性を取り戻し、関節を支える筋力を強化することで、股関節への負担を軽減し、痛みの根本的な改善を目指します。

股関節周りのストレッチ

痛みを感じない範囲で、ゆっくりと行うことが原則です。「痛いけど気持ちいい」と感じる程度で20〜30秒間、じっくりと伸ばしましょう。

お尻のストレッチ(梨状筋)

  1. 椅子に浅く座り、片方の足首を反対側の膝の上に乗せます。
  2. 背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと体を前に倒していきます。
  3. お尻の筋肉が伸びているのを感じる位置で止め、深呼吸をしながらキープします。

内もものストレッチ(内転筋)

  1. 床に座り、足の裏を合わせて膝を左右に開きます(あぐらの姿勢)。
  2. 両手で足先を持ち、かかとを体に引き寄せます。
  3. 背筋を伸ばし、肘で軽く膝を下に押して、内ももが伸びるのを感じます。

股関節を支える筋力トレーニング

股関節を安定させるためには、特にお尻の筋肉(殿筋群)と体幹の筋肉を鍛えることが重要です。

お尻上げ(ヒップリフト)

  1. 仰向けに寝て、膝を90度くらいに曲げ、足は肩幅に開きます。
  2. お尻に力を入れながら、ゆっくりと持ち上げます。肩から膝までが一直線になるようにします。
  3. その位置で数秒キープし、ゆっくりと下ろします。

運動療法のポイント

ポイント具体的な内容目的
痛みなく行う痛みが出る場合は中止、または可動域を狭める症状の悪化を防ぐ
ゆっくり行う反動をつけず、筋肉の伸びや収縮を意識する筋肉や関節への負担を減らす
継続する毎日少しずつでも続けることが大切柔軟性と筋力を維持・向上させる

手術療法が検討される場合

保存療法を続けても痛みが改善しない場合や、変形性股関節症が進行して日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術療法が選択肢となります。

どのような場合に手術を考えるのか、代表的な手術方法について解説します。

手術を検討するタイミング

手術に踏み切るかどうかは、年齢や活動レベル、そして患者さん自身が生活の質をどう考えているかによって決まります。医師と十分に相談した上で決定することが重要です。

手術が選択肢となるケース

  • 保存療法で十分な効果が得られない強い痛み
  • 安静時や夜間にも痛みが続く
  • 関節の変形が進行し、歩行が著しく困難になった
  • 関節唇の大きな断裂や、骨の衝突が明らかな場合

代表的な手術方法

股関節の手術には、関節の状態に応じていくつかの種類があります。近年では、より体の負担が少ない方法も開発されています。

関節鏡視下手術(股関節鏡)

関節に数ミリの小さな穴を数カ所開け、そこからカメラ(関節鏡)や専用の手術器具を挿入して行う手術です。

主に、関節唇の損傷を修復したり、骨の衝突(インピンジメント)の原因となっている骨の隆起を削ったりするために行います。傷が小さく、回復が早いのが利点です。

骨切り術

臼蓋形成不全など、骨の形に問題がある場合に、自分の骨を切って関節の適合性を良くする手術です。

自分の関節を温存できるため、比較的若い活動的な患者さんに行われることが多いです。

人工股関節置換術

すり減って傷んだ関節の表面を取り除き、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える手術です。

変形性股関節症が進行した場合に行われる最も一般的な手術で、痛みの改善に高い効果が期待できます。

主な手術方法の比較

手術方法対象となる主な疾患特徴
関節鏡視下手術関節唇損傷、FAI低侵襲、自分の関節を温存
骨切り術臼蓋形成不全自分の関節を温存、長期的な安定を目指す
人工股関節置換術進行した変形性股関節症除痛効果が高い、日常生活への復帰が早い

手術後のリハビリテーション

どの手術方法を選択した場合でも、術後のリハビリテーションは手術そのものと同じくらい重要です。

理学療法士の指導のもと、関節の可動域を回復させる訓練や、筋力を取り戻すためのトレーニングを計画的に進めていきます。

このリハビリテーションへの取り組みが、その後の回復を大きく左右します。

よくある質問

股関節の痛みに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問や不安の解消にお役立てください。

痛くても運動は続けた方が良いですか?

痛みを我慢して運動を続けることは、症状を悪化させる可能性があるため推奨しません。特に、ランニングやジャンプなど、股関節に衝撃がかかる運動は避けるべきです。

ただし、全く動かないのも筋力低下や関節の硬縮につながります。水中ウォーキングやエアロバイクなど、関節への負担が少ない運動から、痛みの出ない範囲で試してみるのが良いでしょう。

どのような運動が適しているかは、ご自身の状態によって異なるため、専門医や理学療法士に相談することが最も安全です。

温めるのと冷やすのはどちらが良いですか?

これは痛みの原因や時期によって異なります。一般的に、急性の痛み、つまりケガの直後や、動かした後に熱感や腫れがある場合は「冷やす(アイシング)」のが基本です。

炎症を抑え、痛みを和らげる効果があります。一方、慢性的な鈍い痛みや、筋肉のこわばりを感じる場合には「温める(温熱療法)」のが効果的です。

血行を促進し、筋肉の緊張をほぐして痛みを緩和します。どちらが良いか迷う場合は、温めてみて痛みが強くなるようなら冷やす、というように試してみるのも一つの方法です。

温めるか冷やすかの判断目安

対応適した症状目的
冷やす(アイシング)急な痛み、熱感、腫れ炎症を抑える、痛みを鎮める
温める(温熱)慢性の痛み、筋肉のこわばり血行促進、筋肉をリラックスさせる

サプリメントは効果がありますか?

グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントが、関節の健康維持に良いという話をよく聞きます。

これらの成分は関節軟骨を構成する要素であり、一部の研究では変形性関節症の症状を和らげる可能性が示唆されています。

しかし、その効果については科学的な見解が一致しておらず、「痛みの改善に明確な効果がある」と断定できるほどの強い根拠はまだありません。

治療の基本はあくまで運動療法や生活習慣の改善であり、サプリメントは補助的なものと考えるのが良いでしょう。使用を検討する場合は、かかりつけの医師や薬剤師に相談することをお勧めします。

日常生活で気をつけることは何ですか?

股関節への負担を減らす生活習慣を心がけることが、痛みの予防と改善につながります。

生活習慣の工夫

  • 体重管理: 適正体重を維持することは、股関節への負担を直接的に減らします。
  • 床座を避ける: 正座やあぐらは股関節に大きな負担をかけます。できるだけ椅子やソファでの生活を心がけましょう。
  • 靴の選択: クッション性の良い靴を選び、歩行時の衝撃を和らげましょう。
  • 荷物の持ち方: 重い荷物を持つ際は、左右均等に持つか、リュックサックなどを利用して片側に負担が偏らないように工夫します。

股関節の痛みは、多くの人にとって悩みの種ですが、その原因を正しく理解し、適切な対処を行うことで、症状を改善することは十分に可能です。

この記事で得た知識が、皆さんの痛みのない快適な毎日を取り戻すための一歩となることを願っています。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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