股関節を痛めたときの対処と予防方法
急に股関節が痛くなると、「何か悪いことが起きたのでは?」と不安になります。股関節は、立つ、歩く、座るといった日常の基本的な動作を支える重要な関節です。
そのため、一度痛めると生活の質(QOL)に大きく影響します。股関節を痛めた場合、まずは慌てず、適切な初期対処を行うことが大切です。
その後、痛みの原因を探り、再発させないための予防策を日常生活に取り入れる必要があります。
この記事では、股関節を痛めた直後の対処法から、痛みの原因、そして将来的な予防につながるストレッチや生活習慣の改善点まで、幅広く解説します。
目次
股関節を痛めたときの初期症状とサイン
股関節を痛めた場合、体はさまざまなサインを出します。最も分かりやすいのは「痛み」ですが、それ以外にも注意すべき兆候があります。
どのような症状が出ているか、いつ、どんな動作で痛みを感じるかを把握することは、原因を特定し、適切に対処するための第一歩です。
痛みの特徴と場所
股関節の痛みは、現れる場所や感じ方が人によって異なります。最も多いのは、脚の付け根(そけい部)の痛みです。
しかし、痛みがお尻や太ももの外側、場合によっては膝のあたりまで広がることがあります。
「股関節が痛い」と感じていても、実際にはお尻や太ももの筋肉が原因であることも少なくありません。
痛みの感じ方も、「ズキッ」と鋭く痛む場合、「ジンジン」と鈍く痛む場合、あるいは「突っ張る」感じがするなど多様です。
急に痛めた場合は鋭い痛みが多く、慢性的な問題が背景にある場合は鈍い痛みが続く傾向があります。
痛み以外の兆候
痛み以外にも注意すべきサインがあります。例えば、股関節がスムーズに動かない「可動域制限」です。あぐらをかけない、靴下が履きにくい、爪が切りにくいといった動作が難しくなることがあります。
また、動かしたときに「ポキポキ」「ゴリゴリ」といった音が鳴る(クリック音)こともあります。音が鳴るだけですぐに問題があるとは限りませんが、痛みを伴う場合は注意が必要です。
さらに、股関節周りに力が入らない「脱力感」や、歩行時にバランスが取りにくい「不安定感」を感じることもあります。
初期症状のチェック
| チェック項目 | 具体的な症状例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 痛み | 脚の付け根、お尻、太ももの痛み | 痛む場所や痛みの種類(鋭い、鈍い)を確認する |
| 可動域 | 靴下が履きにくい、あぐらがかけない | 以前と比べて動きが悪くなっていないか確認する |
| その他の感覚 | 音が鳴る、力が入らない、歩きにくい | 痛みを伴う音や不安定感は特に注意する |
どのような動作で痛みが出やすいか
特定の動作で痛みが出るかどうかも重要な情報です。股関節を痛めると、体重がかかる動作で痛みが出やすくなります。
- 歩き始めの一歩目
- 階段の上り下り
- 椅子から立ち上がる瞬間
- 長時間座った後
- 車や電車の乗り降り
これらの動作は股関節に負担がかかりやすいため、痛みを誘発しやすいのです。また、寝返りをうつときや、横向きで寝ているときに痛む場合もあります。
痛めた原因として考えられること
股関節を痛める原因は多岐にわたります。スポーツ活動中に急激なひねりやジャンプ、ダッシュを行ったことで筋肉や腱、関節唇(かんせつしん)などを痛めることがあります。
これは「急性外傷」と呼ばれます。
一方で、日常生活での小さな負担が積み重なって痛みを引き起こす場合もあります。
例えば、長時間悪い姿勢で座っている、重い荷物を頻繁に持つ、左右非対称な体の使い方(片足に重心をかける癖など)が続くことで、股関節周りの筋肉や関節にじわじわとダメージが蓄積します。
股関節を痛めた直後にすべきこと(RICE処置)
スポーツや転倒などで股関節を急に強く痛めた場合、まずは応急処置が必要です。炎症や内出血を最小限に抑えるため、「RICE処置(ライスしょち)」と呼ばれる基本的な対処法を行います。
これは4つの行動の頭文字をとったものです。
安静(Rest)の重要性
痛めた直後は、まず「安静」にすることが最も重要です。痛みを感じる動作をすぐに中止し、股関節に体重がかからないようにします。
「大丈夫だろう」と無理に動かし続けると、損傷が悪化し、回復が遅れる原因になります。
可能であれば、椅子に座るか、横になって楽な姿勢をとります。歩かなければならない場合は、杖や松葉杖を使ったり、誰かに肩を借りたりして、患部への負担を減らす工夫をします。
冷却(Ice)の方法と時間
痛めた部分は炎症を起こし、熱を持っていることがあります。氷のう(アイスバッグ)やビニール袋に入れた氷を使い、患部を「冷却」します。
冷却スプレーやコールドパックでも代用できますが、凍傷を防ぐために、必ずタオルや布を一枚挟んでから当ててください。
1回の冷却時間は15分から20分程度を目安にします。感覚がなくなるほど冷やしすぎないよう注意が必要です。
痛みの程度によりますが、1時間から2時間の間隔をあけて、これを1日から2日程度繰り返します。
冷却(アイシング)のポイント
| 項目 | 方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 使用するもの | 氷のう、ビニール袋に入れた氷 | 氷が直接肌に触れないようタオルで包む |
| 時間 | 1回15分~20分 | 感覚が麻痺するほど冷やしすぎない |
| 頻度 | 1~2時間おきに繰り返す | 痛めてから24~48時間程度を目安にする |
圧迫(Compression)の注意点
患部の内出血や腫れを抑えるために、「圧迫」も有効です。弾性包帯(だんせいほうたい)やテーピング、サポーターなどを使って、痛めた股関節周りを適度に圧迫します。
ただし、強く締めすぎると血流が悪くなり、逆効果になることがあります。
圧迫した部分より末端(足先)がしびれたり、冷たくなったり、色が青白くなったりした場合は、すぐに緩めてください。特に就寝時は無意識に締め付けが強くなる可能性があるため、外すか、ごく軽く巻く程度にします。
挙上(Elevation)の効果
「挙上」は、患部を心臓よりも高い位置に保つことです。
股関節の場合、完全に心臓より高くするのは難しいですが、横になった状態で足の下にクッションや座布団、丸めたタオルなどを入れて、少しでも高くするよう試みます。
この処置により、重力を利用して内出血や腫れが早く引くのを助ける効果が期待できます。安静(Rest)と同時に行うと良いでしょう。
RICE処置はあくまで応急処置です。痛みが強い場合や、数日経っても痛みが引かない場合は、自己判断せず専門家に相談することが重要です。
痛みが少し落ち着いたら行うべきこと
急な痛みのピーク(急性期)が過ぎ、安静にしていてもズキズキ痛む状態から脱したら、次の段階に進みます。
痛めた直後は冷やすことが中心でしたが、これからは徐々に血行を促し、固まった関節や筋肉を動かしていく必要があります。ただし、決して無理は禁物です。
無理のない範囲での股関節の動かし方
痛みが少し和らいだからといって、急に以前と同じように動かすのは危険です。再発や悪化の原因になります。まずは、体重をかけない状態で股関節をゆっくりと動かすことから始めます。
仰向けに寝た状態で、膝を立て、ゆっくりと左右に倒す(ワイパーのように)、あるいは膝を胸に近づけたり離したりする運動(痛みが出ない範囲で)などを行います。目的は、関節や筋肉が固まってしまうのを防ぐことです。
温めるタイミング
痛めた直後の炎症期(RICE処置の時期)が過ぎたら、今度は「温める」ことを検討します。一般的に、痛めてから48時間(2日)から72時間(3日)程度が経過し、患部の熱感や腫れが引いてきたら、温めるタイミングです。
入浴(湯船につかる)や、蒸しタオル、カイロなどを利用して股関節周りを温めます。温めることで血行が良くなり、筋肉の緊張がほぐれ、痛みの物質が流れやすくなります。
ただし、温めてみて痛みが強くなるようであれば、まだ炎症が残っている可能性があるので中止し、冷却に戻します。
温めるか冷やすかの判断目安
| タイミング | 対処法 | 目的 |
|---|---|---|
| 痛めた直後(~48時間程度) | 冷やす(アイシング) | 炎症、腫れ、内出血を抑える |
| 痛みが落ち着いた後(慢性期) | 温める(入浴、カイロなど) | 血行促進、筋肉の緊張緩和 |
日常生活で気をつける姿勢
痛みが和らいできても、股関節に負担をかける姿勢は避けなければなりません。特に「座り方」は重要です。
柔らかすぎるソファや、低すぎる椅子は、股関節が深く曲がり負担がかかるため避けます。椅子に座るときは、足の裏が床にしっかりとつき、膝が股関節と同じか少し低いくらいの高さになるよう調整します。
また、足を組む癖や、横座り(お姉さん座り)、あぐらなども股関節にねじれのストレスを加えるため、控えるように意識します。
痛みを悪化させるNG行動
早く治したいという焦りから、良かれと思って行ったことが裏目に出ることもあります。痛みが残っている時期に、痛みを我慢してストレッチやマッサージを強くやりすぎるのは禁物です。
筋肉や関節がまだ修復過程にあるため、過度な刺激は組織を再び傷つける可能性があります。
また、痛いからといって全く動かさないでいると、逆に関節が固まり(拘縮)、可動域が狭くなってしまいます。安静は必要ですが、「過度な安静」は回復を遅らせます。
痛みが出ない範囲で、前述したような軽い運動を取り入れるバランスが大切です。
股関節の痛みを引き起こす主な原因
股関節を痛めたと言っても、その原因は一つではありません。スポーツによる怪我のように原因が明らかな場合もあれば、日常生活の積み重ねによってじわじわと痛みが出る場合もあります。
痛みの背景にあるものを理解することが、根本的な改善と予防につながります。
筋肉や腱の問題
股関節は多くの筋肉や腱(筋肉と骨をつなぐ組織)に囲まれています。
スポーツでの急なダッシュやジャンプで太ももの筋肉(大腿四頭筋やハムストリングス)や、お尻の筋肉(殿筋群)を痛める「肉離れ」は、股関節の痛みとして感じることがあります。
また、筋肉の使いすぎ(オーバーユース)によって腱が炎症を起こす「腱炎」や、股関節の付け根にある「腸腰筋」という筋肉が硬くなることでも痛みが生じます。
これらは、ランニングやサッカーなど、股関節を繰り返し曲げ伸ばしする動作で起こりやすいです。
関節自体の問題
痛みや違和感が長く続く場合、股関節の関節そのものに問題が隠れている可能性があります。
代表的なものに、加齢や体重の増加、あるいは生まれつきの骨の形状(臼蓋形成不全など)によって、関節のクッションである「軟骨」がすり減っていく状態があります。
この結果、骨同士がこすれ、炎症や痛みが起きます。
また、股関節の受け皿の縁にある「関節唇(かんせつしん)」という軟骨組織が、スポーツや日常生活の動作で傷つく「関節唇損傷」も、特に股関節を深く曲げたときの痛みの原因となります。
日常生活の癖や習慣
特定の怪我をしたわけでもないのに股関節が痛む場合、日常生活の無意識な癖が原因であることが非常に多いです。
例えば、いつも同じ側の肩にバッグをかける、立っているときに片足に重心をかける、椅子に浅く座って背中を丸める、足を組むといった癖です。
これらは骨盤の歪みを生じさせ、左右の股関節にかかる負担をアンバランスにします。このアンバランスな状態が長く続くと、負担が集中する側の股関節や周囲の筋肉が悲鳴を上げ、痛みとして現れます。
股関節に負担をかける日常の癖
| 癖の分類 | 具体的な行動 | 股関節への影響 |
|---|---|---|
| 立ち方 | 片足重心(休め)の姿勢 | 片側の股関節に過度な体重がかかる |
| 座り方 | 足を組む、横座り、あぐら | 股関節や骨盤にねじれのストレスがかかる |
| 持ち物 | いつも同じ側で荷物を持つ | 体のバランスが崩れ、骨盤が傾く |
スポーツによる使いすぎ
スポーツ選手や愛好家では、特定の動作の繰り返しによる「オーバーユース(使いすぎ)」が原因となります。ランニングやマラソンでは、着地の衝撃が繰り返し股関節に加わります。
サッカーや野球(特に投手)では、体を大きくひねる動作が股関節に負担をかけます。
適切なウォームアップやクールダウン、十分な筋力や柔軟性がないまま練習量だけが増えると、股関節周りの組織がダメージを回復できず、疲労骨折や炎症を引き起こすことにつながります。
股関節の痛みを予防する日常生活の工夫
股関節の痛みを一度経験すると、再発させないための予防が非常に重要になります。予防の鍵は、股関節にかかる「負担」をいかに減らすか、ということです。
日々の生活の中に潜む負担の原因を見直し、小さな工夫を積み重ねることが大切です。
適正体重の維持と食生活
股関節は、歩くだけでも体重の3倍から5倍の負荷がかかると言われています。つまり、体重が1kg増えるだけで、股関節には3kgから5kgの追加負担がかかる計算になります。
体重が重ければ重いほど、関節軟骨への圧力は増大します。
適正体重を維持することは、股関節予防の基本です。急激なダイエットは必要ありませんが、バランスの取れた食生活を心がけ、食べ過ぎに注意することが重要です。
特に、筋肉や骨、軟骨の材料となるタンパク質、カルシウム、ビタミンなどを意識して摂取することも、関節の健康維持に役立ちます。
靴選びのポイント
毎日履く靴も、股関節の負担に大きく関係します。デザイン性だけで選ばず、自分の足に合い、衝撃を和らげてくれる靴を選ぶことが重要です。
硬すぎる靴底や、薄すぎる靴底は、地面からの衝撃を直接体に伝えてしまいます。適度な厚みとクッション性がある靴を選びましょう。
また、かかとが不安定なハイヒールや、脱げやすいサンダルなどは、歩行時のバランスを崩し、股関節周りの筋肉に余計な緊張を強いるため、長時間の使用は避けるのが賢明です。
股関節に優しい靴の選び方
| ポイント | 推奨される特徴 | 避けた方が良い特徴 |
|---|---|---|
| クッション性 | 適度な厚みがあり、衝撃を吸収する靴底 | 薄すぎる、または硬すぎる靴底 |
| 安定性 | かかとをしっかりホールドするデザイン | ハイヒール、脱げやすいサンダル |
| フィット感 | 足の指が動き、紐で調節できる | つま先がきつい、サイズが合っていない |
座り方・立ち方・歩き方の見直し
無意識に行っている日常の動作を見直すことも、予防につながります。
座るときは、前述の通り、椅子に深く腰掛け、骨盤を立てる(背筋を伸ばす)ことを意識します。足の裏全体が床につく高さが理想です。
立つときは、左右の足に均等に体重をかけるように意識し、片足重心を避けます。
歩くときは、猫背になったり、反り腰になったりせず、頭のてっぺんから糸で吊られているようなイメージで、背筋を伸ばします。
歩幅を無理に広げすぎず、かかとから着地し、足の親指で地面を蹴るように意識すると、股関節への負担が減ります。
荷物の持ち方と工夫
重い荷物を持つことは、股関節に直接的な負担となります。できるだけ荷物を軽くする工夫が必要です。買い物の際はカートを利用する、一度に運ばず複数回に分ける、といった対応が有効です。
どうしても持たなければならない場合は、リュックサックを利用して両肩に重さを分散させるのが最も良い方法です。
ショルダーバッグやハンドバッグの場合は、こまめに左右を持ち替える癖をつけ、片側だけに負担が集中しないように注意します。
股関節の柔軟性を高めるストレッチ
股関節の痛みの原因の一つに、股関節周りの筋肉が硬くなる(柔軟性が低下する)ことがあります。
筋肉が硬いと、関節の動きが制限されるだけでなく、血行も悪くなり、痛みを感じやすくなります。
痛みが強い時期は禁物ですが、痛みが落ち着いてきたら、予防のために適度なストレッチを取り入れましょう。
お尻の筋肉(殿筋群)のストレッチ
お尻の筋肉(大殿筋や中殿筋)は、股関節を支える大きな筋肉です。ここが硬くなると、股関節の動きが悪くなります。
仰向けに寝て、片方の膝を両手で抱え、胸にゆっくりと引き寄せます。このとき、お尻の筋肉が伸びているのを感じながら、20秒から30秒キープします。反対側も同様に行います。
また、椅子に座った状態で、片方の足首を反対側の膝の上に乗せ(4の字を作る)、背筋を伸ばしたまま体を前に倒すストレッチも有効です。
太ももの内側(内転筋群)のストレッチ
太ももの内側にある内転筋群は、股関節を閉じる(内転させる)働きがあります。この筋肉が硬いと、あぐらや開脚がしにくくなります。
床に座り、両足の裏を合わせます(あぐらの形)。両手でつま先を持ち、背筋を伸ばします。そのまま、両膝をゆっくりと床に近づけるようにします。
無理に押さえつけず、股関節や太ももの内側が心地よく伸びる範囲でキープします。
太ももの前側(大腿四頭筋)のストレッチ
太ももの前側にある大腿四頭筋は、股関節を曲げる働きの一部も担っています。デスクワークなどで座っている時間が長いと、この筋肉が縮こまって硬くなりがちです。
横向きに寝て、上側の足の足首を持ち、かかとをお尻に近づけるようにして膝を後ろに引きます。
このとき、腰が反らないように注意し、太ももの前側が伸びるのを感じます。壁や椅子に手をついて立った状態で行うこともできます。
ストレッチ実施時の注意点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| タイミング | お風呂上がりなど、体が温まっているときが効果的 |
| 強さ | 「痛い」と感じる手前、「心地よく伸びる」強さで行う |
| 呼吸 | 息を止めず、ゆっくりと深い呼吸を続けながら行う |
| 反動 | 反動をつけず、じわーっと20~30秒かけて伸ばす |
| 痛み | ストレッチ中に痛みが出たり、終わった後に痛みが強くなったりする場合は中止する |
股関節周りの血行を促す軽い運動
ストレッチだけでなく、軽い運動で股関節周りの血行を促すことも予防に役立ちます。激しい運動は必要ありません。
仰向けに寝て、両膝を立てた状態から、かかとをお尻に近づけたり遠ざけたりする(床を滑らせる)運動や、自転車をこぐような運動(エア自転車こぎ)をゆっくりと行います。
また、水中ウォーキングは浮力によって股関節への負担を減らしながら筋肉を使えるため、痛みが落ち着いている時期のリハビリや予防として非常に有効です。
股関節を支える筋力を鍛えるトレーニング
股関節の柔軟性(ストレッチ)と並んで重要なのが、股関節を支える「筋力」です。股関節周りの筋肉がしっかりしていると、関節への負担を筋肉が吸収・分散してくれます。
関節を安定させる「天然のサポーター」を育てるイメージです。
お尻の横(中殿筋)を鍛える運動
股関節の安定性において、特に重要なのがお尻の横にある「中殿筋(ちゅうでんきん)」です。この筋肉は、歩行時に骨盤を支え、体が左右にブレるのを防ぐ役割があります。
横向きに寝て、下側の脚は膝を軽く曲げ、上側の脚は膝を伸ばします。そのまま、上側の脚をゆっくりと真上に持ち上げ、ゆっくりと下ろします。
このとき、体が前後に倒れないように、お腹に軽く力を入れておくのがコツです。10回程度を1セットとして、左右行います。
お腹の深層筋(インナーマッスル)の強化
股関節と直接つながっているわけではありませんが、体幹(胴体部分)を支えるお腹の深層筋(インナーマッスル)も重要です。体幹が安定すると、骨盤が安定し、結果として股関節への負担が減ります。
仰向けに寝て膝を立て、おへその下(丹田)あたりに意識を集中します。ゆっくりと息を吐きながら、お腹をへこませていきます。
そのままの状態で浅い呼吸を10秒から30秒続けます。これは「ドローイン」と呼ばれる基本的なトレーニングで、場所を選ばず行えます。
インナーマッスル強化の基本
| トレーニング名 | 方法 | ポイント |
|---|---|---|
| ドローイン | 仰向けで膝を立て、息を吐きながらお腹をへこませる | 腰を反らさず、肩の力を抜いて行う |
| プランク(簡易版) | 四つん這いから両肘を床につけ、膝を伸ばし体を一直線に保つ | お尻が上がったり下がったりしないよう意識する |
無理なく続けられるトレーニングのコツ
筋力トレーニングは、一度にたくさん行うことよりも、「継続」することが何よりも重要です。毎日10分でも良いので、日常生活に組み込むことが成功の鍵です。
例えば、「歯磨きをしながらドローインを行う」「テレビのCM中だけ中殿筋の運動を行う」など、自分の生活リズムに合わせてルール化すると続けやすくなります。
完璧を目指さず、まずは「昨日より1回多くやる」「3日間続ける」といった小さな目標を設定することから始めましょう。
痛みがあるときは運動を控える判断基準
予防のためのトレーニングであっても、やり方を間違えたり、その日の体調が悪かったりすると、かえって股関節を痛めることがあります。運動を行う際は、自分の体の声に耳を傾けることが大切です。
運動中に股関節に痛みを感じた場合、運動後に痛みが強くなった場合、または翌日になっても痛みが残っている場合は、その運動が合っていないか、負荷が強すぎるサインです。
その場合は、無理をせず運動を中止するか、回数や強度を減らしてください。
運動を中止・再開する目安
| 状況 | 判断 | 対処 |
|---|---|---|
| 運動中に軽い違和感がある | 注意して継続 | フォームを確認し、痛みに変わらないか注意する |
| 運動中に明らかな痛みが出た | 即時中止 | その日の運動は休み、必要なら冷やす |
| 運動の翌日に痛みが残った | 負荷が強すぎる | 運動量を減らすか、1日休んで様子を見る |
Q&A
股関節を痛めたときに関して、多くの方が抱く疑問についてお答えします。
股関節を痛めたら、歩かない方が良いですか?
痛めた直後(急性期)で、歩くとズキズキ痛む場合は、無理に歩くべきではありません。RICE処置を行い、安静を優先します。
ただし、痛みが落ち着いてきたら、全く歩かないのも問題です。筋肉が衰え、関節が硬くなってしまいます。
痛みの出ない範囲で、短い距離から歩行を再開するか、水中ウォーキングなど負担の少ない運動から始めるのが良いでしょう。
湿布は温かいものと冷たいもの、どちらが良いですか?
これはタイミングによります。痛めた直後で、患部が熱っぽく、腫れているような炎症症状がある場合は、「冷湿布(冷感タイプ)」が適しています。炎症を抑える助けになります。
一方、痛めてから数日が経過し、熱感や腫れは引いたものの、鈍い痛みやこわばりが続く時期(慢性期)には、「温湿布(温感タイプ)」が良い場合があります。
血行を促進し、筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。どちらも皮膚がかぶれないよう注意して使用してください。
股関節が痛いとき、どのような寝方が楽ですか?
楽な寝方は人によって異なりますが、いくつか試せる工夫があります。
仰向けで寝る場合は、膝の下にクッションや丸めたバスタオルを入れ、股関節が少し曲がった状態にすると、筋肉の緊張が和らぎ楽になることがあります。
横向きで寝る場合は、痛い方を上にして、両膝の間にクッションや抱き枕を挟むと、上の脚が下に落ち込まず、股関節が安定しやすくなります。
サポーターやコルセットは使った方が良いですか?
股関節用のサポーターや、骨盤を安定させるコルセット(骨盤ベルト)は、痛みが強い時期に一時的に使用すると、股関節の安定性を高め、動作を助けてくれる場合があります。
特に、歩行時や立ち仕事の際に不安がある場合には有効です。
ただし、長期間頼りすぎると、本来働くべき自分自身の筋肉(インナーマッスルなど)が弱ってしまう可能性があります。
痛みがある程度落ち着いたら、徐々に外す時間を増やし、前述したような筋力トレーニングで自分の筋肉を鍛えていくことが根本的な解決につながります。
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