高齢者の膝の痛み|年齢による症状と予防法
「立ち上がる時に膝がズキッとする」「階段の上り下りがつらい」など、年齢を重ねるにつれて膝の痛みに悩む方は少なくありません。
この痛みは、単なる年齢のせいだと諦めていませんか。高齢者の膝の痛みの背景には、加齢による体の変化が大きく関わっていますが、その原因は一つではありません。
原因を正しく知り、ご自身の症状と照らし合わせることが、痛みを和らげ、これからの生活をより快適に過ごすための第一歩です。
この記事では、なぜ高齢になると膝が痛むのか、その原因から、ご自身でできる予防法や対処法、医療機関での対応まで、網羅的に詳しく解説します。
目次
なぜ年齢を重ねると膝は痛くなるのか
多くの方が経験する高齢期の膝の痛み。その背景には、長年体を支えてきた膝関節に起こる、いくつかの避けがたい変化が存在します。
これらの変化が複合的に絡み合うことで、痛みや動かしにくさが現れます。ここでは、膝の痛みを引き起こす主な身体的変化について掘り下げていきます。
加齢による軟骨のすり減り
膝関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)の間にあり、その表面は「関節軟骨」という滑らかで弾力性のある組織で覆われています。
この軟骨は、関節がスムーズに動くための潤滑油の役割と、歩行や走行時の衝撃を吸収するクッションの役割を担っています。
しかし、長年の使用により、この軟骨は徐々にすり減っていきます。軟骨には血管が通っていないため、一度すり減ると自然に再生することはほとんどありません。
軟骨が薄くなると、骨同士が直接こすれ合うようになり、これが炎症や痛みを引き起こすのです。特に高齢者では、この軟骨の摩耗が膝の痛みの最も一般的な原因の一つと考えられています。
軟骨の主な役割
役割 | 内容 | 機能低下による影響 |
---|---|---|
衝撃吸収 | 歩行やジャンプ時の衝撃を和らげる | 骨への直接的な衝撃が増え、痛みの原因になる |
潤滑 | 関節の滑らかな動きを助ける | 動きがぎこちなくなり、摩擦で炎症が起きやすくなる |
筋力の低下と膝への負担増
膝関節を安定させるためには、太ももの筋肉(特に大腿四頭筋)が非常に重要な働きをします。この筋肉が、いわば天然のサポーターとして膝を支え、関節にかかる負担を軽減しています。
しかし、加齢や運動不足によって筋力は徐々に低下します。特に高齢期には筋力の衰えが顕著になり、膝を十分に支えきれなくなります。
このことにより、関節軟骨や半月板、靭帯といった組織への負担が直接的に増加し、損傷や炎症、痛みを引き起こしやすくなります。
筋力が低下すると、歩行時の安定性も損なわれ、転倒のリスクも高まるため注意が必要です。
体重増加の影響
膝は、体を支える重要な関節であり、体重の影響を直接受けます。一般的に、歩行時には体重の約3倍、階段の上り下りでは約7倍もの負荷が膝にかかるといわれています。
もし体重が1kg増えれば、膝への負荷はその数倍に増幅される計算です。
中年期以降、基礎代謝の低下などから体重が増加しやすくなりますが、この体重増加が膝の痛みを引き起こしたり、悪化させたりする大きな要因となります。
過度な体重は、関節軟骨のすり減りを加速させるだけでなく、関節の炎症を助長することもあります。適正体重を維持することは、膝の健康を守る上で非常に重要です。
体重と膝への負荷の関係
行動 | 膝にかかる負荷の目安 | 体重60kgの場合の負荷 |
---|---|---|
平地の歩行 | 体重の2~3倍 | 120kg~180kg |
階段の上り | 体重の4~5倍 | 240kg~300kg |
階段の下り | 体重の6~7倍 | 360kg~420kg |
過去のケガや病気の後遺症
若い頃に経験したスポーツによる半月板損傷や靭帯損傷、骨折などのケガが、数十年を経て膝の痛みの原因となることがあります。
これらのケガは、関節の安定性を損なったり、軟骨にダメージを与えたりするため、将来的に変形性膝関節症を発症するリスクを高めます。
また、関節リウマチや痛風といった全身性の病気も、膝関節に炎症を引き起こし、痛みの原因となります。
過去に膝に何らかの問題を抱えた経験がある場合は、加齢とともに関節の状態が変化し、痛みが現れやすくなる傾向があります。
年齢で見る膝の痛みの特徴と主な原因疾患
「膝の痛み」と一言でいっても、その原因となる病気はさまざまです。そして、発症しやすい病気は年代によってある程度の傾向が見られます。
ご自身の年齢や症状と照らし合わせることで、痛みの原因を推測する手がかりになるかもしれません。ここでは、年代別にみられる膝の痛みの特徴と、代表的な原因疾患について解説します。
50代から増え始める変形性膝関節症
変形性膝関節症は、加齢に伴う膝の痛みの最も代表的な原因疾患です。前述した関節軟骨のすり減りや、それに伴う骨の変形によって痛みや腫れが生じます。
特に50代以降の女性に多く見られ、年齢とともに有病率は増加します。初期症状としては、「動き始めの痛み」が特徴的です。
例えば、朝起きて最初の一歩を踏み出す時や、長時間座った後から立ち上がる時に痛みを感じますが、少し動いているうちに痛みは和らぎます。
しかし、病状が進行すると、階段の上り下りや正座が困難になり、安静にしていても痛みが続くようになります。
末期には膝の変形が外見からも明らかになり、歩行が著しく困難になることもあります。
変形性膝関節症の進行度と症状
進行度 | 主な症状 | 生活への影響 |
---|---|---|
初期 | 動き始めの痛み、こわばり | 長時間の歩行で疲労感 |
中期 | 階段昇降時の痛み、膝の腫れ、水がたまる | 正座や深くしゃがむ動作が困難になる |
末期 | 安静時痛、夜間痛、関節の変形(O脚など) | 歩行が困難になり、杖や手すりが必要になる |
60代以降に注意したい関節リウマチ
関節リウマチは、免疫システムの異常により、自分自身の関節を攻撃してしまう自己免疫疾患です。
30代から50代の女性に好発しますが、60代以降に発症する「高齢発症関節リウマチ」も少なくありません。変形性膝関節症との大きな違いは、痛みの現れ方です。
関節リウマチでは、朝起きた時に関節が強くこわばり、動かしにくい「朝のこわばり」が1時間以上続くことがあります。
また、膝だけでなく、手首や足首、指の関節など、複数の関節が左右対称に腫れて痛むのが特徴です。
適切な治療を行わないと、関節の破壊が進行し、機能障害につながるため、早期発見・早期治療が重要です。
突然の激痛は偽痛風の可能性も
ある日突然、膝が赤く腫れ上がり、歩けないほどの激痛に襲われた場合、「偽痛風(ぎつうふう)」、正式には「ピロリン酸カルシウム沈着症」が疑われます。
これは、関節軟骨にピロリン酸カルシウムという結晶が沈着し、その結晶が何らかのきっかけで関節内に剥がれ落ちることで、急性の激しい炎症を引き起こす病気です。
60歳以上の高齢者に多く、膝関節に最も好発します。症状は痛風発作とよく似ていますが、原因となる結晶が異なります。
発作は数日から数週間で自然に治まることが多いですが、繰り返すこともあり、変形性膝関節症を誘発する可能性も指摘されています。
その他の原因
高齢者の膝の痛みの原因は、上記以外にもいくつか考えられます。
- 半月板損傷:膝関節のクッションである半月板が、加齢により変性してもろくなり、ささいな動作で損傷することがあります。膝の曲げ伸ばしの際に「ひっかかり感」や「ロッキング(膝が動かなくなる)」といった症状が出ます。
- 大腿骨内顆骨壊死:特別な原因なく、膝関節を構成する大腿骨の一部(内顆)の血流が悪くなり、骨組織が壊死してしまう病気です。安静にしていても夜間に強い痛みが出ることが特徴で、60代以降の女性に多いとされています。
これらの病気は、症状だけでは区別が難しい場合も多いため、正確な診断には専門医による診察が必要です。
自分でできる膝の痛みを和らげる方法
つらい膝の痛みは、日常生活の質を大きく低下させます。医療機関での治療と並行して、ご自身でできる工夫を取り入れることで、痛みを和らげ、症状の悪化を防ぐことが期待できます。
ここでは、今日から始められるセルフケアの方法をいくつか紹介します。ただし、痛みが強い場合や、これらの方法で症状が悪化する場合には、自己判断せず医師に相談してください。
膝を温めることの効果
慢性的な膝の痛みには、基本的に温める「温熱療法」が有効です。膝を温めることで、周辺の血管が拡張して血行が良くなります。
血流が改善すると、筋肉の緊張がほぐれ、痛みの原因となっている物質の排出が促されます。また、関節の動きも滑らかになります。
入浴は、全身を温めリラックス効果も得られるため、特におすすめです。38〜40℃程度のぬるめのお湯にゆっくりと浸かり、膝を優しくマッサージするのも良いでしょう。
入浴以外にも、蒸しタオルやカイロ、温熱パッドなどを膝に当てるのも手軽で効果的です。
ただし、ケガの直後や、膝が赤く腫れて熱を持っている「急性期」には、温めると炎症が悪化することがあるため、冷やすようにしてください。
温める?冷やす?判断の目安
対応 | 適した状態 | 主な目的 |
---|---|---|
温める(温熱療法) | 慢性的な痛み、こわばり | 血行促進、筋肉の弛緩 |
冷やす(寒冷療法) | 急な痛み、腫れ、熱感 | 炎症や腫れの抑制 |
膝に負担をかけない生活の工夫
日常生活の何気ない動作が、知らず知らずのうちに膝に大きな負担をかけていることがあります。少しの工夫でその負担を軽減できます。
- 床座を避ける:正座やあぐら、横座りは膝を大きくねじったり曲げたりするため、関節への負担が非常に大きいです。できるだけ椅子やソファを利用する生活スタイルに変えましょう。
- 和式トイレを避ける:深くしゃがみ込む和式トイレは膝に負担がかかります。可能な限り洋式トイレを使用しましょう。
- 荷物の持ち方:重い荷物を持つ際は、片方の手で持つのではなく、両手に分けるか、カートを利用して負担を分散させます。
- 階段の利用:階段の上り下りは膝への負担が大きいため、エレベーターやエスカレーターを積極的に利用しましょう。もし階段を使う必要がある場合は、手すりを使い、痛くない方の足から上り、痛い方の足から下りると負担が少なくなります。
サポーターや杖の活用
膝用のサポーターは、関節を適度に圧迫・固定することで安定性を高め、ぐらつきを抑える効果があります。
この安定性の向上により、歩行時の安心感が増し、筋肉の余計な緊張も和らぎます。また、保温効果のあるサポーターは、膝を温めて血行を良くする助けにもなります。
ドラッグストアなどで様々な種類が市販されていますが、ご自身の膝の状態やサイズに合ったものを選ぶことが重要です。
痛みが強く歩行が不安定な場合には、杖の使用も有効な手段です。痛い方の足と反対側の手で杖を持つことで、膝にかかる体重を腕で支え、負担を大幅に軽減できます。
杖を使うことに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが、安全に歩行し、転倒を防ぐためには非常に有用な道具です。
市販の湿布薬や塗り薬の上手な使い方
市販されている消炎鎮痛成分を含んだ湿布薬や塗り薬は、一時的な痛みの緩和に役立ちます。これらの外用薬は、皮膚から有効成分が吸収され、痛む部位の炎症を抑える働きをします。
温感タイプと冷感タイプがありますが、温感は血行を促進し、冷感は炎症や腫れを抑える効果が期待できます。
慢性的な痛みには温感、急な痛みや熱感がある場合は冷感が適しているとされますが、ご自身が心地よいと感じる方を選んでも問題ありません。
ただし、これらはあくまで対症療法であり、痛みの根本原因を治すものではありません。
長期間使用しても改善しない場合や、皮膚にかぶれなどの異常が出た場合は使用を中止し、医療機関を受診してください。
膝の健康を維持するための運動とストレッチ
「膝が痛いから動かしたくない」と感じるかもしれませんが、安静にしすぎるとかえって筋力が低下し、関節が硬くなってしまいます。
痛みのない範囲で適度な運動やストレッチを行うことは、膝の機能を維持し、痛みを軽減するために非常に大切です。
ここでは、自宅で手軽にできる膝周りのトレーニングとストレッチを紹介します。
膝周りの筋肉を鍛えるトレーニング
膝関節を支える太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは、膝の安定性を高め、負担を減らす上で最も重要です。痛みを感じない範囲で、無理なく継続しましょう。
椅子に座って行う膝伸ばし運動
これは大腿四頭筋を安全に鍛えることができる基本的な運動です。
- 椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばします。
- 片方の足をゆっくりと持ち上げ、床と平行になるまで膝を伸ばします。
- その状態で5秒間静止します。太ももの前の筋肉に力が入っていることを意識してください。
- ゆっくりと足を下ろします。
- この動作を左右それぞれ10回ずつ、1日3セットを目安に行います。
足首に軽いおもり(0.5kg〜1kg程度)を巻いて行うと、より効果的に負荷をかけることができます。
太ももの前側を鍛える
仰向けに寝て行う運動も、膝に体重がかからないため安全です。
- 仰向けに寝て、片方の膝を立てます。
- もう片方の足は、膝を伸ばしたまま、立てた膝の高さまでゆっくりと持ち上げます。
- その位置で5秒間静止します。
- ゆっくりと足を下ろします。
- この動作を左右それぞれ10回ずつ行います。
関節の柔軟性を保つストレッチ
筋肉や関節が硬くなると、動きが悪くなり痛みの原因になります。ストレッチで柔軟性を保ち、可動域を広げましょう。反動をつけず、気持ちよく伸びていると感じる程度でゆっくり行います。
太ももの裏側を伸ばす
太ももの裏側(ハムストリングス)が硬いと、骨盤の動きが悪くなり、膝への負担が増加します。
- 床に座り、片方の足を伸ばし、もう片方の足は曲げて足の裏を伸ばした方の太ももにつけます。
- 背筋を伸ばしたまま、伸ばした足のつま先に向かってゆっくりと体を前に倒します。
- 太ももの裏が伸びているのを感じながら20〜30秒間静止します。
- 左右の足を入れ替えて同様に行います。
ふくらはぎのストレッチ
ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)の柔軟性も、歩行時の足首の動きに関わり、膝への負担に影響します。
- 壁の前に立ち、両手を壁につけます。
- 片方の足を後ろに大きく引き、かかとを床につけたまま、前の足の膝をゆっくりと曲げていきます。
- 後ろ足のふくらはぎが伸びているのを感じながら20〜30秒間静止します。
- 左右の足を入れ替えて同様に行います。
運動を行う上での注意点
運動療法は継続することが重要ですが、やり方を間違えると症状を悪化させる可能性があります。以下の点に注意してください。
- 痛みがあるときは無理しない:運動中に痛みを感じたら、すぐに中止してください。
- 運動の前後には準備運動と整理運動を:急に体を動かすのではなく、軽いストレッチなどから始めましょう。
- 正しいフォームで行う:間違ったフォームは効果がないだけでなく、ケガの原因にもなります。可能であれば一度、専門家の指導を受けることをお勧めします。
運動療法の注意点まとめ
ポイント | 具体的な内容 | 理由 |
---|---|---|
無理は禁物 | 痛みを感じたらすぐに中止する | 症状の悪化や新たなケガを防ぐため |
段階的に | 軽い負荷、少ない回数から始める | 体に運動を慣れさせ、安全に継続するため |
継続が力 | 毎日少しずつでも続けることが大切 | 筋力や柔軟性は短期間では向上しないため |
食生活で見直したい膝のための栄養素
膝の健康を保つためには、運動だけでなく日々の食事も重要な役割を果たします。
特定の食品だけで膝の痛みが劇的に改善するわけではありませんが、骨や軟骨の材料となる栄養素を意識して摂取し、バランスの取れた食事を心がけることは、関節の健康維持と症状の進行予防につながります。
ここでは、膝のために積極的に摂りたい栄養素と食事のポイントについて解説します。
骨や軟骨の健康を支える栄養素
関節を構成する骨や軟骨を丈夫に保つためには、その材料となる栄養素を十分に補給することが基本です。
膝の健康に役立つ主な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含まれる食品 |
---|---|---|
カルシウム | 骨の主成分。骨密度を維持する | 牛乳、乳製品、小魚、大豆製品、緑黄色野菜 |
ビタミンD | カルシウムの吸収を助ける | きのこ類、鮭、さんま、卵黄 |
タンパク質 | 筋肉や軟骨、骨の材料となる | 肉、魚、卵、大豆製品、乳製品 |
特にカルシウムは骨の健康に欠かせませんが、ビタミンDと一緒に摂ることで体内への吸収率が高まります。ビタミンDは食事から摂取するほか、日光を浴びることでも体内で生成されます。
また、筋肉の材料となるタンパク質が不足すると筋力が低下し、膝への負担が増えてしまいます。毎食、肉・魚・卵・大豆製品のいずれかを取り入れるように意識しましょう。
炎症を抑える効果が期待できる食品
膝の痛みは関節の炎症によって引き起こされることが多いです。食事によって体内の炎症をコントロールすることも、痛みの緩和につながる可能性があります。
特に、オメガ3系脂肪酸には炎症を抑制する働きがあることが知られています。青魚(サバ、イワシ、サンマなど)や、えごま油、アマニ油などに豊富に含まれています。
これらの油は熱に弱いため、ドレッシングとして使うなど、加熱せずに摂取するのがおすすめです。
また、抗酸化作用のあるビタミンA(β-カロテン)、ビタミンC、ビタミンEも、関節の炎症を抑えるのに役立ちます。色の濃い緑黄色野菜や果物を積極的に食事に取り入れましょう。
適正体重を維持するための食事管理
前述の通り、体重の増加は膝への負担を直接的に増大させます。膝の痛みを抱える方にとって、適正体重の維持は最も効果的なセルフケアの一つです。
体重をコントロールするためには、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回らないようにする必要があります。
- 腹八分目を心がける:食べ過ぎを防ぎ、摂取カロリーを抑えます。
- よく噛んで食べる:満腹中枢が刺激され、少量でも満足感を得やすくなります。
- 間食や甘い飲み物を控える:これらは高カロリーで栄養価が低いことが多いです。
- 栄養バランスを考える:極端な食事制限はせず、主食・主菜・副菜をそろえ、バランスの良い食事を心がけます。
無理なダイエットは筋力低下を招き、かえって膝に悪影響を及ぼすこともあります。健康的な食生活を習慣づけ、長期的な視点で体重を管理していくことが重要です。
医療機関を受診する目安と検査・治療法
膝の痛みが続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、自己判断で放置せず、専門医の診察を受けることが大切です。
早期に適切な診断と治療を受けることで、症状の悪化を防ぎ、痛みをコントロールすることが可能になります。
ここでは、どのような場合に医療機関を受診すべきか、そして整形外科ではどのような検査や治療を行うのかについて解説します。
こんな症状があれば早めに受診を
以下のような症状が見られる場合は、早めに整形外科を受診することをお勧めします。
これらのサインは、単なる加齢による痛みではなく、治療を必要とする病気が隠れている可能性を示唆しています。
受診を推奨する症状の例
症状の種類 | 具体的な状態 |
---|---|
痛みの強さ・性質 | 安静にしていても痛む、夜間に痛みで目が覚める、急に激しい痛みが始まった |
関節の状態 | 膝が赤く腫れて熱を持っている、膝に水がたまってパンパンになっている |
動きの問題 | 膝が完全に伸びない・曲がらない、歩行中に膝がガクッと崩れる(膝折れ) |
生活への影響 | 痛みのために歩行が困難、日常生活の動作(着替え、入浴など)に支障が出ている |
整形外科で行う主な検査
整形外科では、痛みの原因を正確に突き止めるために、いくつかの検査を行います。
- 問診・視診・触診:まず、いつから、どのような時に、どのあたりが痛むのかなどを詳しく聞き取ります。その後、膝の腫れや変形の有無、熱感、押したときの痛みの場所(圧痛点)、関節の動きの範囲(可動域)などを確認します。
- X線(レントゲン)検査:骨の状態を確認するための基本的な検査です。関節の隙間の広さ(軟骨の厚さを反映)、骨の変形(骨棘:こつきょく)、骨折の有無などを評価します。変形性膝関節症の診断や重症度の判定に有用です。
- 関節液検査:膝に水(関節液)がたまっている場合、注射器で関節液を抜き、その性状や成分を調べます。関節液が濁っていれば感染や炎症が疑われ、結晶が見つかれば痛風や偽痛風の診断につながります。
- MRI検査:X線検査では写らない軟骨や半月板、靭帯、筋肉といった軟部組織の状態を詳しく調べることができます。半月板損傷や靭帯損傷、骨壊死などの診断に非常に有効です。
- 血液検査:関節リウマチが疑われる場合などに行います。炎症反応(CRPなど)やリウマトイド因子、抗CCP抗体といった特殊な項目を調べることで、診断の助けとします。
保存療法
手術以外の方法で症状の改善を目指す治療法を「保存療法」と呼びます。多くの膝の痛みは、まずこの保存療法から開始します。
保存療法の主な内容
治療法 | 内容 | 目的 |
---|---|---|
薬物療法 | 消炎鎮痛薬(内服、外用、坐薬)、ヒアルロン酸注射、ステロイド注射 | 痛みや炎症を抑える、関節の動きを滑らかにする |
リハビリテーション | 運動療法(筋力強化、ストレッチ)、物理療法(温熱、電気)、装具療法(サポーター、足底板) | 膝の機能回復、負担軽減、痛みの緩和 |
薬物療法では、まず痛みや炎症を抑えるために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の内服薬や外用薬(湿布、塗り薬)を使用します。
変形性膝関節症に対しては、関節の潤滑油の役割を果たすヒアルロン酸を関節内に注射することもあります。
痛みが非常に強い場合には、強力な抗炎症作用を持つステロイド注射を行うこともありますが、頻繁な使用は軟骨や骨に悪影響を及ぼす可能性があるため、慎重に行います。
リハビリテーションでは、理学療法士などの専門家の指導のもと、筋力トレーニングやストレッチを行い、膝の機能改善を目指します。
手術療法という選択肢
保存療法を長期間続けても痛みが改善せず、日常生活に大きな支障をきたしている場合には、手術療法を検討します。
手術にはいくつかの種類があり、年齢や活動レベル、関節の状態によって適切な方法を選択します。
代表的な手術には、関節鏡(内視鏡)を使って損傷した半月板などを処置する「関節鏡視下手術」、O脚などを矯正して膝の内側にかかる負担を軽減する「高位脛骨骨切り術」、そして損傷した関節面を金属やポリエチレンでできた人工の関節に置き換える「人工膝関節置換術」があります。
特に人工膝関節置換術は、末期の変形性膝関節症や関節リウマチに対して行われ、痛みの除去に高い効果が期待できる治療法です。
高齢者の膝の痛みに関するよくある質問
ここでは、外来の診察などで患者さんからよく寄せられる、高齢者の膝の痛みに関する質問とその回答をまとめました。多くの方が抱く疑問や不安の解消に役立ててください。
Q. 膝の水を抜くと癖になりますか?
A. 「水を抜くと癖になる」というのは誤解です。膝にたまる水(関節液)は、関節内で炎症が起きている結果として作られるものです。
つまり、「水を抜くからたまる」のではなく、「炎症が続いているからたまる」のです。関節液が大量にたまると、膝がパンパンに張って痛みが強くなり、曲げ伸ばしが困難になります。
このような場合、水を抜くことで症状が劇的に楽になります。水を抜く処置そのものが、さらに水がたまりやすくなる原因になることはありません。
ただし、根本的な原因である炎症を抑えない限り、水は再びたまってきます。そのため、水を抜くと同時に、炎症の原因に対する治療(薬物療法など)を行うことが重要です。
Q. サプリメントは効果がありますか?
A. グルコサミンやコンドロイチン、コラーゲンといった成分を含むサプリメントが、膝の痛みに効果があるとして市販されています。
これらの成分は軟骨の構成要素であり、摂取することへの期待は大きいかもしれません。
しかし、現時点では、これらのサプリメントがすり減った軟骨を再生させたり、痛みを確実に改善したりするという質の高い科学的根拠は、残念ながら確立されていません。
効果を感じる方もいる一方で、効果がないと感じる方もいるのが実情です。医薬品ではなく、あくまで健康食品として、食事の補助的な役割と捉えるのが良いでしょう。
試す場合は、数ヶ月続けても変化がなければ、漫然と継続するのは避けた方が賢明かもしれません。
Q. 痛いときでも運動した方が良いですか?
A. 痛みの程度によります。膝が腫れて熱を持っているような強い痛みがある時(急性期)は、無理に運動すると炎症を悪化させる可能性があります。
このような場合は安静を優先し、痛みが落ち着くのを待ちましょう。
一方、慢性的な鈍い痛みがある場合は、痛みのない範囲で積極的に体を動かす方が、筋力や関節の柔軟性を維持するために良い結果をもたらします。
大切なのは、ご自身の膝の状態と相談しながら、「無理のない範囲で」行うことです。ウォーキングや水中運動など、膝への負担が少ない運動から始めてみるのがおすすめです。
どのような運動が適しているかについては、自己判断せず、医師や理学療法士に相談してください。
Q. 正座は膝に悪いのでしょうか?
A. はい、一般的に正座は膝関節に大きな負担をかける座り方です。正座をすると、膝は最大まで深く曲げられ、関節内の圧力が高まります。
また、体重によって血行も悪くなりがちです。健康な膝であれば問題ないかもしれませんが、すでに関節軟骨がすり減っている方や炎症がある方にとっては、痛みを誘発したり、症状を悪化させたりする原因となります。
膝に痛みを抱えている場合は、日常生活で正座を避けることが望ましいです。日本の生活文化に根ざした座り方ではありますが、ご自身の膝を守るためにも、できるだけ椅子を使う生活を心がけましょう。
以上
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