椎間板ヘルニアの痛みを和らげる方法と生活の工夫
椎間板ヘルニアによるつらい痛みは、日常生活に大きな支障をきたします。しかし、適切な対処法や生活習慣の工夫によって、痛みを和らげ、症状の悪化を防ぐことが期待できます。
この記事では、椎間板ヘルニアの痛みの原因から、ご自身でできる応急処置、日常生活での注意点、痛みを緩和するための運動、食事、さらには医療機関での治療法まで、幅広く解説します。
読者の皆様が少しでも快適な毎日を送れるよう、具体的な情報を提供します。
目次
椎間板ヘルニアとは?痛みの原因を理解する
椎間板ヘルニアの痛みに悩む方は少なくありません。まず、この症状がどのようなもので、なぜ痛むのかを理解することが、適切な対処への第一歩です。
ここでは、椎間板の基本的な構造と役割、ヘルニアが起こる主な原因、そして痛みの発生について詳しく見ていきましょう。
椎間板の構造と役割
背骨(脊椎)は、椎骨というブロック状の骨が積み重なって構成されています。そして、それぞれの椎骨の間には、クッションの役割を果たす「椎間板」という軟骨組織が存在します。
椎間板は、中心部にあるゼリー状の「髄核(ずいかく)」と、それを取り囲む丈夫な線維輪(せんいりん)という二重構造になっています。
この椎間板があるおかげで、背骨にかかる衝撃を吸収したり、背骨を滑らかに動かしたりすることができます。
椎間板の主な機能
機能 | 説明 | 重要性 |
---|---|---|
衝撃吸収 | 歩行や運動時の衝撃を和らげ、脳や脊髄を守ります。 | 日常生活での身体への負担軽減 |
可動性 | 背骨を曲げたり、ひねったりする動きを可能にします。 | 柔軟な身体活動の実現 |
椎骨の連結 | 椎骨同士をしっかりとつなぎ止め、脊柱の安定性を保ちます。 | 正しい姿勢の維持 |
ヘルニアが起こる主な原因
「ヘルニア」とは、体内の組織や臓器が、本来あるべき場所から飛び出したり、はみ出したりした状態を指します。
椎間板ヘルニアの場合、何らかの原因で線維輪に亀裂が入り、そこから髄核が外に飛び出してしまった状態です。この飛び出した髄核が、近くにある神経を圧迫することで、痛みやしびれなどの症状を引き起こします。
椎間板ヘルニアが起こる原因は一つではありません。複数の要因が絡み合って発症することが多いと考えられています。
- 加齢による椎間板の変性
- 長時間の悪い姿勢(デスクワーク、運転など)
- 重い物を持ち上げる動作
- 急な運動や腰への過度な負担
- 喫煙(血流悪化による椎間板の栄養不足)
遺伝的な要因が関与する場合もありますが、多くは日常生活の習慣や動作が影響しています。
なぜ痛みが生じるのか
飛び出した髄核が神経を圧迫することが、痛みの主な原因です。圧迫された神経は炎症を起こし、その神経が支配する領域(腰、お尻、足など)に痛みやしびれ、感覚の異常、筋力低下などを引き起こします。
特に、坐骨神経という太い神経が圧迫されると、いわゆる「坐骨神経痛」と呼ばれる症状が現れます。この痛みは、ズキズキとした鋭い痛みであったり、ジンジンとしたしびれを伴う鈍い痛みであったりと、人によって感じ方が異なります。
また、髄核自体に含まれる化学物質が炎症を引き起こし、痛みを増強させることもあります。この炎症反応が、痛みの慢性化に関与していると考えられています。
椎間板ヘルニアの種類と特徴
椎間板ヘルニアは、発生する部位によっていくつかの種類に分けられます。最も多いのは腰椎椎間板ヘルニアですが、頚椎(首)や稀に胸椎(背中)にも発生します。
ここでは、主に腰椎椎間板ヘルニアについて触れますが、基本的な痛みの発生の仕方は共通しています。
腰椎椎間板ヘルニアの好発部位と症状
好発部位(椎間レベル) | 主な症状が現れる場所 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
L4/L5(第4腰椎と第5腰椎の間) | お尻から太ももの外側、すねの外側、足の甲や親指 | 足首や足の親指を上に反らしにくい |
L5/S1(第5腰椎と第1仙椎の間) | お尻から太ももの裏側、ふくらはぎ、足の裏やかかと、小指側 | つま先立ちがしにくい、アキレス腱反射の低下 |
どの神経が圧迫されるかによって、症状の出る範囲や種類が異なります。正確な診断には、医師による診察と画像検査(MRIなど)が必要です。
自宅でできる痛みを和らげる応急処置
椎間板ヘルニアの急な痛みは非常につらいものです。すぐに医療機関を受診できない場合や、痛みが比較的軽い場合には、自宅でできる応急処置が役立つことがあります。
ただし、これらの方法はあくまで一時的な対処であり、症状が改善しない場合や悪化する場合は、必ず専門医の診察を受けてください。
安静時の正しい姿勢
痛みが強いときは、無理に動かず安静にすることが基本です。しかし、ただ横になっているだけでは、かえって腰に負担がかかることもあります。楽な姿勢を見つけることが大切です。
楽な寝方
一般的に、横向きで膝を軽く曲げ、背中を少し丸める姿勢(胎児のような姿勢)が楽な場合が多いです。膝の間にクッションや枕を挟むと、さらに腰への負担を軽減できます。
仰向けの場合は、膝の下にクッションや丸めた布団などを入れて膝を軽く曲げると、腰の反りを抑えられ、痛みが和らぐことがあります。
クッションの活用法
クッションは、安静時の姿勢をサポートするのに非常に役立ちます。硬すぎず柔らかすぎない、適度な弾力のあるものを選びましょう。
腰の下や背中とベッドの隙間など、痛みを感じる部分や不安定な部分をサポートするようにクッションを配置することで、より楽な姿勢を保てます。
安静時の姿勢のポイント
姿勢 | ポイント | 注意点 |
---|---|---|
横向き | 膝を軽く曲げ、背中を少し丸める。膝の間にクッションを挟む。 | 下側の肩や腕に負担がかかりすぎないようにする。 |
仰向け | 膝の下にクッションを入れ、膝を軽く曲げる。 | 腰が反りすぎないように注意する。 |
うつ伏せ | 一般的に推奨されないが、楽な場合は短時間なら可。胸の下に薄いクッションを入れることも。 | 首や腰に負担がかかりやすい。 |
患部のアイシングと温熱療法
痛みの状態によって、冷やす(アイシング)か温める(温熱療法)かを選択します。
一般的に、急性の激しい痛みや炎症がある場合はアイシング、慢性的な鈍い痛みや筋肉のこわばりがある場合は温熱療法が適していると言われますが、自己判断が難しい場合もあります。
アイシングのタイミングと方法
ぎっくり腰のような急な痛みや、運動後などで熱感がある場合に試します。ビニール袋に氷と少量の水を入れ、タオルで包んで患部に15~20分程度当てます。
冷やしすぎると凍傷の危険があるので注意が必要です。感覚が鈍くなってきたら一旦中止し、時間をおいて繰り返します。
温熱療法のタイミングと方法
慢性的な痛みや筋肉の緊張が強い場合、血行を促進して痛みを和らげる効果が期待できます。蒸しタオルやカイロ、入浴などで患部を温めます。
ただし、炎症が強い時期に温めると症状が悪化することがあるため、注意が必要です。熱すぎる温度や長時間の温めすぎは避けましょう。
痛みが強いときの注意点
痛みが激しいときは、無理な動作は禁物です。自己判断でマッサージをしたり、無理にストレッチをしたりすると、症状を悪化させる可能性があります。
まずは安静にし、痛みが少し落ち着いてから慎重に動き始めるようにしましょう。痛みが続く場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
- 無理に動かない、重いものを持たない
- 長時間の同じ姿勢を避ける
- 痛みを我慢しすぎない
市販の痛み止め薬について
痛みが我慢できない場合、市販の痛み止め薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDsなど)を使用することも一つの方法です。薬剤師に相談し、用法・用量を守って正しく使用しましょう。
ただし、これらは対症療法であり、根本的な解決にはなりません。薬を飲んでも痛みが改善しない、または悪化する場合は、医療機関を受診してください。
日常生活での姿勢と動作の工夫
椎間板ヘルニアの痛みを和らげ、再発を防ぐためには、日常生活における姿勢や動作を見直すことが非常に重要です。無意識に行っている習慣が、腰に負担をかけている可能性があります。
ここでは、具体的な工夫について解説します。
正しい座り方と立ち方
長時間座っていることや、不適切な立ち方は、腰への負担を増大させます。正しい姿勢を意識するだけで、痛みの軽減につながることがあります。
デスクワーク時の注意点
デスクワークが多い方は、特に座り方に注意が必要です。椅子に深く腰掛け、背もたれをしっかり使いましょう。膝の角度は90度、足の裏全体が床につくように椅子の高さを調整します。
パソコンのモニターは目線の高さかやや下になるようにし、肘も90度に曲げてキーボードを操作できるのが理想です。定期的に立ち上がって軽く体を動かすことも大切です。
長時間立っている場合の工夫
長時間立ち仕事をする場合は、片足を踏み台などに乗せて体重を分散させたり、時々姿勢を変えたりする工夫が有効です。
また、クッション性の良い靴を選ぶことも、足腰への負担軽減につながります。
正しい座り方のチェックポイント
チェック項目 | 正しい状態 | 悪い例 |
---|---|---|
椅子の高さ | 足裏全体が床につき、膝が90度 | 足が浮く、膝が伸びすぎる |
背もたれ | 深く腰掛け、背中をサポート | 浅く腰掛ける、背もたれを使わない |
骨盤の傾き | 骨盤を立てる(坐骨で座る意識) | 骨盤が後ろに倒れる(仙骨座り) |
物を持ち上げる際の注意点
物を持ち上げる動作は、腰に大きな負担をかける代表的な動作です。特に、不用意な持ち上げ方は椎間板ヘルニアを悪化させる原因となります。
持ち上げる物との距離を縮め、膝を曲げて腰を落とし、背筋を伸ばしたまま持ち上げるように心がけましょう。物を持ち上げたまま体をひねる動作も避けるべきです。
物を持ち上げる際のNG動作とOK動作
ポイント | OK動作 | NG動作 |
---|---|---|
膝 | しっかり曲げる | 膝を伸ばしたまま |
腰 | 落として体全体で持ち上げる | 腰だけで持ち上げようとする |
物との距離 | 体に近づける | 体から離れた位置で持つ |
就寝時の寝具選びと寝姿勢
睡眠中の姿勢も腰の状態に影響します。柔らかすぎるマットレスは腰が沈み込み、硬すぎるマットレスは腰とマットレスの間に隙間ができてしまい、どちらも腰に負担をかける可能性があります。
適度な硬さで、寝返りが打ちやすいマットレスを選びましょう。枕の高さも重要で、首から肩にかけて自然なカーブを保てるものが理想です。
寝姿勢は、前述の「楽な寝方」を参考に、自分にとって最も負担の少ない姿勢を見つけることが大切です。
日常動作での腰への負担を減らすコツ
洗顔、掃除、着替えなど、日常の何気ない動作でも腰に負担がかかっていることがあります。例えば、洗顔時は前かがみになるため、膝を少し曲げて腰への負担を軽減しましょう。
掃除機をかける際は、前かがみにならず、柄を長くして体に近い位置で操作するなどの工夫が有効です。靴下を履くときなども、椅子に座って行うなど、腰を大きく曲げないように意識することが重要です。
痛みを緩和するためのストレッチと運動療法
椎間板ヘルニアの痛みを和らげ、再発を予防するためには、適切なストレッチや運動療法が効果的です。
ただし、自己流で行うと症状を悪化させる危険性もあるため、必ず医師や理学療法士の指導のもとで行うようにしましょう。
ここでは、一般的な注意点と、初期に行える軽い運動の例を紹介します。
医師の指導のもとで行う重要性
椎間板ヘルニアの状態は、一人ひとり異なります。痛みの程度や神経の圧迫具合、ヘルニアのタイプによって、適した運動や避けるべき運動が異なります。
専門家による評価を受け、個々の状態に合わせた運動プログラムを組んでもらうことが、安全かつ効果的に運動療法を進めるための鍵となります。
注意: 痛みが強いときや、運動中に痛みが増す場合は、無理せず中止し、医師に相談してください。
初期におすすめの軽いストレッチ
痛みが少し落ち着いてきたら、まずは硬くなった筋肉をほぐし、血行を促進するような軽いストレッチから始めます。無理のない範囲で、ゆっくりと行いましょう。
腰部周辺の筋肉をほぐすストレッチ
仰向けに寝て両膝を立て、ゆっくりと左右に倒す運動や、四つん這いになって背中を丸めたり反らせたりする運動(キャット&カウ)などがあります。
これらの運動は、腰椎周辺の柔軟性を高めるのに役立ちます。
腹筋・背筋を意識した運動
腹筋や背筋は、いわゆる「体幹」を構成する重要な筋肉です。これらの筋肉を鍛えることで、天然のコルセットのように腰椎を安定させ、椎間板への負担を軽減する効果が期待できます。
ただし、急激な腹筋運動(上体起こしなど)は腰に負担をかけるため、ドローイン(お腹をへこませる運動)など、負荷の少ないものから始めましょう。
初期の軽い運動例
運動名 | 目的 | 簡単な方法 |
---|---|---|
ドローイン | 腹横筋の強化、体幹安定 | 仰向けで膝を立て、息を吐きながらお腹をへこませる。 |
骨盤傾斜運動 | 腰椎の軽微な運動、筋肉の緊張緩和 | 仰向けで膝を立て、腰を床に押し付けたり、わずかに反らせたりする。 |
膝抱えストレッチ(片足ずつ) | 殿筋、腰方形筋のストレッチ | 仰向けで片膝を胸にゆっくり引き寄せる。 |
症状に合わせた運動の進め方
初期の軽い運動で痛みが悪化しないようであれば、徐々に運動の種類や強度を上げていきます。水中ウォーキングや固定自転車など、腰への負担が少ない有酸素運動も効果的です。
ただし、自己判断で進めるのではなく、定期的に専門家のチェックを受けながら、適切な指導のもとで進めていくことが大切です。
運動療法を行う上での注意点
運動療法は、正しい方法で継続することが重要です。以下の点に注意しましょう。
- 運動前後にウォーミングアップとクールダウンを行う。
- 痛みを感じたら無理せず中止する。
- 正しいフォームで行うことを意識する。
- 焦らず、自分のペースで継続する。
運動によって一時的に軽い筋肉痛が出ることがありますが、鋭い痛みやしびれが悪化する場合は、運動内容を見直す必要があります。
食事と栄養で痛みをサポート
椎間板ヘルニアの痛みの管理において、食事や栄養も間接的に関わってきます。
特定の栄養素が直接的にヘルニアを治すわけではありませんが、炎症を抑えたり、組織の修復を助けたり、体重をコントロールしたりすることで、症状の緩和や悪化防止に役立つ可能性があります。
炎症を抑える効果が期待できる栄養素
椎間板ヘルニアによる痛みの一部は、神経の炎症によって引き起こされます。そのため、抗炎症作用のある栄養素を積極的に摂取することが推奨されます。
抗炎症作用が期待される主な栄養素
栄養素 | 多く含む食品の例 | 期待される働き |
---|---|---|
オメガ3系脂肪酸(EPA、DHA) | 青魚(サバ、イワシ、サンマ)、亜麻仁油、えごま油 | 炎症物質の生成を抑える |
ビタミンC | 果物(柑橘類、イチゴ)、野菜(パプリカ、ブロッコリー) | 抗酸化作用、コラーゲン生成補助 |
ビタミンE | ナッツ類、植物油、アボカド | 抗酸化作用、血行促進 |
これらの栄養素をバランス良く摂取することで、体内の炎症反応を穏やかにする効果が期待できます。
骨や軟骨の健康を保つ食事
椎間板も軟骨の一種であり、その健康を維持するためには、骨や軟骨の材料となる栄養素を十分に摂ることが大切です。特にカルシウム、ビタミンD、コラーゲンなどが重要です。
骨・軟骨の健康に必要な栄養素
栄養素 | 多く含む食品の例 | 期待される働き |
---|---|---|
カルシウム | 乳製品、小魚、緑黄色野菜 | 骨の主成分 |
ビタミンD | 魚介類、きのこ類、卵黄(日光浴でも生成) | カルシウムの吸収を助ける |
タンパク質(コラーゲン) | 肉類、魚介類、大豆製品、ゼラチン | 軟骨や結合組織の材料 |
これらの栄養素を含む食品をバランス良く取り入れ、骨や軟骨の健康維持を心がけましょう。
体重管理の重要性
体重が増加すると、腰椎にかかる負担も増大します。特に肥満は、椎間板ヘルニアの発症リスクを高め、症状を悪化させる要因の一つです。
適切な体重を維持することは、腰への負担を軽減し、痛みのコントロールにもつながります。バランスの取れた食事と適度な運動を組み合わせ、健康的な体重管理を目指しましょう。
水分補給と椎間板の関係
椎間板の髄核は、約80%が水分で構成されています。水分が不足すると椎間板の弾力性が失われ、衝撃吸収能力が低下する可能性があります。
直接的な因果関係は明確ではありませんが、健康な椎間板を維持するためには、十分な水分補給も大切であると考えられています。こまめに水を飲む習慣をつけましょう。
痛みを悪化させないための生活習慣
椎間板ヘルニアの痛みをコントロールし、悪化を防ぐためには、日々の生活習慣を見直すことが不可欠です。何気ない習慣が、知らず知らずのうちに腰に負担をかけていることがあります。
ここでは、注意すべき生活習慣について解説します。
喫煙と椎間板ヘルニアの関係
喫煙は、椎間板ヘルニアのリスクを高める要因の一つとして知られています。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、椎間板への血流を悪化させます。
これにより、椎間板に必要な栄養や酸素が行き渡りにくくなり、椎間板の変性(老化)を早めてしまう可能性があります。禁煙は、椎間板ヘルニアの予防や悪化防止のために非常に重要です。
適度な休息と睡眠の質
十分な休息と質の高い睡眠は、体の修復や疲労回復に必要です。睡眠不足や質の悪い睡眠は、筋肉の緊張を高め、痛みを悪化させる可能性があります。
寝具の選択(前述)に加え、寝室の環境を整えたり、就寝前のカフェイン摂取を避けたりするなど、睡眠の質を高める工夫をしましょう。
また、日中も長時間同じ姿勢で作業を続けるのではなく、適度に休憩を取り、体をリラックスさせることが大切です。
ストレス管理とリラックス方法
精神的なストレスは、筋肉の緊張を引き起こし、痛みを増強させることがあります。また、痛みが続くこと自体がストレスとなり、悪循環に陥ることも少なくありません。
趣味や軽い運動、瞑想、深呼吸など、自分に合ったリラックス方法を見つけ、ストレスを上手にコントロールすることが重要です。
必要であれば、専門家のカウンセリングを受けることも検討しましょう。
長時間同じ姿勢を避ける工夫
デスクワークや長距離運転など、長時間同じ姿勢を続けることは、腰椎に持続的な負担をかけ、椎間板への圧力を高めます。
少なくとも1時間に一度は立ち上がって軽く体を動かしたり、ストレッチをしたりする習慣をつけましょう。
座っているときも、時々姿勢を変えたり、腰を軽く動かしたりするだけでも効果があります。
長時間作業時の工夫
- 30分~1時間ごとに数分間の休憩を取る
- 休憩時には立ち上がって歩いたり、軽いストレッチを行う
- 座りっぱなしの場合は、時々お尻を浮かせたり、足踏みをする
医療機関での治療法とは
自宅でのケアや生活習慣の改善で症状が良くならない場合や、痛みが強い場合は、医療機関での専門的な治療が必要です。
椎間板ヘルニアの治療法には、大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。多くの場合、まずは保存療法から開始します。
保存療法について
保存療法は、手術以外の方法で症状の改善を目指す治療法です。痛みを和らげ、炎症を抑え、日常生活への復帰をサポートします。
薬物療法
痛みの程度や種類に応じて、様々な薬が用いられます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で痛みや炎症を抑えたり、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬、神経の痛みを緩和する神経障害性疼痛治療薬などが処方されることがあります。
理学療法
理学療法士の指導のもと、運動療法(ストレッチ、筋力トレーニング)、物理療法(温熱療法、電気刺激療法、牽引療法など)を行います。
個々の症状に合わせて、身体機能の回復と痛みの軽減を目指します。
ブロック注射
痛みが非常に強い場合や、他の保存療法で効果が乏しい場合に検討されます。神経の周りや硬膜外腔に局所麻酔薬やステロイド薬を注射し、痛みを直接的に抑える治療法です。
診断目的で行われることもあります。
保存療法の種類と概要
治療法 | 主な目的 | 内容例 |
---|---|---|
薬物療法 | 疼痛緩和、炎症抑制 | NSAIDs、筋弛緩薬、神経障害性疼痛治療薬 |
理学療法 | 身体機能回復、疼痛緩和 | 運動療法、温熱・電気療法、牽引療法 |
ブロック注射 | 強力な疼痛緩和、炎症抑制 | 神経根ブロック、硬膜外ブロック |
手術療法の選択基準
保存療法を一定期間(通常2~3ヶ月程度)行っても症状の改善が見られない場合や、以下のような場合には手術療法が検討されます。
- 耐え難い痛みが持続する
- 下肢の麻痺が進行する(足首が動かせない、力が入らないなど)
- 排尿・排便障害(膀胱直腸障害)が出現する
膀胱直腸障害は緊急手術が必要となる場合があるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。手術方法には、従来からの切開手術のほか、内視鏡を使った低侵襲な手術(MED法など)もあります。
どの手術方法が適しているかは、ヘルニアの状態や患者さんの状況によって異なりますので、医師とよく相談することが大切です。
リハビリテーションの重要性
手術療法を行った場合でも、術後のリハビリテーションは非常に重要です。筋力や柔軟性を取り戻し、正しい体の使い方を再学習することで、スムーズな社会復帰や再発予防につながります。
医師や理学療法士の指導に従い、焦らず計画的にリハビリテーションを進めましょう。保存療法の場合でも、症状が改善した後も再発予防のための運動継続が勧められます。
専門医に相談するタイミング
以下のような症状がある場合は、自己判断せずに早めに整形外科などの専門医に相談しましょう。
- 我慢できないほどの激しい痛みがある
- 足のしびれや痛みが悪化している
- 足に力が入らない、感覚が鈍い
- 安静にしていても痛みが改善しない
- 排尿や排便に異常を感じる(尿が出にくい、便秘が続くなど)
早期に適切な診断と治療を受けることが、症状の悪化を防ぎ、早期回復につながります。
よくある質問 (FAQ)
椎間板ヘルニアに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
椎間板ヘルニアは自然に治りますか?
ヘルニアのタイプや大きさ、症状の程度にもよりますが、飛び出した髄核が時間とともに体内に吸収されたり、小さくなったりして、自然に症状が改善することはあります。
多くの場合は保存療法で症状が軽快しますが、数ヶ月以上症状が続く場合や、悪化する場合は専門医の診察が必要です。
痛いときは温めるべき?冷やすべき?
一般的に、急性の激しい痛みや炎症がある場合(発症直後や熱感があるとき)は冷やす(アイシング)のが良いとされます。
一方、慢性的な鈍い痛みや筋肉のこわばりがある場合は温める(温熱療法)のが効果的なことがあります。ただし、自己判断が難しい場合や、どちらを試しても症状が悪化するような場合は、専門医に相談してください。
どんな運動が効果的ですか?避けるべき運動は?
症状が落ち着いている時期には、体幹を安定させるための軽い筋力トレーニング(ドローインなど)や、腰椎に負担の少ないストレッチ、ウォーキングなどが推奨されます。
避けるべき運動としては、腰を強くひねる動作、急激な前屈や後屈、ジャンプや衝撃の強い運動などがあります。運動の種類や強度は症状によって異なるため、必ず医師や理学療法士の指導を受けてください。
再発を防ぐためにできることはありますか?
再発予防には、日常生活での正しい姿勢や動作を心がけること、適度な運動を継続して体幹の筋力を維持すること、体重管理、禁煙などが重要です。
また、定期的に体のメンテナンスを行い、腰に負担をかけすぎない生活を送ることが大切です。少しでも異変を感じたら、早めに専門医に相談することも再発防止につながります。
以上
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