足立慶友医療コラム

膝の水が溜まる症状と病名からみる原因特定

2025.05.12

膝に水が溜まるという症状は、多くの方が経験する可能性のある身近な問題です。

膝の腫れや痛み、動かしにくさを感じ、「なぜ水が溜まるのだろう」「どんな病気が考えられるのだろう」と不安に思うかもしれません。

この記事では、膝に水が溜まる状態とは何か、その主な症状、原因となる代表的な病気、そして医療機関での検査や受診の目安について、分かりやすく解説します。

ご自身の状態を理解し、適切な対応を考えるための一助となれば幸いです。

膝に水が溜まるとはどういう状態か

膝に水が溜まる、医学的には関節水腫(かんせつすいしゅ)と呼ばれるこの状態は、膝関節を構成する関節包という袋の中に、通常よりも多くの関節液が溜まってしまうことを指します。

多くの場合、膝関節内部で何らかの異常が起きているサインと考えられます。

関節液の役割と正常な量

関節液は、関節を滑らかに動かす潤滑油のような役割や、関節軟骨へ栄養を供給する大切な役割を担っています。

健康な膝関節にも、ごく少量の関節液(通常は数ミリリットル程度)が存在し、関節の動きをスムーズにしています。

この関節液は、関節包の内側を覆う滑膜(かつまく)という組織で作られ、吸収されることで常に一定の量に保たれています。

関節液の主な成分と機能

成分主な機能備考
ヒアルロン酸潤滑、衝撃吸収関節液の粘り気の元
糖タンパク質潤滑ルブリシンなど
水分・電解質軟骨への栄養供給滑膜から供給

水が溜まる(関節水腫)とは

関節水腫は、何らかの原因で滑膜が刺激されたり炎症を起こしたりすると、関節液の産生が過剰になったり、吸収が悪くなったりすることで発生します。

その結果、関節包内に関節液が異常に溜まり、膝が腫れぼったく感じたり、実際に腫れてきたりします。

溜まる液体の量は、原因や炎症の程度によって異なり、時には数十ミリリットル以上になることもあります。

なぜ膝に水が溜まりやすいのか

膝関節は、立ったり歩いたりする際に体重を支える大きな荷重関節であり、日常的に大きな負担がかかっています。

また、スポーツなどで複雑な動きをすることも多く、靭帯や半月板といった組織を損傷しやすい部位でもあります。

これらの理由から、膝関節は炎症や損傷が起こりやすく、結果として水が溜まりやすい関節の一つと言えます。

水の色や性状からわかること

関節穿刺(かんせつせんし)によって採取した関節液の色や透明度、粘り気などを調べることで、水が溜まっている原因を推測する手がかりが得られることがあります。

正常な関節液は淡黄色透明で、粘り気があります。

関節液の性状と推定される状態

色・性状推定される主な状態補足
淡黄色透明(粘稠性あり)正常または変形性膝関節症の初期など炎症が軽度
黄色混濁(粘稠性低下)炎症性疾患(関節リウマチなど)、変形性膝関節症の進行期白血球数の増加
血液様(血性)外傷(靭帯損傷、半月板損傷、骨折など)、出血傾向のある疾患新鮮血か陳旧血かで判断
白色~黄白色(膿性)化膿性関節炎(細菌感染)緊急の対応が必要
米のとぎ汁様偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶)結晶の存在

ただし、これらはあくまで目安であり、確定診断のためには他の検査結果と合わせて総合的に判断することが重要です。

膝に水が溜まったときの主な症状

膝に水が溜まると、様々な症状が現れます。これらの症状は、日常生活の質を大きく低下させる可能性があります。

症状の出方や強さには個人差があり、原因となる病気によっても異なります。

膝の腫れと見た目の変化

最も分かりやすい症状は、膝全体の腫れです。普段と比べて膝が丸く膨らんだり、お皿の骨(膝蓋骨)の輪郭が分かりにくくなったりします。

左右の膝を見比べると、腫れている側の膝が明らかに大きいことに気づくでしょう。腫れが強い場合は、皮膚がパンパンに張った感じになることもあります。

痛みや熱感の程度

痛みは、水が溜まる原因や炎症の程度によって様々です。ズキズキとした持続的な痛み、動かしたときだけ痛む、押すと痛む(圧痛)などがあります。

炎症が強い場合は、膝に熱っぽさ(熱感)を感じることもあります。安静にしていても痛みが続く場合は、注意が必要です。

痛みの特徴と関連する可能性

痛みの特徴考えられる状況対処のポイント
動かすと痛む変形性膝関節症、半月板損傷など無理のない範囲での活動
安静時も痛む強い炎症、感染症、骨折など早期の医療機関受診
ズキズキする痛み急性炎症、痛風発作など冷却や安静

膝の動かしにくさと可動域制限

水が溜まることで関節内部の圧力が上昇し、膝の曲げ伸ばしがしにくくなります。特に、正座や深くしゃがみ込む動作が困難になることが多いです。

関節の可動域(動かせる範囲)が狭まり、日常生活での些細な動きにも支障が出ることがあります。無理に動かそうとすると痛みが強まることもあります。

日常生活への影響

膝の腫れ、痛み、動かしにくさは、歩行、階段昇降、立ち座りといった日常的な動作を困難にします。

これにより、外出がおっくうになったり、仕事や家事に支障が出たりするなど、生活の質(QOL)が低下する可能性があります。

  • 歩行時の不安定感
  • 階段の上り下りの困難
  • 長時間立っていることの辛さ
  • 寝返り時の痛み

これらの症状が続く場合は、我慢せずに医療機関に相談することが大切です。

膝に水が溜まる原因となる代表的な病気(外傷性)

スポーツ活動中や日常生活での転倒、事故など、膝に急激な外力が加わることで起こる怪我(外傷)は、膝に水が溜まる一般的な原因です。

特に、関節内部の組織が損傷すると、出血や強い炎症反応が生じ、関節液が過剰に分泌されます。

前十字靭帯損傷

前十字靭帯は、膝関節の中で大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぎ、膝の安定性を保つ重要な靭帯の一つです。

スポーツ中のジャンプの着地時や急な方向転換、ストップ動作などで損傷しやすいことで知られています。

受傷機転と症状

受傷時には、「ブチッ」という断裂音を感じたり、膝がガクッと外れるような感覚(膝くずれ)を伴ったりすることがあります。

受傷直後から強い痛みと腫れが現れ、歩行が困難になることも少なくありません。時間の経過とともに関節内に血液が溜まり(関節血腫)、膝全体が大きく腫れ上がります。

水が溜まる特徴

前十字靭帯損傷では、靭帯自体や周囲の血管が損傷するため、関節内に出血が生じやすく、急速に関節血腫が形成されます。

そのため、水(血液)が溜まるスピードが速く、腫れも顕著になる傾向があります。

半月板損傷

半月板は、膝関節の大腿骨と脛骨の間にあるC型をした軟骨様の組織で、内側と外側にそれぞれ存在します。クッションのように衝撃を吸収したり、関節の安定性を高めたりする役割があります。

スポーツ時のひねり動作や、加齢による変性で損傷することがあります。

受傷機転と症状

スポーツ外傷では、体重がかかった状態で膝をひねった際に損傷することが多いです。

症状としては、膝の痛み、ひっかかり感、動かしたときのクリック音、特定の角度で膝が動かなくなる「ロッキング」現象などが見られます。

損傷の部位や程度によっては、すぐには強い症状が出ず、徐々に水が溜まってくることもあります。

水が溜まる特徴

半月板損傷では、損傷部位からの炎症反応により、滑膜が刺激されて関節液が過剰に分泌されます。

前十字靭帯損傷ほど急速ではありませんが、慢性的に水が溜まりやすい状態になることがあります。血流のある辺縁部での損傷では、関節内に出血を伴うこともあります。

半月板損傷のタイプと水の溜まりやすさ

損傷タイプ特徴水の溜まりやすさ
縦断裂・横断裂比較的安定している場合もある中程度、炎症による
バケツ柄状断裂ロッキングの原因となりやすい強い炎症を伴いやすい
変性断裂加齢に伴うものが多い慢性的に溜まりやすい

膝関節内骨折

膝関節を構成する骨(大腿骨、脛骨、膝蓋骨)が、交通事故や高所からの転落などの強い外力によって折れてしまう状態です。

骨折線が関節面に達している場合、関節内に出血が起こり、水(血液)が溜まります。

代表的な骨折部位

膝関節内骨折で多いのは、脛骨高原骨折(すねの骨の関節面)、大腿骨顆部骨折(太ももの骨の関節面)、膝蓋骨骨折(お皿の骨)などです。

これらの骨折は、関節軟骨の損傷を伴うことも多く、治療が難しい場合があります。

水が溜まる特徴(血腫)

骨折に伴う関節内出血(血腫)は、受傷後比較的早期に現れ、膝は大きく腫れ上がります。強い痛みと機能障害を伴い、多くの場合、早期の手術治療が必要となります。

関節液に脂肪滴が混じることがあり(脂肪血腫)、これは骨髄からの出血を示唆する所見です。

膝に水が溜まる原因となる代表的な病気(非外傷性・炎症性)

明らかな怪我の記憶がないにも関わらず、膝に水が溜まることがあります。これらは主に、加齢や体質、免疫系の異常などに関連する炎症性の病気が原因です。

徐々に症状が進行する場合もあれば、急激に悪化する場合もあります。

変形性膝関節症

変形性膝関節症は、加齢や肥満、過去の膝の怪我などを背景に、膝関節の軟骨がすり減り、骨の変形や炎症が生じる病気です。

中高年以降の方に多く見られ、進行すると歩行が困難になるなど、生活に大きな影響を与えます。

加齢との関係

年齢とともに膝の軟骨は弾力性を失い、すり減りやすくなります。また、長年の使用による負担の蓄積も、発症に関与します。

初期には自覚症状がないこともありますが、進行するにつれて、動作開始時の痛みやこわばり、階段昇降時の痛みなどが現れます。

炎症と水の貯留

軟骨がすり減ると、その破片が滑膜を刺激し、炎症を引き起こします。この炎症反応によって滑膜からの関節液産生が亢進し、膝に水が溜まります。

水が溜まると膝の腫れや重だるさを感じ、痛みが強まることもあります。炎症が強い時期には、安静時にも痛みを感じることがあります。

変形性膝関節症の進行度と水の貯留

進行度主な状態水の貯留傾向
初期軟骨の軽度な摩耗軽度、または溜まらないことも
進行期軟骨の広範な摩耗、骨棘形成中程度~高度、炎症に伴い増減
末期軟骨の消失、骨の変形著明炎症が強い時期に溜まりやすい

関節リウマチ

関節リウマチは、免疫系の異常により、自分自身の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患の一つです。手足の指の関節から発症することが多いですが、膝関節にも炎症が起こり、水が溜まることがあります。進行すると関節の破壊や変形をきたすため、早期発見・早期治療が重要です。

自己免疫疾患としての特徴

関節リウマチでは、関節を覆う滑膜に慢性的な炎症(滑膜炎)が起こります。この滑膜炎が関節液の過剰な産生を引き起こし、関節水腫の原因となります。

朝のこわばり、複数の関節の腫れや痛みが特徴的な症状です。

膝関節への影響

膝関節が関節リウマチに侵されると、持続的な痛みや腫れ、熱感が生じます。水が溜まることも多く、進行すると軟骨や骨が破壊され、膝の機能が著しく低下します。

近年では、生物学的製剤などの効果的な治療薬の登場により、病気の進行を抑えることが可能になってきています。

痛風・偽痛風(結晶誘発性関節炎)

痛風や偽痛風は、関節内に関節液中に結晶が析出し、それが原因で急性の炎症を引き起こす病気です。突然、膝などの関節が赤く腫れ上がり、激しい痛みに襲われます。

これを痛風発作(偽痛風発作)と呼びます。

尿酸結晶とピロリン酸カルシウム結晶

痛風は、血液中の尿酸値が高い状態(高尿酸血症)が続くことで、尿酸ナトリウムの結晶が関節内に析出して起こります。

一方、偽痛風は、ピロリン酸カルシウム二水和物の結晶が関節軟骨や半月板に沈着し、それが剥がれ落ちて関節内に遊離することで炎症を引き起こします。偽痛風は高齢者に多く見られます。

急性炎症と関節水腫

これらの結晶が関節内に存在すると、白血球が結晶を異物と認識して攻撃し、強い炎症反応が起こります。その結果、関節液が急激に増加し、関節水腫を伴う激しい痛みと腫れが生じます。

膝関節は、痛風発作や偽痛風発作が起こりやすい部位の一つです。

膝に水が溜まるその他の原因

これまで挙げた代表的な病気以外にも、膝に水が溜まる原因はいくつか存在します。中には緊急性の高いものや、比較的稀な病気も含まれます。

化膿性膝関節炎(感染症)

化膿性膝関節炎は、細菌が膝関節内に侵入し、感染・増殖することで起こる重篤な病気です。

関節が急激に腫れ上がり、激しい痛み、熱感、発赤といった症状に加え、高熱や悪寒などの全身症状を伴うこともあります。

細菌感染のリスク

細菌は、皮膚の傷口から直接侵入する場合や、体内の他の部位の感染巣から血流に乗って関節に到達する場合があります。

糖尿病や免疫抑制状態にある方、高齢者などは感染のリスクが高まります。関節注射などの医療行為に伴って稀に発生することもあります。

緊急性の高い状態

化膿性膝関節炎は、迅速な診断と治療(抗菌薬の投与や関節洗浄など)を開始しないと、関節軟骨が短期間で破壊され、永続的な機能障害を残す可能性があります。

疑わしい症状がある場合は、直ちに医療機関を受診する必要があります。

化膿性膝関節炎の主な兆候

  • 急激な膝の腫れと激痛
  • 膝の著明な熱感と発赤
  • 高熱、悪寒、倦怠感

滑膜骨軟骨腫症

滑膜骨軟骨腫症(かつまくこつなんこつしゅしょう)は、関節を覆う滑膜が異常に増殖し、軟骨や骨のかけら(遊離体、通称「関節ねずみ」)を多数作り出す比較的稀な良性の腫瘍性疾患です。

これらの遊離体が関節内を動き回り、刺激を与えることで水が溜まったり、痛みを引き起こしたりします。

関節内にできる良性腫瘍

原因は不明ですが、若年~中年の男性にやや多く見られます。膝関節は好発部位の一つです。

遊離体が関節の隙間に挟まると、急な痛みやロッキング(膝が動かなくなる)症状が出ることがあります。

刺激による水の貯留

多数の遊離体が滑膜を慢性的に刺激することで、関節液の産生が過剰になり、水が溜まりやすくなります。

診断はレントゲンやMRIで行い、症状が強い場合は関節鏡手術で遊離体の摘出や滑膜の切除を行います。

スポーツや過度な運動による一時的な炎症

普段あまり運動をしない人が急に激しい運動をしたり、長時間のランニングやジャンプ動作を繰り返したりすると、膝関節に一時的な炎症が起こり、水が溜まることがあります。

これは、関節への過度な負荷や使いすぎ(オーバーユース)による反応と考えられます。

通常は安静にすることで数日~数週間で改善することが多いですが、症状が長引く場合や繰り返す場合は、他の原因が隠れている可能性もあるため、医療機関への相談を検討しましょう。

オーバーユースによる膝の不調

要因膝への影響対処法
急な運動量の増加関節・周囲組織への過負荷段階的な運動量の調整
不適切なフォーム特定部位へのストレス集中フォームの確認・修正
不十分なウォーミングアップ・クールダウン筋肉・関節の準備不足、疲労蓄積適切な実施

膝に水が溜まったときの検査と診断

膝に水が溜まった場合、その原因を正確に特定するためには、医療機関での詳細な検査が必要です。

医師は、患者さんの症状や状況を詳しく聞き取り、身体所見を確認した上で、必要な画像検査や関節液の検査などを組み合わせて診断を進めます。

問診と視診・触診

まず、医師は患者さんから症状について詳しく話を聞きます(問診)。いつから、どのようなきっかけで症状が出現したか、痛みの性質や程度、日常生活での困りごとなどを確認します。

その後、膝の状態を直接見て(視診)、腫れの程度や範囲、皮膚の色調変化などを観察します。さらに、膝に触れて(触診)、熱感の有無、圧痛の部位、水の溜まり具合(波動の有無)、膝蓋骨の動きなどを評価します。

関節の可動域や不安定性の有無もこの段階で確認します。

問診で確認する主な項目

  • 症状の発生時期・きっかけ
  • 痛みの部位・性質・強さ
  • 腫れの程度・経過
  • 過去の膝の怪我や病気の有無
  • スポーツ歴や仕事内容
  • 全身疾患(糖尿病、リウマチなど)の有無

画像検査の重要性

画像検査は、膝関節内部の状態を視覚的に評価し、骨や軟骨、靭帯、半月板などの異常を捉えるために非常に重要です。原因に応じて適切な検査法を選択します。

レントゲン検査

レントゲン(X線)検査は、骨の形状や骨折の有無、関節の隙間の広さ(軟骨の厚みの間接的な評価)、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成などを確認する基本的な画像検査です。

変形性膝関節症の進行度評価や、骨折の診断に有用です。

MRI検査

MRI(磁気共鳴画像)検査は、レントゲンでは描出できない軟部組織(靭帯、半月板、軟骨、筋肉、滑膜など)の状態を詳細に評価できる検査です。

前十字靭帯損傷や半月板損傷、軟骨損傷、炎症の範囲などの診断に極めて有用です。関節水腫の量や分布も正確に把握できます。

超音波検査

超音波(エコー)検査は、リアルタイムに関節やその周囲の軟部組織の状態を観察できる簡便な検査です。関節水腫の有無や量、滑膜の肥厚や炎症の程度、靭帯や腱の損傷などを評価できます。

また、関節穿刺を行う際のガイドとしても利用されます。

主な画像検査と評価できること

検査方法主な評価対象特徴
レントゲン検査骨の変形、骨折、関節裂隙基本的な検査、被曝あり
MRI検査靭帯、半月板、軟骨、滑膜、骨髄軟部組織の描出に優れる、時間がかかる
超音波検査関節水腫、滑膜、靭帯・腱簡便、リアルタイム評価、被曝なし

関節穿刺と関節液検査

関節穿刺は、膝関節に細い針を刺して関節液を吸引する処置です。診断目的と治療目的(溜まった水を抜いて症状を軽減する)で行われます。

吸引した関節液は、その色調や透明度、粘稠性などを肉眼で観察するとともに、必要に応じて検査室で詳細な分析(関節液検査)を行います。

目的と手順

診断目的では、関節液の性状から炎症の種類や程度を推測したり、細菌や結晶の有無を確認したりします。清潔操作のもと、局所麻酔を行ってから穿刺するのが一般的です。

治療目的では、多量に溜まった水を抜くことで関節内圧を下げ、痛みや腫れを軽減させます。場合によっては、穿刺後にステロイドなどの薬剤を関節内に注入することもあります。

検査でわかること

関節液検査では、白血球数やその分画、結晶の有無(痛風、偽痛風)、細菌培養(化膿性関節炎)、リウマトイド因子などを調べます。

これらの結果は、膝に水が溜まっている原因疾患の特定や治療方針の決定に役立ちます。

膝の水を放置するリスクと受診の目安

膝に水が溜まるという症状は、身体からの重要なサインです。これを軽視して放置すると、原因となっている病気が進行したり、膝の機能に長期的な悪影響が及んだりする可能性があります。

適切なタイミングで医療機関を受診し、専門家のアドバイスを受けることが大切です。

放置による症状の悪化

膝に水が溜まっている状態を放置すると、原因疾患によっては炎症が慢性化し、痛みが持続したり、腫れが引かなくなったりすることがあります。

例えば、変形性膝関節症の場合、炎症が続くことで軟骨の破壊がさらに進む可能性があります。また、靭帯損傷や半月板損傷を放置すると、膝の不安定性が増し、二次的に他の部位を傷めるリスクも高まります。

関節機能への長期的な影響

慢性的な関節水腫やその原因となる病気の進行は、膝関節の可動域制限を悪化させたり、筋力低下を招いたりします。

これにより、歩行能力が低下し、日常生活での活動範囲が狭まるなど、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす可能性があります。

特に、関節軟骨の損傷が進行すると、元に戻すことは困難であり、将来的に人工関節置換術などの手術が必要になることもあります。

放置による潜在的リスク

リスク具体的な影響
原因疾患の進行軟骨破壊、靭帯・半月板のさらなる損傷
慢性的な痛み・腫れ日常生活の質の低下
可動域制限・筋力低下歩行困難、転倒リスク増加
関節変形の進行将来的な手術の必要性

医療機関を受診すべきタイミング

以下のような場合には、自己判断せずに整形外科などの医療機関を受診することを推奨します。

  • 明らかな外傷(怪我)の後に膝が腫れてきた場合
  • 原因が思い当たらないのに膝の腫れや痛みが続く場合
  • 膝の腫れとともに、強い痛み、熱感、発赤がある場合
  • 膝が完全に曲げ伸ばしできない、または体重をかけられない場合
  • 症状が徐々に悪化している、または数日経っても改善しない場合

特に、急激な症状の悪化や高熱を伴う場合は、化膿性関節炎などの緊急性の高い状態も考えられるため、速やかな受診が重要です。

家庭でできる応急処置とその限界

膝に水が溜まって痛みや腫れがある場合、応急処置としてRICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)が有効な場合があります。

具体的には、膝を無理に動かさず安静にし、氷嚢などで炎症部位を冷やし(15~20分程度)、弾性包帯などで軽く圧迫し、心臓より高い位置に足を挙げる、といった対応です。

しかし、これらはあくまで一時的な症状緩和を目的としたものであり、根本的な原因解決にはなりません。症状が続く場合は、必ず医療機関で適切な診断と治療を受けてください。

よくある質問

膝に水が溜まる症状に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその一般的な回答をまとめました。

ただし、個々の状態によって最適な対応は異なりますので、詳しくは主治医にご相談ください。

膝の水を抜くと癖になりますか

「水を抜くと癖になる」という話を耳にすることがありますが、医学的に水を抜く行為自体が癖になる(=水を溜まりやすくする)ということはありません。

水が繰り返し溜まるのは、水を溜める原因となる病気や炎症が治まっていないためです。関節穿刺は、診断や症状緩和のために必要な処置であり、原因に対する治療を並行して行うことが重要です。

膝に水が溜まったら温めるべきですか、冷やすべきですか

一般的に、急性の炎症があり、熱感や強い腫れがある時期(例えば、怪我の直後や痛風発作時など)は、炎症を抑えるために冷やす(アイシング)ことが推奨されます。

一方、慢性的な痛みで、血行不良が原因の一つと考えられる場合(例えば、変形性膝関節症の慢性期で熱感がない場合など)は、温めることで症状が和らぐこともあります。

ただし、自己判断は難しいため、医師や理学療法士の指示に従うのが安全です。

温めるか冷やすかの一般的な目安

状態推奨される対応理由
急性期(腫れ、熱感、ズキズキする痛み)冷却(アイシング)炎症を抑える、痛みを和らげる
慢性期(鈍い痛み、こわばり、熱感なし)温熱(ホットパックなど)血行促進、筋肉の緊張緩和

どのような運動なら行っても良いですか

膝に水が溜まっている原因や程度によって、行っても良い運動は異なります。一般的には、膝に負担の少ない水中ウォーキングやエアロバイクなどが推奨されることが多いです。

筋力低下を防ぐために、太ももの筋肉(大腿四頭筋など)を鍛える運動も重要ですが、痛みを伴う場合は中止し、医師や理学療法士に相談しながら行うようにしましょう。

自己流での無理な運動は症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。

予防のためにできることはありますか

膝に水が溜まるのを完全に予防することは難しいですが、リスクを減らすためにできることはあります。まず、適正体重を維持することは、膝への負担を軽減する上で非常に重要です。

また、太ももや膝周りの筋力をバランス良く鍛えることで、関節の安定性を高めることができます。運動前後の適切なウォーミングアップやクールダウン、正しいフォームでの運動も怪我の予防につながります。

変形性膝関節症の進行予防としては、膝に優しい生活習慣(正座を避ける、洋式の生活様式を取り入れるなど)も考慮すると良いでしょう。何か異常を感じたら早めに医療機関に相談することも、重症化を防ぐ上で大切です。

以上

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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