足立慶友医療コラム

変形性膝関節症の症状と治療 – 専門医による解説

2025.06.04

変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減り、炎症や痛みを引き起こす進行性の疾患です。「膝OA」とも呼ばれ、特に中高年以降の方に多く見られます。

この記事では、変形性膝関節症の基本的な知識、原因、主な症状、進行度、検査方法、そして様々な治療法について、専門医が分かりやすく解説します。

適切な情報を得て、ご自身の膝の状態を理解するための一助となれば幸いです。

変形性膝関節症(膝OA)とは何か

変形性膝関節症は、多くの方が悩まされる膝の代表的な病気の一つです。この病気について正しく理解することは、適切な対応への第一歩となります。

ここでは、膝関節の基本的な構造から、変形性膝関節症がどのような状態を指すのか、そしてその種類について説明します。

膝関節の構造と役割

膝関節は、太ももの骨である大腿骨(だいたいこつ)、すねの骨である脛骨(けいこつ)、そしてお皿と呼ばれる膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨で構成されています。

これらの骨の表面は、衝撃を吸収し、関節の動きを滑らかにする役割を持つ関節軟骨で覆われています。また、関節の安定性を高める靭帯や、さらなる衝撃吸収と適合性を高める半月板といった組織も重要です。

膝関節は、体重を支えながら、立つ、歩く、座るといった日常生活の基本的な動作を可能にする、人体において非常に重要な関節です。

膝関節の主な構成要素

構成要素主な役割変形性膝関節症との関連
関節軟骨衝撃吸収、滑らかな動きの実現摩耗、変性が主な病態
半月板衝撃吸収、安定性向上損傷が変形性膝関節症を誘発・悪化させることがある
靭帯関節の安定化緩みや損傷が不安定性を生み、軟骨への負担増

関節軟骨の重要性

関節軟骨は、厚さ数ミリ程度の弾力性のある組織で、硝子軟骨(しょうしなんこつ)とも呼ばれます。この軟骨には血管や神経が通っていないため、一度すり減ったり傷ついたりすると、自然に修復される能力は非常に低いという特徴があります。

変形性膝関節症では、この関節軟骨が徐々にすり減り、その下の骨が露出し、さらには骨の変形(骨棘形成など)が生じることがあります。

軟骨が失われると、骨同士が直接こすれ合うようになり、痛みや炎症、動きの制限といった症状が現れます。

変形性膝関節症の定義

変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis、略して膝OA)は、関節軟骨の変性・摩耗と、それに伴う関節辺縁の骨増殖(骨棘形成)、関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化などを特徴とする進行性の関節疾患です。

簡単に言うと、膝のクッションである軟骨がすり減り、骨の形が変わってしまう病気です。これにより、膝に痛みが生じたり、動きが悪くなったり、水がたまったりします。

進行すると、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。

原発性膝関節症と続発性膝関節症

変形性膝関節症は、その原因によって大きく二つに分類されます。それが原発性膝関節症と続発性膝関節症です。

原発性膝関節症は、明らかな原因がないにもかかわらず発症するもので、加齢、肥満、遺伝的要因、性別(女性に多い)などが複合的に関与していると考えられています。

変形性膝関節症の多くはこのタイプです。「膝OAとは」と検索される方が知りたい情報の多くは、この原発性膝関節症に関するものでしょう。

一方、続発性膝関節症は、膝の怪我(骨折、靭帯損傷、半月板損傷など)や他の病気(関節リウマチ、痛風など)が原因となって発症するものです。原因が特定できる点が原発性との違いです。

原発性膝関節症と続発性膝関節症の比較

特徴原発性膝関節症続発性膝関節症
主な原因加齢、肥満、遺伝、性別など複合的外傷(骨折、靭帯損傷など)、他の疾患(関節リウマチなど)
発症年齢中高年以降に多い原因疾患や外傷の時期により様々
割合変形性膝関節症の大部分を占める比較的少ない

変形性膝関節症の主な原因

変形性膝関節症の発症には、様々な要因が関わっています。これらの要因を理解することは、予防や進行を遅らせるために重要です。

特に「原発 性 膝関節 症」の場合、複数の要因が絡み合っていることが多いです。

加齢による影響

加齢は、変形性膝関節症の最も大きな危険因子の一つです。年齢とともに、関節軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われていきます。

また、長年にわたる膝への負荷の蓄積も、軟骨の摩耗を進行させます。新陳代謝の低下により、軟骨細胞の修復能力も衰えるため、すり減った軟骨が再生しにくくなります。

これらの変化が、変形性膝関節症の発症リスクを高めます。

体重増加と膝への負担

体重が増加すると、膝関節にかかる負担も増大します。歩行時には体重の約3~5倍、階段の昇降時には約7~8倍の負荷が膝にかかると言われています。

体重が1kg増えるだけでも、膝への負荷は大きく増加し、軟骨の摩耗を早める原因となります。肥満は、変形性膝関節症の発症だけでなく、進行を早める要因としても重要です。

適切な体重管理は、膝の健康を守る上で非常に大切です。

過去の膝の怪我や病気

過去に膝の骨折、靭帯損傷(前十字靭帯損傷など)、半月板損傷といった大きな怪我を経験したことがある場合、将来的に変形性膝関節症を発症するリスクが高まります。

これらの怪我は、関節の安定性を損なったり、軟骨に直接的なダメージを与えたりすることで、関節の変性を早める可能性があります。

また、関節リウマチや痛風、化膿性関節炎などの病気も、関節軟骨に影響を与え、続発性の変形性膝関節症を引き起こすことがあります。

遺伝的要因と生活習慣

変形性膝関節症の発症には、遺伝的な要因も関与していると考えられています。家族に変形性膝関節症の方がいる場合、発症しやすい傾向があることが報告されています。

ただし、遺伝的要因だけで発症するわけではなく、生活習慣などの環境要因との組み合わせが重要です。 O脚やX脚といった脚の形状も、膝関節の内側または外側に偏った負荷をかけやすく、変形性膝関節症のリスクを高めることがあります。

また、長時間の立ち仕事、重い物を運ぶ作業、膝を深く曲げる動作の多い生活習慣なども、膝への負担を増加させる可能性があります。

変形性膝関節症のリスクを高める要因

要因カテゴリ具体例膝への影響
身体的要因加齢、肥満、女性軟骨の変性、負荷増大
外傷・既往歴骨折、靭帯損傷、半月板損傷、関節リウマチ関節不安定性、軟骨損傷
生活習慣・環境O脚・X脚、過度な運動、特定の職業負荷の偏り、繰り返されるストレス

変形性膝関節症の代表的な症状

変形性膝関節症の症状は、病気の進行度や個人差によって様々です。初期には軽い症状でも、進行するにつれて日常生活に支障をきたすこともあります。

ここでは、代表的な症状を進行段階に沿って説明します。

初期症状:こわばりや軽い痛み

変形性膝関節症の初期には、朝起きた時や長時間座った後などに、膝がこわばる感じや、動き始めに軽い痛みを感じることがあります。

この段階の痛みは、少し動いているうちに和らぐことが多いです。また、膝を深く曲げたり、階段を昇り降りしたりする際に、違和感や軽い痛みを感じることもあります。

この時点では、日常生活に大きな支障はないかもしれませんが、膝からのサインを見逃さないことが大切です。

中期症状:動作時の痛みと可動域制限

病気が進行して中期になると、動作時の痛みがよりはっきりとしてきます。歩行時、特に歩き始めや長距離を歩いた後、階段昇降時、立ち座りの動作などで痛みが強くなる傾向があります。

痛みのために、正座やあぐらが困難になったり、膝を完全に伸ばしたり曲げたりすることが難しくなるなど、関節の可動域制限も現れ始めます。

この段階になると、日常生活での不便さを感じることが多くなります。

後期症状:安静時痛と膝の変形

さらに進行した後期には、何もしていない安静時にも膝が痛むようになります(安静時痛)。夜間に痛みが強くなり、睡眠が妨げられることもあります。

関節軟骨の摩耗が著しくなり、骨同士がこすれ合うことで、持続的な炎症が生じやすくなるためです。また、膝の変形が外見からも明らかになることがあります。

O脚変形が進行したり、膝が腫れて太く見えたりします。歩行が困難になり、杖や手すりが必要になるなど、日常生活動作(ADL)が著しく低下します。

症状の進行段階と特徴

進行段階主な症状日常生活への影響
初期動き始めの軽い痛み、こわばり軽微、または自覚しないことも
中期動作時の痛み(歩行、階段昇降)、可動域制限正座困難、長距離歩行の支障
後期安静時痛、夜間痛、著しい可動域制限、膝の変形歩行困難、日常生活の著しい支障

膝に水がたまる(関節水腫)

変形性膝関節症では、膝関節に炎症が起こると、関節液が過剰に分泌され、いわゆる「膝に水がたまる」状態(関節水腫:かんせつすいしゅ)になることがあります。

膝が腫れぼったくなり、熱感や重苦しさを感じたり、膝の曲げ伸ばしがさらに困難になったりします。

関節液は、本来、関節の潤滑油としての役割や軟骨への栄養供給の役割を担っていますが、炎症が強いと量が増えすぎてしまい、かえって症状を悪化させることがあります。

頻繁に水がたまる場合は、炎症が持続しているサインと考えられます。

変形性膝関節症の進行度と診断

変形性膝関節症の治療方針を決定するためには、病気がどの程度進行しているかを正確に把握することが重要です。進行度の評価には、主にレントゲン検査が用いられます。

ここでは、代表的な進行度分類と診断の流れについて解説します。

Kellgren-Lawrence分類(KL分類)とは

変形性膝関節症の進行度を評価する際、国際的によく用いられるのがKellgren-Lawrence分類(KL分類)です。

この分類は、レントゲン画像における関節裂隙(関節の隙間)の狭小化、骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成、軟骨下骨の硬化などの所見に基づいて、Grade 0からGrade 4までの5段階で評価します。

Gradeの数字が大きくなるほど、変形性膝関節症が進行していることを示します。

各グレードにおける特徴

KL分類の各グレードにおけるレントゲン所見と一般的な状態の目安は以下の通りです。

  • Grade 0:正常。変形性膝関節症の所見なし。
  • Grade 1:疑い。わずかな骨棘形成の疑いがあるが、関節裂隙の狭小化は明らかでない。
  • Grade 2:軽度。明らかな骨棘形成があり、関節裂隙の狭小化が軽度に認められる。
  • Grade 3:中等度。中等度の骨棘形成、明らかな関節裂隙の狭小化、骨硬化像などが認められる。
  • Grade 4:重度。大きな骨棘形成、著しい関節裂隙の狭小化(または消失)、著しい骨硬化像、骨の変形などが認められる。

ただし、レントゲン上の進行度と自覚症状の強さは必ずしも一致しないことがあります。Gradeが低くても強い痛みを感じる方もいれば、Gradeが高くても比較的症状が軽い方もいます。

KL分類の概要

グレードX線所見の主な特徴一般的な状態
Grade 1 (疑い)ごく軽微な骨棘症状は無いか、あってもごく軽い
Grade 2 (軽度)明らかな骨棘、軽度の関節裂隙狭小化の可能性初期症状(こわばり、軽い痛み)が出始める
Grade 3 (中等度)中等度の骨棘、明確な関節裂隙狭小化動作時痛、可動域制限が明らかになる
Grade 4 (重度)大きな骨棘、著しい関節裂隙狭小化、骨変形安静時痛、著しい機能障害、変形が目立つ

診断に至るまでの流れ

変形性膝関節症の診断は、まず患者さんからの症状の聞き取り(問診)から始まります。いつから、どのような時に、どの程度痛むのか、日常生活での困りごとなどを詳しく伺います。

次に、膝の腫れ、熱感、圧痛(押したときの痛み)、可動域、O脚変形の有無などを目で見て手で触れて確認します(視診・触診)。 そして、最も重要なのがレントゲン検査です。

通常、立位での膝関節正面および側面像を撮影し、関節裂隙の狭小化、骨棘の有無、骨の変形などを評価します。

これらの情報を総合的に判断し、変形性膝関節症の診断と進行度の評価を行います。必要に応じて、MRI検査や関節液検査、血液検査などを追加することもあります。

早期発見・早期対応の重要性

変形性膝関節症は進行性の疾患ですが、早期に発見し、適切な対応を開始することで、症状の悪化を遅らせたり、生活の質を維持したりすることが期待できます。

膝に違和感や軽い痛みを感じ始めた段階で専門医に相談することが大切です。「年のせいだから」と自己判断せず、まずは正確な診断を受けることが、その後の適切な治療やセルフケアにつながります。

「膝OA」かもしれないと感じたら、早めの受診を検討しましょう。

変形性膝関節症の検査方法

変形性膝関節症の診断や治療方針の決定には、いくつかの検査が用いられます。それぞれの検査には目的があり、得られる情報も異なります。

ここでは、主な検査方法について解説します。

問診と視診・触診

問診では、医師が患者さんの症状について詳しく尋ねます。 以下のような内容が重要になります。

  • いつから症状があるか
  • どのような時に痛むか(例:歩き始め、階段、安静時)
  • 痛みの程度や性質(例:ズキズキ、ジンジン)
  • 日常生活で困っていること(例:正座ができない、長く歩けない)
  • 過去の膝の怪我や病気の有無
  • 家族歴
  • 現在行っている治療や服用中の薬

視診では、医師が膝の状態を目で見て確認します。腫れ、赤み、変形(O脚など)、皮膚の状態などを観察します。 

触診では、膝に直接触れて、圧痛の部位や程度、熱感、水がたまっているか(関節水腫の有無)、関節の動き(可動域)、靭帯の安定性などを調べます。

これらの情報は、診断の手がかりとして非常に重要です。

レントゲン(X線)検査

レントゲン検査は、変形性膝関節症の診断において最も基本的で重要な検査です。骨の状態を画像で確認することができます。

通常、体重がかかった状態(立位)で正面像と側面像を撮影します。 レントゲン画像から、以下の点などを評価します。

  • 関節裂隙(大腿骨と脛骨の間の隙間)の狭小化の程度
  • 骨棘(骨のトゲ)の形成の有無と大きさ
  • 軟骨下骨の硬化(骨が硬くなっている状態)
  • 骨嚢胞(骨の中にできる袋状の空洞)の有無
  • 骨の変形の程度(O脚やX脚など)

これらの所見を総合的に評価し、前述のKL分類などを用いて進行度を判定します。

レントゲン検査は、比較的簡便に行え、費用もそれほど高くないため、初期診断や経過観察に広く用いられています。

MRI検査の役割

MRI(磁気共鳴画像)検査は、レントゲンでは写らない軟部組織(関節軟骨、半月板、靭帯、筋肉など)の状態を詳しく調べることができる検査です。

強力な磁石と電波を使って体内の詳細な断面像を得ます。 変形性膝関節症においてMRI検査が有用なのは、以下のような場合です。

  • 初期の変形性膝関節症で、レントゲンでは異常がはっきりしないが症状がある場合(軟骨の早期変化や骨髄浮腫の検出)
  • 半月板損傷や靭帯損傷など、他の疾患との鑑別が必要な場合
  • 手術を検討する際に、より詳細な関節内の情報が必要な場合

ただし、MRI検査はレントゲン検査に比べて時間がかかり、費用も高くなります。また、閉所恐怖症の方や体内に金属(ペースメーカーなど)が入っている方は受けられない場合があります。

全ての変形性膝関節症の患者さんに必須の検査というわけではなく、医師が必要と判断した場合に行われます。

主な画像検査の比較

検査方法主な観察対象利点留意点
レントゲン検査骨、関節裂隙簡便、安価、全体像の把握軟部組織は描出困難、初期変化の検出に限界
MRI検査軟骨、半月板、靭帯、骨髄軟部組織の詳細な評価、早期診断に有用高価、検査時間が長い、禁忌事項あり

関節液検査や血液検査

関節液検査は、膝に水がたまっている(関節水腫)場合に、注射器で関節液を採取して調べる検査です。関節液の色や濁り具合、粘稠度などを観察したり、顕微鏡で細胞数や結晶の有無などを調べたりします。

この検査により、変形性膝関節症による炎症の程度を評価したり、他の関節疾患(例:化膿性関節炎、痛風、偽痛風、関節リウマチなど)との鑑別を行ったりすることができます。

血液検査は、変形性膝関節症の診断に必須ではありませんが、他の疾患との鑑別のために行われることがあります。

例えば、関節リウマチが疑われる場合には、リウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体などの項目を調べます。また、感染症が疑われる場合には、白血球数やCRP(C反応性タンパク:炎症マーカー)などを測定します。

変形性膝関節症の治療法:保存療法

変形性膝関節症の治療は、大きく分けて保存療法と手術療法があります。多くの場合、まずは保存療法から開始します。

保存療法は、病気の進行を遅らせ、症状を和らげ、日常生活の質を維持・向上させることを目的とします。ここでは、主な保存療法について解説します。

生活指導と運動療法

生活指導は、膝への負担を軽減するための日常生活での工夫が中心となります。具体的な内容としては、

  • 体重管理:肥満は膝への負担を増大させるため、適切な体重を維持することが重要です。食事療法や運動を通じて減量を目指します。
  • 動作の工夫:床での生活(正座、あぐら)を避け、椅子やベッドを使用する。重い物を持つことを避ける。階段昇降を減らす(エレベーターやエスカレーターの利用)。
  • 靴の選択:クッション性があり、かかとが安定した靴を選ぶ。ハイヒールは避ける。

運動療法は、膝関節周囲の筋力を強化し、関節の安定性を高め、可動域を維持・改善することを目的とします。痛みのない範囲で行うことが原則です。

代表的な運動には、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の強化訓練、水中ウォーキング、自転車エルゴメーターなどがあります。専門医や理学療法士の指導のもと、個々の状態に合った運動プログラムを実践することが大切です。

運動療法の種類とポイント

運動の種類主な効果実施のポイント
筋力トレーニング(大腿四頭筋など)膝の安定性向上、衝撃吸収痛みが出ない範囲で、正しいフォームで
ストレッチング関節可動域の維持・改善、筋肉の柔軟性向上ゆっくりと反動をつけずに行う
有酸素運動(ウォーキング、水中運動)体重管理、全身持久力向上膝への負担が少ない方法を選択

薬物療法(内服薬・外用薬)

薬物療法は、主に痛みを和らげ、炎症を抑えることを目的として行います。 内服薬としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:エヌセイズ)がよく用いられます。

痛みを抑える効果が高いですが、胃腸障害や腎機能障害などの副作用に注意が必要です。アセトアミノフェンは、NSAIDsに比べて副作用が少ないとされていますが、効果はややマイルドです。症状や状態に応じて、これらの薬を使い分けたり、併用したりします。

その他、弱オピオイドや神経障害性疼痛治療薬などが用いられることもあります。

外用薬としては、NSAIDsを含む貼り薬(湿布)や塗り薬(軟膏、クリーム、ゲル)があります。皮膚から薬剤が吸収され、局所的に効果を発揮します。

内服薬に比べて全身的な副作用は少ないですが、皮膚のかぶれなどに注意が必要です。

関節内注射(ヒアルロン酸など)

関節内注射は、膝関節内に直接薬剤を注入する治療法です。 ヒアルロン酸注射は、関節液の主成分であるヒアルロン酸を補充することで、関節の潤滑性を高め、衝撃吸収機能を改善し、痛みを和らげる効果が期待されます。

通常、1週間に1回、連続して5回程度行い、その後は状態に応じて間隔を調整します。効果には個人差があります。

ステロイド注射は、強力な抗炎症作用があり、強い痛みや炎症、関節水腫がある場合に用いられます。速効性がありますが、頻繁に繰り返すと軟骨や靭帯を傷める可能性があるため、使用回数や間隔には注意が必要です。医師の判断のもと、慎重に行われます。

装具療法(サポーターや足底板)

装具療法は、膝関節の安定性を高めたり、負荷を軽減したりすることを目的として行います。 膝サポーターは、膝関節を保温し、安定させ、動きをサポートする効果があります。

様々な種類があり、症状や目的に応じて選択します。ただし、長期間の使用や締め付けすぎは、筋力低下や血行不良を招く可能性もあるため、適切に使用することが大切です。

足底板(そくていばん:インソール)は、靴の中敷きとして使用し、足のアーチをサポートしたり、O脚やX脚による膝への偏った負荷を補正したりする目的で用いられます。

特にO脚変形のある変形性膝関節症では、外側が高くなった足底板(外側ウェッジ)を使用することで、膝の内側にかかる負担を軽減する効果が期待できます。

主な保存療法の比較

治療法主な目的代表的な内容
生活指導膝への負担軽減体重管理、動作改善、和式から洋式生活へ
運動療法筋力強化、可動域改善大腿四頭筋訓練、ストレッチ、水中運動
薬物療法疼痛・炎症の軽減NSAIDs、アセトアミノフェン、外用薬
関節内注射疼痛軽減、関節機能改善ヒアルロン酸注射、ステロイド注射
装具療法関節の安定化、負荷軽減膝サポーター、足底板

これらの保存療法は、単独で行うよりも、いくつかを組み合わせて行うことで、より効果が高まることが期待されます。医師とよく相談し、個々の状態に合った治療計画を立てることが重要です。

変形性膝関節症の治療法:手術療法

保存療法を続けても症状の改善が見られない場合や、日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術療法が検討されます。

手術療法は、痛みの根本的な原因を取り除いたり、関節機能を再建したりすることを目的とします。ここでは、代表的な手術療法について解説します。

手術療法を検討するタイミング

手術療法を検討するタイミングは、患者さんの年齢、活動レベル、症状の程度、変形の進行度、そして何よりも患者さん自身がどの程度の生活の質を望んでいるかによって異なります。

一般的には、以下のような場合に手術が考慮されます。

  • 保存療法(薬物療法、運動療法、注射など)を十分な期間行っても、痛みが改善しない。
  • 痛みのために、歩行や階段昇降などの日常生活動作が著しく困難になっている。
  • 安静時や夜間にも強い痛みがあり、睡眠が妨げられる。
  • 膝の変形が進行し、外見上も気になる、または不安定性が強い。

手術を受けるかどうかは、医師と十分に話し合い、手術のメリットとデメリット(リスクや合併症など)をよく理解した上で決定することが大切です。

患者さんの価値観やライフスタイルも考慮して、最適な治療法を選択します。

関節鏡視下手術(デブリードマンなど)

関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)は、関節鏡と呼ばれる細い内視鏡を膝関節内に挿入し、モニターで関節内部を観察しながら行う手術です。

数カ所の小さな切開(通常1cm程度)で行うため、患者さんの体への負担が比較的少ないのが特徴です。 変形性膝関節症に対して行われる関節鏡視下手術には、以下のようなものがあります。

  • デブリードマン(滑膜切除、遊離体除去):炎症を起こしている滑膜(関節を包む膜)を切除したり、関節内にはがれ落ちた軟骨片や骨棘(遊離体)を取り除いたりすることで、痛みや引っかかり感を軽減します。
  • 半月板切除・縫合:変形性膝関節症に伴って半月板が損傷している場合に、損傷部分を切除したり、縫合したりします。

関節鏡視下手術は、主に初期から中期の変形性膝関節症で、ロッキング(膝が急に動かなくなること)や引っかかり感などの機械的な症状が強い場合に良い適応となることがあります。

ただし、すり減った軟骨を再生させる手術ではないため、効果は一時的であったり、限定的であったりすることもあります。

高位脛骨骨切り術(HTO)

高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ、High Tibial Osteotomy:HTO)は、主にO脚変形を伴う内側型の変形性膝関節症に対して行われる手術です。

脛骨(すねの骨)の膝に近い部分で骨を切り、骨の角度を調整して固定し直すことで、膝の内側にかかっていた体重の負荷を外側に移動させ、痛みを軽減し、関節の寿命を延ばすことを目的とします。

この手術の利点は、自分自身の関節を温存できるため、術後もスポーツ活動など、ある程度の活動性が期待できることです。また、人工関節に比べて感染のリスクが低いとされています。

適応となるのは、比較的活動性の高い若年~中年層(一般的に65歳くらいまで)で、関節の変形が内側に限局しており、外側の軟骨は比較的保たれている場合などです。

骨が癒合するまでに時間がかかること、術後のリハビリが重要であることなどが留意点です。

人工膝関節置換術(TKA)

人工膝関節置換術(じんこうひざかんせつちかんじゅつ、Total Knee Arthroplasty:TKA)は、傷んだ膝関節の表面を取り除き、金属やポリエチレンなどでできた人工の関節に置き換える手術です。

変形性膝関節症の進行期から末期で、強い痛みや機能障害があり、他の治療法では効果が得られない場合に適応となります。

この手術の最大の利点は、除痛効果が高く、安定した関節機能の回復が期待できることです。手術により、歩行能力が改善し、日常生活の質が大きく向上することが多いです。

人工関節には耐用年数があり、一般的には15~20年程度と言われていますが、近年は素材やデザインの改良により、さらに長持ちする傾向にあります。

しかし、将来的に再置換手術が必要になる可能性も考慮する必要があります。また、感染や深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)などの合併症のリスクもゼロではありません。

手術には、膝関節全体を置き換える全置換術(TKA)と、傷んだ部分だけを置き換える単顆置換術(UKA)があります。

どちらの手術を選択するかは、病状や年齢、活動性などを総合的に判断して決定します。

主な手術療法の比較

手術法主な目的対象(目安)特徴
関節鏡視下手術症状緩和、機械的障害の除去初期~中期、ロッキング症状など低侵襲、効果は限定的な場合も
高位脛骨骨切り術 (HTO)荷重軸の変更、除痛、関節温存比較的若年・活動的な内側型OA自分の関節温存、骨癒合に時間
人工膝関節置換術 (TKA/UKA)除痛、関節機能再建進行期~末期、高度な疼痛・機能障害高い除痛効果、人工物の耐用年数あり

どの手術方法が適しているかは、個々の患者さんの状態によって異なります。

手術を検討する際には、専門医と十分に相談し、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、納得のいく治療法を選択することが重要です。

よくある質問

変形性膝関節症に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q. 変形性膝関節症を予防する方法はありますか?

A. 完全に予防することは難しいかもしれませんが、発症リスクを減らしたり、進行を遅らせたりするためにできることはあります。

予防のために心がけたいこと

  • 適切な体重管理:肥満は膝への大きな負担となるため、標準体重を維持するよう心がけましょう。
  • 適度な運動:膝に負担の少ない運動(ウォーキング、水泳、自転車など)で、膝周りの筋力を維持し、関節の柔軟性を保ちましょう。特に太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることは重要です。
  • 正しい姿勢と動作:日常生活での膝への負担を減らす工夫をしましょう。例えば、重い物を持つ時は膝を曲げて腰を落とす、床からの立ち上がりは手をつくなどです。
  • O脚・X脚の対策:もしO脚やX脚が気になる場合は、適切な靴を選んだり、必要に応じて足底板を使用したりすることも考慮できます。
  • 膝の怪我の予防と適切な治療:スポーツなどでの膝の怪我を予防し、もし怪我をした場合は、放置せずに適切な治療を受けましょう。

これらのことを日頃から意識することが、膝の健康寿命を延ばすことにつながります。

Q. サプリメント(グルコサミンやコンドロイチンなど)は効果がありますか?

A. グルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などのサプリメントが変形性膝関節症の症状改善や軟骨再生に効果があるかについては、医学的な意見が分かれているのが現状です。

一部の研究では症状緩和効果が示唆されていますが、効果は限定的であるか、プラセボ効果(思い込みによる効果)と区別がつかないとする報告も多くあります。

これらのサプリメントは、あくまで健康食品であり、医薬品のような厳密な効果検証がされているわけではありません。

もし試してみたい場合は、医師に相談の上、過度な期待はせず、他の基本的な治療(運動療法や体重管理など)と並行して行うのが良いでしょう。

サプリメントだけに頼るのではなく、医学的根拠に基づいた治療を優先することが大切です。

Q. どのタイミングで専門医に相談すべきですか?

A. 以下のような症状や状態が見られる場合は、一度整形外科の専門医に相談することをお勧めします。

  • 膝の痛みが数週間以上続く場合
  • 動き始めや特定の動作(階段昇降、立ち座りなど)で痛む場合
  • 膝がこわばる、腫れる、熱感がある場合
  • 正座ができない、膝が完全に伸びない・曲がらないなど、動きが悪くなった場合
  • 歩くのが辛い、日常生活に支障が出始めた場合

「年のせいだから仕方ない」「そのうち治るだろう」と自己判断せず、早めに専門医の診察を受けることで、正確な診断と適切なアドバイスが得られます。

早期発見・早期対応が、症状の悪化を防ぎ、より良い状態を長く保つために重要です。「膝OA かも?」と感じたら、遠慮なくご相談ください。

Q. 手術後のリハビリテーションはどのくらいかかりますか?

A. 手術後のリハビリテーションの期間や内容は、手術の種類、患者さんの年齢や体力、術前の状態などによって大きく異なります。 例えば、関節鏡視下手術の場合、比較的侵襲が少ないため、術後数日から数週間程度のリハビリで日常生活に復帰できることが多いです。 

高位脛骨骨切り術(HTO)の場合、骨が癒合するまでの期間(通常2~3ヶ月程度)は体重を完全にかけられない時期があり、その後徐々に負荷を増やしていくため、リハビリ期間は数ヶ月から半年程度かかることが一般的です。

スポーツ復帰などはさらに時間が必要な場合があります。

人工膝関節置換術(TKA)の場合、術後早期から積極的にリハビリを開始し、通常は数週間から3ヶ月程度の入院または通院リハビリで、杖を使った歩行や日常生活動作の自立を目指します。

その後も、筋力回復や関節可動域改善のために、数ヶ月から1年程度、自主的なトレーニングや通院リハビリを続けることが推奨されます。

いずれの手術においても、リハビリテーションは手術の成果を最大限に引き出し、より良い機能回復を得るために非常に重要です。医師や理学療法士の指導のもと、焦らず根気強く取り組むことが大切です。

手術後の一般的なリハビリ期間の目安

手術の種類入院期間の目安社会復帰までの目安スポーツ復帰の目安
関節鏡視下手術日帰り~数日数日~数週間数週間~数ヶ月
高位脛骨骨切り術数週間~1ヶ月半程度2~4ヶ月程度6ヶ月~1年程度
人工膝関節置換術2~4週間程度1~3ヶ月程度軽いスポーツは3~6ヶ月以降(医師と相談)

上記はあくまで一般的な目安であり、個人差が大きいことをご理解ください。具体的なリハビリ計画については、担当医や理学療法士とよく相談してください。

変形性膝関節症は、多くの方が経験する可能性のある疾患です。しかし、正しい知識を持ち、適切な対応をすることで、症状とうまく付き合っていくことは可能です。

膝のことでお悩みの方は、一人で抱え込まず、専門医にご相談ください。

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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