足立慶友医療コラム

膝の治療の進め方と痛み改善のための対処法

2025.06.06

膝の痛みは、多くの方が経験するつらい症状の一つです。日常生活や仕事、趣味活動にも大きな影響を及ぼすことがあります。

この記事では、膝の痛みに悩む方々に向けて、その原因から治療法の選択、そして痛みを和らげるための具体的な対処法まで、分かりやすく解説します。

膝の痛みの原因と種類

膝の痛みを引き起こす原因は多岐にわたります。年齢による体の変化、突発的なケガ、あるいは何らかの病気が背景にあることも考えられます。

原因を正しく把握することが、適切な治療への第一歩です。ここでは、主な原因と痛みの種類について詳しく見ていきましょう。

加齢による変化

年齢を重ねるとともに、私たちの体には様々な変化が現れます。膝関節も例外ではありません。

長年の使用により、関節の軟骨がすり減ったり、関節を支える筋力が低下したりすることがあります。これらの変化は、膝の痛みを引き起こす主要な要因の一つです。

特に、膝のクッションの役割を果たす軟骨が摩耗すると、骨同士が直接こすれ合い、炎症や痛みが生じやすくなります。また、膝関節周囲の筋肉が弱くなると、関節にかかる負担が増大し、痛みを誘発したり、既存の痛みを悪化させたりする可能性があります。

これらの加齢に伴う変化は、徐々に進行することが多く、初期には軽い違和感程度でも、時間とともに痛みが強くなる傾向があります。

スポーツや事故による外傷

スポーツ活動中の急な方向転換やジャンプ、着地時の衝撃、あるいは交通事故や転倒などによって、膝に大きな力が加わると、靭帯損傷、半月板損傷、骨折といった外傷が生じることがあります。

これらの外傷は、強い痛みや腫れ、関節の不安定感などを伴うことが一般的です。

代表的な膝の外傷

  • 前十字靭帯損傷
  • 後十字靭帯損傷
  • 内側側副靭帯損傷
  • 外側側副靭帯損傷
  • 半月板損傷
  • 膝蓋骨脱臼・骨折

これらの外傷は、適切な初期対応と治療が重要です。放置すると、関節の機能障害が残ったり、将来的に変形性膝関節症などの二次的な問題を引き起こしたりするリスクがあります。

スポーツ選手だけでなく、日常生活における突発的な事故でも起こりうるため、注意が必要です。

病気による膝の痛み

膝の痛みを引き起こす病気も様々です。代表的なものとしては、変形性膝関節症や関節リウマチなどが挙げられます。

これらの病気は、それぞれ特徴的な症状や進行様式を持ち、専門的な診断と治療が必要です。

膝の痛みを引き起こす主な病気

病名主な特徴好発年齢・性別
変形性膝関節症軟骨のすり減り、骨の変形。初期は動作開始時の痛み、進行すると持続的な痛みや可動域制限。中高年以降、特に女性に多い。
関節リウマチ自己免疫疾患。複数の関節に対称性の腫れや痛み、朝のこわばり。30~50代の女性に多いが、幅広い年齢層で発症。
痛風・偽痛風尿酸塩やピロリン酸カルシウムの結晶が関節に沈着し炎症。突然の激しい痛み、発赤、腫脹。痛風は中年男性、偽痛風は高齢者に多い。

これらの病気以外にも、化膿性関節炎(細菌感染による関節炎)や骨壊死、腫瘍などが膝の痛みの原因となることもあります。

原因となる病気によって治療法が大きく異なるため、正確な診断が何よりも大切です。自己判断せずに、専門医の診察を受けるようにしましょう。

生活習慣と膝への負担

日々の生活習慣も、膝の健康に大きく関わっています。

体重の増加、運動不足による筋力低下、膝に負担のかかる姿勢や動作の繰り返しなどは、膝の痛みを引き起こしたり、悪化させたりする要因となります。

例えば、体重が増加すると、歩行時や階段昇降時に膝にかかる負荷が数倍にもなると言われています。この過剰な負荷が長期間続くと、軟骨の摩耗を早めたり、関節炎を誘発したりする可能性があります。

また、運動不足は膝を支える太ももやお尻の筋肉を弱らせ、関節の安定性を低下させます。その結果、膝への負担が集中しやすくなり、痛みが生じやすくなります。

膝に負担をかけやすい生活習慣の例

  • 長時間の立ち仕事や正座
  • 重い物を頻繁に持ち運ぶ作業
  • 肥満や急激な体重増加
  • 運動不足による筋力低下
  • 合わない靴の使用

健康的な生活習慣を心がけることは、膝の痛みの予防や改善に繋がります。自身の生活を見直し、膝に優しい生活を送ることが重要です。

膝の痛みを放置するリスク

膝に痛みを感じても、「そのうち治るだろう」「忙しいから」と放置してしまう方も少なくありません。しかし、膝の痛みを放置することには様々なリスクが伴います。

早期に対処すれば軽快したかもしれない症状が、深刻な問題に発展することもあるのです。

症状の悪化と慢性化

初期の軽い痛みや違和感を放置すると、原因となっている状態が進行し、痛みが強くなったり、頻繁に起こるようになったりする可能性があります。

例えば、変形性膝関節症の場合、初期には動き始めに痛む程度でも、進行すると安静時にも痛むようになり、夜も眠れないほどの激痛に悩まされることもあります。

また、炎症が長引くと、痛みが慢性化し、治療が難しくなるケースも見られます。

痛みが慢性化すると、痛みの感覚が脳に記憶され、原因が取り除かれても痛みが続く「痛覚過敏」の状態になることもあります。

こうなると、治療に対する反応も悪くなる傾向があるため、痛みが軽いうちに適切な対応をとることが大切です。

日常生活への支障

膝の痛みが強くなると、日常生活の様々な場面で支障が生じます。歩く、立つ、座るといった基本的な動作が困難になるだけでなく、趣味や仕事にも影響が出始めます。

活動範囲が狭まり、生活の質(QOL)が著しく低下する可能性があります。

膝の痛みが日常生活に及ぼす影響例

場面具体的な支障影響
移動歩行時の痛み、長距離歩行困難、階段昇降の苦痛外出機会の減少、行動範囲の縮小
家事立っているのが辛い、しゃがむ動作ができない、掃除や料理が困難日常生活の自立度低下
仕事通勤困難、作業効率の低下、職種によっては継続困難経済的な問題、キャリアへの影響

このように、膝の痛みは身体的な苦痛だけでなく、社会生活や精神面にも大きな影響を及ぼす可能性があるのです。

他の部位への影響

膝の痛みをかばって不自然な歩き方や体の使い方をしていると、腰や股関節、足首など、他の部位に負担がかかり、新たな痛みや不調を引き起こすことがあります。

例えば、痛む膝をかばって片足に体重をかけて歩いていると、反対側の膝や腰に負担が集中し、二次的な障害が生じる可能性があります。

また、膝の機能が低下すると、体のバランス能力も低下し、転倒しやすくなることもあります。

高齢者の場合、転倒は骨折に繋がりやすく、寝たきりの原因となることもあるため、特に注意が必要です。膝の痛みは、膝だけの問題にとどまらず、全身の健康に影響を及ぼすことを理解しておく必要があります。

精神的な影響

持続的な痛みや活動制限は、精神面にも影響を与えることがあります。

痛みが続くことによるストレス、好きなことができないことへの不満、将来への不安などが積み重なり、気分の落ち込みや意欲の低下、さらには抑うつ状態に陥ることも少なくありません。

特に、活動的な方ほど、膝の痛みによって行動が制限されることへのフラストレーションは大きくなりがちです。社会とのつながりが希薄になったり、孤立感を深めたりすることもあります。

身体的な治療と並行して、精神的なサポートも重要になる場合があります。

膝の治療に向けた準備

膝の痛みに悩んだら、まずは専門医に相談することが大切です。

しかし、ただ漫然と医療機関を受診するのではなく、事前にいくつかの準備をしておくことで、よりスムーズで効果的な診療に繋がります。ここでは、治療に向けた準備について解説します。

専門医の選び方

膝の痛みを診る専門医は、主に整形外科医です。整形外科の中でも、膝関節を専門とする医師や、スポーツ整形外科を専門とする医師などがいます。

原因や症状に応じて、適切な専門医を選ぶことが大切です。

専門医を選ぶ際の着眼点

  • 膝関節の疾患や外傷に関する診断・治療経験が豊富か
  • 説明が丁寧で分かりやすいか
  • 患者の希望やライフスタイルを考慮した治療方針を提案してくれるか
  • 手術だけでなく、保存療法にも精通しているか

医療機関のホームページや口コミ、かかりつけ医からの紹介などを参考に、信頼できる専門医を見つけるようにしましょう。

複数の医師の意見を聞くセカンドオピニオンも有効な手段の一つです。

診察前に準備しておくこと

診察を受ける際には、医師に正確な情報を伝えることが、的確な診断と治療計画の立案に繋がります。事前に自分の症状や経過を整理しておくと、スムーズに伝えることができます。

診察前に整理しておきたい情報

情報項目具体例なぜ重要か
痛みの始まりいつから、何がきっかけで痛むようになったか(例:3ヶ月前から、転倒後から)原因究明の手がかりになる
痛みの性質・程度ズキズキ、ジンジン、重だるいなど。安静時、動作時、夜間痛の有無。痛みの強さ(10段階評価など)病状の把握、重症度の判断
症状の経過良くなっているか、悪化しているか、変わらないか。特定の動作で悪化するか。病気の進行度や治療効果の判断
既往歴・治療歴過去の膝のケガや病気、受けた治療、常用薬、アレルギーなど治療法選択の参考、合併症リスクの考慮
生活状況仕事内容、運動習慣、日常生活での困りごと治療目標の設定、生活指導の参考

メモなどにまとめておくと、診察時に伝え忘れを防ぐことができます。また、現在服用している薬がある場合は、お薬手帳を持参すると良いでしょう。

質問したいことの整理

診察時には、医師に聞きたいことや不安に思うことを事前に整理しておくことも大切です。

限られた診察時間の中で、疑問点を解消し、納得して治療に進むためには、質問事項をリストアップしておくことをお勧めします。

例えば、「自分の膝の状態はどうなっているのか」「考えられる原因は何か」「どのような治療法があり、それぞれのメリット・デメリットは何か」「治療期間や費用の目安はどれくらいか」「日常生活で気をつけることは何か」など、具体的に質問することで、より深い理解が得られます。

遠慮せずに質問し、疑問や不安を解消することが、治療への主体的な参加に繋がります。

治療法の情報収集のポイント

医師からの説明に加えて、自分でも治療法に関する情報を集めることは有益です。ただし、インターネット上には様々な情報が溢れており、中には不正確な情報や誇大な広告も含まれているため注意が必要です。

情報収集の際は、公的機関や医療機関、学術団体などが発信する信頼性の高い情報を参考にしましょう。

治療法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、個々の患者さんの状態やライフスタイルによって適した治療法は異なります。

情報を鵜呑みにせず、あくまで参考として、最終的には医師とよく相談して治療法を決定することが重要です。

膝の治療法の種類と特徴

膝の痛みの治療法は、大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。また、近年では「再生医療」といった新しい治療選択肢も登場してきています。

どの治療法を選択するかは、痛みの原因、症状の程度、年齢、活動レベル、そして患者さん自身の希望などを総合的に考慮して決定します。

保存療法

保存療法は、手術を行わずに症状の改善を目指す治療法です。多くの膝の痛みは、まず保存療法から開始されます。主な保存療法には、薬物療法、運動療法・リハビリテーション、装具療法などがあります。

薬物療法

薬物療法は、痛みを和らげたり、炎症を抑えたりすることを目的として行います。内服薬(飲み薬)、外用薬(湿布や塗り薬)、関節内注射などがあります。

代表的な保存療法の種類と目的

治療法主な目的具体的な内容例
薬物療法痛み軽減、炎症抑制消炎鎮痛剤(内服・外用)、ヒアルロン酸関節内注射、ステロイド関節内注射
運動療法・リハビリテーション筋力強化、関節可動域改善、膝の安定性向上膝周囲の筋力トレーニング、ストレッチ、歩行訓練、物理療法(温熱・電気刺激など)
装具療法膝関節の保護、負担軽減、安定性向上膝サポーター、足底板(インソール)、杖の使用

内服薬としては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が一般的に用いられます。

炎症を抑え、痛みを軽減する効果が期待できます。外用薬は、皮膚から薬剤を吸収させ、局所的な痛みや炎症を和らげます。

関節内注射では、ヒアルロン酸製剤を関節内に注入し、関節の潤滑性を高め、痛みを軽減したり、炎症が強い場合にはステロイドを注入して炎症を強力に抑えたりします。

これらの薬物療法は、他の治療法と組み合わせて行われることが一般的です。

運動療法・リハビリテーション

運動療法は、膝関節周囲の筋力を強化したり、関節の動きをスムーズにしたりすることで、膝への負担を軽減し、痛みの改善を目指す治療法です。

理学療法士などの専門家の指導のもと、個々の状態に合わせたプログラムが組まれます。太ももの前側にある大腿四頭筋や、太ももの裏側にあるハムストリングス、お尻の筋肉などを鍛えることで、膝関節の安定性が高まります。

また、ストレッチによって筋肉や関節の柔軟性を高めることも重要です。物理療法として、温熱療法や電気刺激療法なども併用されることがあります。

装具療法

装具療法は、サポーターや足底板(インソール)、杖などを用いて、膝関節にかかる負担を軽減したり、関節を安定させたりする治療法です。

膝サポーターは、保温効果や関節の固定、動きのサポートなどの目的で使用します。足底板は、足のアーチをサポートしたり、O脚やX脚を補正したりすることで、膝への負担を軽減します。

痛みが強い場合や歩行が不安定な場合には、杖を使用することで、膝への荷重を減らし、安全な歩行を助けます。

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合や、外傷などにより関節の損傷が大きい場合には、手術療法が検討されます。代表的な手術療法には、関節鏡視下手術や人工関節置換術などがあります。

関節鏡視下手術

関節鏡視下手術は、関節鏡という細い内視鏡を膝関節に挿入し、モニターで関節内部を観察しながら行う手術です。

小さな切開で行うため、患者さんの体への負担が少なく、術後の回復も比較的早いという利点があります。

半月板損傷の修復や切除、靭帯再建術、軟骨損傷の治療など、様々な膝の疾患や外傷に対して行われます。

代表的な手術療法の種類と目的

手術法主な対象疾患・状態手術の概要
関節鏡視下手術半月板損傷、靭帯損傷、離断性骨軟骨炎など数カ所の小さな切開から内視鏡や手術器具を挿入し、損傷部位を修復・切除。
人工関節置換術重度の変形性膝関節症、関節リウマチなど損傷した関節表面を金属やポリエチレンなどでできた人工関節に置き換える。
高位脛骨骨切り術O脚変形を伴う変形性膝関節症(主に内側型)脛骨(すねの骨)の一部を切り、骨の角度を矯正することで膝の内側にかかる負担を軽減する。

人工関節置換術

人工関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチなどによって著しく損傷した関節の表面を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節部品に置き換える手術です。

痛みの原因となる損傷部分を取り除くため、除痛効果が高く、関節機能の改善も期待できます。手術により、歩行能力の回復や日常生活動作の改善が見込まれます。

人工関節には耐用年数があるため、年齢や活動度などを考慮して適応が判断されます。

再生医療などの新しい治療法

近年、自己の細胞や組織を利用して損傷した組織の修復を目指す再生医療が、膝関節の治療においても注目されています。

例えば、自分の血液から成長因子を多く含む成分(PRP:多血小板血漿)を抽出し、関節内に注射する方法や、自分の軟骨細胞や幹細胞を培養して移植する方法など、様々な研究や臨床応用が進められています。

これらの治療法は、まだ保険適用外であったり、適応が限られていたりする場合もありますが、将来的に有望な治療選択肢の一つとして期待されています。

治療を受ける場合は、効果やリスク、費用などについて十分に説明を受け、理解した上で選択することが重要です。

治療法選択の考え方

膝の治療法は一つではありません。どの治療法が最も適しているかは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。

医師は、診断結果に基づいて、考えられる治療の選択肢と、それぞれのメリット・デメリット、期待される効果、起こりうる合併症などについて詳しく説明します。

患者さん自身も、自分のライフスタイルや治療に対する希望を医師に伝え、十分に話し合った上で、納得のいく治療法を選択することが大切です。

治療法を選ぶ際に医師と相談したい点

  • 各治療法の具体的な内容と、自分への適応
  • 期待できる効果と、その持続期間
  • 治療に伴うリスクや副作用、合併症
  • 治療期間や入院期間、費用のおおよその目安
  • 治療後の生活やリハビリテーションについて

疑問や不安な点があれば遠慮なく質問し、双方が納得できる形で治療方針を決定することが、治療を成功させるための鍵となります。

膝の痛みを改善するためのセルフケア

医療機関での治療と並行して、あるいは治療後の再発予防として、日常生活の中で自分自身で行えるケア(セルフケア)も非常に重要です。

膝に優しい生活習慣を心がけ、適切な運動を行うことで、痛みの軽減や機能改善、さらにはQOLの向上に繋がります。

日常生活での注意点

日々の生活の中には、知らず知らずのうちに膝に負担をかけている動作や習慣が潜んでいることがあります。これらを見直し、改善することがセルフケアの第一歩です。

正しい姿勢と動作

立っている時、座っている時、歩いている時など、常に正しい姿勢を意識することが大切です。猫背や反り腰は、体のバランスを崩し、膝への負担を増加させる可能性があります。

歩く際には、かかとから着地し、足の裏全体で体重を支え、つま先で蹴り出すように意識すると、膝への衝撃を和らげることができます。

また、重い物を持つ際は、膝を曲げて腰を落とし、体に引き寄せてから持ち上げるようにしましょう。

膝に負担をかけない工夫

日常生活の中で、膝に負担のかかる動作をできるだけ避ける工夫も有効です。例えば、長時間の正座やあぐらは避け、椅子を使用するようにしましょう。

床からの立ち上がりは膝に大きな負担がかかるため、手すりを利用したり、四つん這いになってから立ち上がったりするなどの工夫が考えられます。

また、階段の昇り降りは、手すりを利用し、一段ずつゆっくりと行うように心がけましょう。痛みが強い場合は、エレベーターやエスカレーターを積極的に利用することも検討します。

膝の負担を軽減する生活動作の工夫例

場面工夫のポイント理由
床に座る・立つ椅子や座椅子を使用する。立ち上がりは手すりや壁を利用。深く膝を曲げる動作、床からの立ち上がりは膝への負荷が大きい。
階段昇降手すりを利用。痛い方の足を後に出して降りる、痛くない方の足から昇る。膝への衝撃を分散、負担の少ない方の足で支える。
入浴浴槽内に手すり、滑り止めマット。シャワーチェアの使用。転倒防止、膝を深く曲げずに済む。

自宅でできる運動療法

専門家の指導のもとで行う運動療法に加えて、自宅で継続できる簡単な運動も膝の痛みの改善に役立ちます。

ただし、痛みが強いときや、医師から運動を制限されている場合は無理に行わず、必ず指示に従ってください。

筋力トレーニング

膝関節を支える筋肉(特に太ももの筋肉)を鍛えることは、膝の安定性を高め、負担を軽減するために非常に重要です。特別な器具を使わずにできる簡単なトレーニングでも効果が期待できます。

自宅でできる簡単な膝の筋力トレーニング

トレーニング名主なターゲット筋簡単な方法
膝伸ばし運動(パテラセッティング)大腿四頭筋(太もも前)仰向けで膝の下に丸めたタオルを置き、タオルを押しつぶすように力を入れ5秒保持。
足上げ運動(SLR)大腿四頭筋、腸腰筋仰向けで片膝を立て、もう片方の足を伸ばしたまま10cmほど上げ5秒保持。
お尻上げ運動(ヒップリフト)大殿筋(お尻)、ハムストリングス(太もも裏)仰向けで両膝を立て、お尻を持ち上げて5秒保持。

これらの運動は、無理のない範囲で、ゆっくりとした動作で行うことがポイントです。回数やセット数は、体力や痛みの状態に合わせて調整しましょう。

ストレッチ

筋肉や関節の柔軟性を保つことも、膝の痛みの予防・改善には大切です。特に、太ももの前後の筋肉、ふくらはぎの筋肉などを中心に、ゆっくりと伸ばすストレッチを行いましょう。

お風呂上がりなど、体が温まっている時に行うとより効果的です。痛みを感じるほど強く伸ばすのは避け、心地よい範囲で数十秒間キープします。

食事と栄養管理

健康な体づくりは、バランスの取れた食事から始まります。

特定の食品が膝の痛みを劇的に改善するというわけではありませんが、骨や軟骨、筋肉の材料となる栄養素を適切に摂取することは、膝の健康を維持するために重要です。

特に、カルシウムやビタミンD、ビタミンKは骨の健康に、タンパク質は筋肉の維持・増強に必要です。

また、抗炎症作用が期待されるオメガ3系脂肪酸(青魚などに多く含まれる)や、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンEなどを多く含む野菜や果物を積極的に摂ることも推奨されます。

バランスの取れた食事を心がけ、偏食を避けることが基本です。

適切な体重管理

体重が増加すると、その分、膝にかかる負担も大きくなります。肥満は、変形性膝関節症の進行を早める要因の一つと考えられています。

適切な体重を維持することは、膝への負担を軽減し、痛みの予防・改善に繋がります。食事療法や運動療法を組み合わせ、健康的な体重コントロールを目指しましょう。

急激な減量は体に負担をかけるため、医師や管理栄養士に相談しながら、無理のない計画を立てることが大切です。

治療後の注意点と再発予防

膝の治療を受け、症状が改善した後も、油断は禁物です。再び痛みが現れたり、症状が悪化したりすることを防ぐためには、治療後の生活習慣や定期的なケアが重要になります。

再発予防を意識した生活を送ることで、長く健康な膝を保つことを目指しましょう。

医師の指示を守ることの重要性

治療後、医師からリハビリテーションの継続や生活上の注意点について指示がある場合は、必ずそれを守りましょう。

痛みが軽減したからといって自己判断でリハビリを中断したり、無理な活動を再開したりすると、再発のリスクが高まります。

処方された薬がある場合は、用法・用量を守って服用することも大切です。疑問点や不安なことがあれば、遠慮なく医師や理学療法士に相談し、指示の意図を理解するように努めましょう。

定期的な検診と経過観察

治療の種類や状態によっては、治療後も定期的な検診が必要となる場合があります。

特に手術を受けた場合や、慢性的な疾患を抱えている場合は、医師の指示に従い、定期的に診察を受け、膝の状態を確認してもらうことが大切です。

この定期的な検診により、もし再発の兆候が見られた場合でも、早期に発見し、適切な対応をとることができます。

また、症状が安定していても、年に一度など、定期的に膝の状態をチェックしてもらうことで、長期的な健康維持に繋がります。

再発予防のための生活習慣

治療によって痛みが改善した後も、膝に優しい生活習慣を継続することが再発予防には欠かせません。具体的には、以下のような点に注意しましょう。

再発予防のための生活習慣のポイント

  • 適切な体重を維持する
  • 膝に負担の少ない運動(ウォーキング、水泳など)を習慣にする
  • 膝周囲の筋力トレーニングやストレッチを継続する
  • 長時間の正座や無理な姿勢を避ける
  • クッション性の良い靴を選ぶ

これらの習慣を日常生活に取り入れ、膝への負担をコントロールすることが、再発を防ぐ上で非常に有効です。

特に、適度な運動は筋力を維持し、関節の柔軟性を保つために重要ですが、過度な運動は逆効果になることもあるため、自分に合った運動量を見つけることが大切です。

異常を感じた際の対処法

治療後に再び膝に痛みや腫れ、違和感などが現れた場合は、自己判断せずに早めに専門医に相談しましょう。早期に対処することで、症状の悪化を防ぎ、適切な治療を速やかに受けることができます。

「また同じ症状だろう」と安易に考えず、以前とは異なる症状や、急激な変化があった場合には特に注意が必要です。医師に症状を正確に伝え、指示を仰ぐようにしてください。

よくある質問

膝の治療や痛みに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

ただし、個々の症状や状態によって回答は異なる場合がありますので、あくまで一般的な目安として参考にしてください。詳細は必ず専門医にご相談ください。

Q. 治療期間はどのくらいですか?

A. 治療期間は、膝の痛みの原因、症状の程度、選択する治療法、そして患者さん自身の回復力などによって大きく異なります。

保存療法の場合、数週間から数ヶ月程度で症状の改善が見られることが多いですが、慢性的な疾患の場合は、より長期的な管理が必要になることもあります。

手術療法の場合は、手術の種類や術後のリハビリテーションの進捗状況によって入院期間や全治までの期間が変わります。例えば、人工関節置換術の場合、入院期間は数週間程度が一般的で、その後も数ヶ月にわたるリハビリテーションが必要です。

具体的な期間については、担当医に確認することが大切です。

Q. 治療費はどのくらいかかりますか?(一般的な目安として)

A. 治療費も、治療内容や医療機関によって異なります。健康保険が適用される治療がほとんどですが、一部の新しい治療法(再生医療など)や先進医療は自費診療となる場合があります。

保存療法では、診察料、検査料、薬剤費、リハビリテーション費などがかかります。手術療法の場合は、手術費、入院費、麻酔料、検査料などが高額になることがありますが、高額療養費制度を利用することで自己負担額を抑えることができます。

具体的な費用については、事前に医療機関の窓口や担当医に確認することをお勧めします。

Q. 膝のサポーターは効果がありますか?

A. 膝のサポーターは、膝関節を保温したり、安定させたり、動きを補助したりする効果が期待できます。痛みの軽減や安心感に繋がる場合もあります。

ただし、サポーターの種類も様々であり、症状や目的に合わないものを使用すると逆効果になることもあります。また、サポーターに頼りすぎると、自身の筋力が低下してしまう可能性も指摘されています。

使用する際は、医師や理学療法士に相談し、適切な種類を選び、使用方法や使用時間について指導を受けることが重要です。あくまで補助的なものと考え、筋力トレーニングなどと併用することが望ましいです。

Q. 痛みがあるとき、温めるのと冷やすのはどちらが良いですか?

A. 膝の痛みの対処法として、温める(温熱療法)か冷やす(冷却療法)かは、痛みの原因や時期によって使い分けが必要です。

温める場合と冷やす場合の一般的な目安

状態対処法目的・理由
急性の炎症(腫れ、熱感、ズキズキする痛みがある場合。例:ケガの直後)冷やす(アイシング)血管を収縮させ、炎症や腫れ、内出血を抑える。痛みを和らげる。
慢性の痛み(腫れや熱感がなく、鈍い痛みやこわばりがある場合。例:変形性膝関節症の慢性期)温める(温湿布、入浴など)血行を促進し、筋肉の緊張を和らげ、痛みを軽減する。関節の動きを良くする。

基本的には、急性の炎症で熱を持っている場合は冷やし、慢性的な痛みで血行不良や筋肉の緊張が原因となっている場合は温めると良いとされています。

ただし、自己判断が難しい場合や、どちらが良いか迷う場合は、医師や理学療法士に相談するようにしましょう。誤った対処は症状を悪化させる可能性もあります。

以上

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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