足立慶友医療コラム

股関の痛みと股関節にまつわる原因と治療の考え方

2025.04.12

股関節付近に生じる違和感や痛みは歩行や体を曲げ伸ばしするときに支障が出やすく、早期の対処が欠かせません。

加齢や運動習慣の偏りによって変形が進行する場合もあり、深刻なトラブルに発展することもあります。

痛みの背景には軟骨の摩耗、骨の変形、炎症、筋力低下などさまざまな要因が考えられますが、適切な治療を受けることで改善を目指せます。

原因や症状の特徴を理解し、正しい受診タイミングや日常生活の工夫を取り入れていただくことで、痛みを軽減しながら関節の状態を守ることが可能です。

本記事では、股関の痛みや股関節のトラブルが生じるしくみと治療の考え方を詳しくお伝えします。

股関の痛みや股関節の不快感とは何か

股関節は体重を支える重要な役割を担い、歩行や立ち上がりなどあらゆる動作と深くかかわります。痛みや不快感は、骨や軟骨だけでなく、靭帯や筋肉など周辺組織の問題によっても起こります。

この部位の痛みに悩まされる方は多く、早めに異常を発見して対処することが大切です。

股関節の基本構造

股関節は骨盤側の寛骨臼と大腿骨の骨頭が噛み合っていて、球状の関節として高い可動域を持っています。

人体で最大級の負荷を受ける関節なので、立つ、歩く、座るといった基本動作に重要です。衝撃を吸収する軟骨や筋肉・靭帯が協調して動きます。

痛みの感じ方の多様性

痛みが生じる箇所は股関節の前面、側面、後面など多岐にわたり、ときには腰や膝に響くように感じる場合もあります。

慢性的な鈍痛や急性的な激痛、動き始めのみ痛むケースなど症状の出方はさまざまです。原因を明確にするためには症状の細かな特徴を把握する必要があります。

年齢とのかかわり

中年以降に発症する変形性股関節症は、長年の負荷による軟骨摩耗が主な原因とされますが、若年層でも先天性股関節脱臼や運動過多による炎症などで痛みを抱えることがあります。

年齢を問わず注意が必要です。

股関節の主な特徴

主な要素内容
関節の種類球関節(可動域が広い)
連動する部位骨盤、大腿骨、腰椎、周辺筋群
役割体重支持、歩行・屈伸運動、体幹の安定化
負担がかかりやすい理由体重を直接支える、常に動作に関与、衝撃を受けやすい

主な原因

股関の痛みや股関節周囲のトラブルを引き起こす原因にはさまざまな要因があります。

軟骨の劣化だけでなく、骨盤の傾きや筋力のアンバランス、けがなどが複合的に影響することも少なくありません。ここでは代表的な原因をいくつか挙げます。

変形性股関節症

日本人に多いとされる疾患で、軟骨がすり減って骨同士が近づき、炎症や痛みを起こす病態です。

初期には軽い違和感で済むこともありますが、進行すると歩行時の激痛や可動域の制限が目立ちやすくなります。特に女性に発症しやすい傾向があります。

関節リウマチやその他の炎症性疾患

自己免疫の異常で関節に炎症が起こり、股関の痛みに発展することがあります。

関節リウマチは手や足の小さな関節に症状が出るイメージが強いですが、股関節に影響が及ぶケースも報告されています。

けがや過度な運動

スポーツ中の衝突や転倒で股関節を強打すると、骨折や筋損傷のリスクがあります。

また、激しい運動を繰り返すことで腱や筋肉が炎症を起こすこともあり、慢性化すれば痛みが長引く恐れがあります。

股関節の原因を大きく分ける視点

  • 骨や軟骨の変性によるもの
  • 炎症や自己免疫の異常によるもの
  • 外傷や使いすぎによるもの
  • 先天的な関節構造の問題によるもの

しばらく休んでも痛みが軽減しない場合や、日常生活動作に支障が出るほどつらい症状がある場合は、整形外科の受診が必要です。

主な原因の比較

原因主な症状年齢層特徴
変形性股関節症歩行時の痛み、関節のこわばり中高年特に女性に多い。軟骨摩耗が主たる要因
関節リウマチこわばり、炎症、発熱感など年齢問わず自己免疫の異常。複数の関節に同時発症可能
けがや過度な運動打撲痛、炎症、骨折リスク若年~中年スポーツ外傷、転倒など急性に発生
先天性股関節脱臼の後遺症歩行時の違和感、変形性の進行若年~中年出生時の脱臼が原因。将来的に変形が進行する可能性あり

具体的な症状の現れ方

股関節周辺に現れる症状は、痛み以外にも多岐にわたります。見た目でははっきりわからなくても、関節の中では炎症や摩耗が着実に進行している場合があります。

症状を見逃さないようにするためにも、どのような変化が起こり得るのかを知っておくことが大切です。

歩行・動作時の痛み

股関の痛みとしてもっともわかりやすいのは、歩行や階段の上り下りの際に痛みが走るケースです。

足を踏み出すときや体重をかけるときに、ズキッとした鋭い痛みやじんわりとした違和感が現れることがあります。

座っているときの鈍痛

長時間座っているときや姿勢を変えたときに、股関節の奥が重だるく感じることがあります。

こうした症状は変形や炎症が進んでいるサインである可能性があり、放置すると悪化するリスクが高まります。

可動域の制限

痛みにより股関節を動かすのがつらくなり、開脚やあぐらができなくなるなど、関節の可動域が狭まることがあります。

関節周囲の筋力が低下すると、痛みだけでなく動きの柔軟性も失われやすくなります。

症状の特徴に関する一覧

症状具体的な特徴注意点
歩行時の痛み動き始めや階段昇降時に痛みが強くなる進行に伴い痛みが持続する場合がある
長時間座位での鈍痛じっとしていても痛みや重だるさが抜けにくい変形性股関節症が疑われることあり
関節の可動域制限開脚など大きな動作が困難になる日常動作にも影響を及ぼしやすい

診断方法と受診のタイミング

股関節の不調が疑われるとき、適切な診断によって原因を明確にすることが重要です。独自に判断してしまうと、症状を見過ごして長期間放置する危険性があります。

早めに受診し、医師による正しい評価を受けることが回復への近道となります。

画像検査の重要性

レントゲン撮影やMRI、CTなどを活用すると、関節の変形や軟骨のすり減り具合、炎症の有無を詳しく把握できます。

症状だけではわからない内部の状態を客観的に確認できるため、適切な治療方針を立てるうえで欠かせない方法です。

理学所見と問診

歩行状態や関節の動かし方などを医師が直接評価し、同時に患者の生活習慣や既往症を聞き取ることも大切です。

痛みが出るタイミングや部位、どのような動作で痛みが強まるのかを詳細に伝えることで、原因特定に近づきます。

受診のタイミング

軽度の違和感であっても、1~2週間継続する場合や症状が悪化傾向にある場合には受診を検討してください。

少し休めばよくなるだろうと放置しすぎると、回復が遅れたり痛みが慢性化したりする可能性があります。

受診の目安に関する観点

  • 痛みが2週間以上続いている
  • 階段や歩行動作に不自由を感じる
  • 仕事や家事など日常生活に影響が出ている
  • 痛みが徐々に強くなっている

診断に用いられる検査のまとめ

検査方法特徴目的
レントゲン骨の変形や隙間の狭さを確認変形性股関節症の有無などを把握
MRI軟骨や筋・腱など軟部組織の状態を詳細に確認軟骨損傷や炎症の評価
CT骨構造の3Dイメージを得やすい骨折や複雑な形状変化の把握
血液検査炎症マーカーやリウマチ因子などを測定自己免疫性の疾患などの判別

治療の進め方

股関の痛みや股関節の不快感に対する治療は、原因に応じて複数の方法を組み合わせることが多いです。

手術に頼るだけでなく、リハビリテーションや薬物療法、日常生活動作の見直しなど総合的にアプローチすることで、痛みの軽減と機能回復を目指します。

保存療法の概要

変形性股関節症などでは、まずリハビリテーションや薬物療法などの保存療法を試みます。痛み止めや消炎鎮痛剤を使用しながら、リハビリで筋力や柔軟性を高めることで症状緩和を図ります。

特に軽症~中等症段階では、保存的なケアで大きく改善するケースも多いです。

保存療法で意識したいポイント

  • 安静と適度な運動のバランス
  • 医師の指示に応じた薬の使用
  • 定期的な通院と状態の確認
  • 生活習慣の改善(体重管理など)

少しの痛みだからと放置するより、早い段階で保存療法を始めた方が回復を期待しやすいです。

手術療法の選択肢

保存療法で効果が得られない場合や、変形が重度に進行している場合は手術を検討します。

代表的な方法としては人工股関節置換術がありますが、症状や年齢、活動レベルによって適切な術式を決定します。手術後のリハビリを含め、長期的なプランを考えることが大切です。

リハビリテーションの意義

リハビリテーションでは筋力強化や関節可動域の向上を目指します。痛みを伴うからといってまったく動かさないと、筋力低下や関節拘縮を引き起こしてしまいます。

理学療法士の指導を受けながら無理のない範囲で継続することが望ましいです。

主な治療法と特徴

治療アプローチ特徴適用範囲
保存療法リハビリ・薬物療法軽症~中等症
手術療法人工股関節置換など重症や保存療法で改善しない場合
リハビリテーション筋力向上・可動域の改善全てのステージで有効
生活指導体重管理・姿勢指導予防・再発防止の観点で重要

日常生活でできる対策

股関節の負担を軽減するためには、普段の生活習慣を見直し、痛みを誘発しにくい環境を整えることが大切です。

急激な変化を加えるのではなく、少しずつ日常動作を調整して継続することが重要となります。

適度な運動

ウォーキングや軽いストレッチなど、関節に過度な負担をかけない運動を取り入れると、周囲の筋力を維持でき、痛みの再発予防や悪化防止につながります。

水中での歩行やエクササイズも衝撃が少なく、有用です。

体重管理

体重が増えると股関節への負担が増大し、痛みが強まる可能性があります。無理のない範囲で体重コントロールを行うことで、関節への負荷を軽減し、症状の悪化を防ぎやすくなります。

正しい姿勢と歩き方

猫背や骨盤が後傾した姿勢は股関節周辺の筋肉に余計な負担をかけます。意識的に背筋を伸ばし、つま先と膝の向きを揃えて歩くように心がけるだけでも、症状軽減に役立ちます。

日常生活を振り返る視点

  • 立ち上がりやすい椅子の高さに調整する
  • 長時間同じ姿勢でいないようにこまめに動く
  • 靴やサポーターなど装具を適切に利用する

股関節への負担を抑える工夫

生活習慣具体例期待できるメリット
軽めの有酸素運動ウォーキング、プールでの歩行筋力と柔軟性を維持し痛みの緩和に寄与
食習慣の改善野菜やたんぱく質を意識したバランスの良い食事体重管理を通じて股関節への負担を軽減
姿勢の再確認骨盤を立て、背筋を伸ばす意識股関節への局所負担が減り、痛みを起こしにくい
こまめな休憩同じ姿勢で座り続けず、休み時間に立ち上がり軽く動く血流促進と筋肉のこわばり予防

当院でのサポート内容

当院では、股関の痛みや股関節における症状に悩む方に幅広い治療法を提示し、患者一人ひとりの状態に合わせたプランを立てます。

医師、理学療法士、看護師が連携し、必要に応じて他の診療科とも協力して総合的なサポートを行います。

医師の診察と治療方針の提案

まずはしっかりと診察を行い、画像検査や問診から得られる情報をもとに、治療方針を立案します。

保存療法を中心に進めるか、手術を検討するか、患者の生活背景もふまえて決定します。

当院が重視している取り組み

  • 患者との対話を通じた正確な情報共有
  • 定期的なフォローアップと状態確認
  • 多職種チームの意見を取り入れた治療方針の立案
  • 痛みだけでなく全身的な健康維持をめざすサポート

理学療法士によるリハビリ指導

個別のリハビリメニューを作成し、ストレッチや筋力強化トレーニングを実施します。痛みがある場合でも安全に取り組めるよう、運動強度や方法を細かく調整します。

装具や生活指導の充実

必要に応じて杖やサポーターなどの装具を提案し、使い方を指導します。

さらに、日常生活の動作指導や栄養指導も行い、患者自身が痛みの原因と対策を理解して実践しやすいように努めています。

当院で行う主な治療・サポート

項目内容特徴
画像検査・診断レントゲン、MRI、CTなど多角的な評価原因特定に必要な情報を得やすい
保存的治療薬物療法、リハビリテーション、注射など痛みの軽減と機能回復を目指す
手術検討人工股関節置換術や骨切り術状態と生活背景に合わせて検討
生活指導姿勢・動作指導、体重管理、栄養アドバイス患者の主体的な取り組みを支援

よくある質問

痛みがあるときはなるべく動かさないほうがよいですか?

強い痛みが出ているときは一時的な安静も必要ですが、まったく動かさない期間が長いと筋力低下を招き、症状が改善しにくくなることも多いです。

医師や理学療法士の指示に従い、適度に関節を動かし続ける方が望ましいです。

手術を受けたほうがよいタイミングはどのように判断しますか?

保存的治療を行っても症状が改善しない場合や、変形が進行して日常生活が大きく制限されている場合に手術を検討します。

診察や画像検査の結果、患者の生活背景を総合的に評価して決定します。

体重を落とすと本当に痛みが軽減しますか?

過剰体重が股関節にかかる負担を増やすため、体重をコントロールすると痛みの軽減や進行の抑制が期待できます。

体重を落とすには食事バランスの見直しと適度な運動が有効ですが、無理なダイエットではなく医師や管理栄養士の助言を得ることを推奨します。

痛みが引いているときでも受診したほうがよいですか?

痛みが一時的におさまっていても、原因が解消されていない場合は再び痛むリスクがあります。

早めの段階で状態を把握することで、重症化を防ぎやすくなるため、少しでも違和感があるなら受診を検討するとよいでしょう。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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