足立慶友医療コラム

膝の骨折で歩ける場合の症状と緊急性の判断基準

2025.08.04

膝を強くぶつけた、あるいは転倒してしまった後、「たいしたことはないだろう」と思っていても、実は骨折していることがあります。

特に、骨折しているにもかかわらず歩ける場合、ご自身での判断は非常に難しくなります。しかし、適切な初期対応をしないと、後遺症が残る可能性も否定できません。

この記事では、膝の骨折でも歩けてしまう理由から、ご自身で確認できる症状、そして医療機関を受診すべき緊急性の高いサインまで、詳しく解説します。

なぜ膝の骨折でも歩けることがあるのか

「骨が折れたら歩けない」と考えるのが一般的ですが、膝関節の骨折では、条件によっては歩行が可能な場合があります。

これは、骨折の程度や場所、そして膝を支える周囲の組織の状態が関係しています。自己判断で「歩けるから大丈夫」と結論づける前に、なぜ歩けるのか、その理由を理解することが重要です。

骨折のタイプによる違い

骨折には、骨が完全に二つ以上に分かれてしまう「完全骨折」と、骨にひびが入ったり、一部分が欠けたりする「不全骨折」があります。

不全骨折、いわゆる「ひび」のような状態であれば、骨の連続性は保たれているため、痛みをこらえれば歩けてしまうことがあります。

また、骨折線が一本だけ入っているような単純な骨折の場合も、複雑骨折に比べて安定性が保たれやすく、歩行が可能な一因となります。

軽微な骨折(ひび)の場合

レントゲンでようやく確認できる程度の軽微なひび(不全骨折)では、症状が比較的軽いことがあります。

痛みや腫れがそれほど強くないため、捻挫や打撲と勘違いしてしまうケースも少なくありません。しかし、ひびであっても骨折は骨折です。

初期に適切な固定をしないと、ひびが広がって完全骨折に移行したり、骨がずれてしまったりする危険性があります。

骨折の安定性による分類

分類特徴歩行への影響
安定型骨折骨のずれが少ない、または無い。ひびなど。痛みを伴うが歩けることがある。
不安定型骨折骨のずれが大きい。骨が複数に分かれている。強い痛みで歩行困難なことが多い。

体重がかからない部分の骨折

膝関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(膝のお皿)の3つの骨で構成されています。

このうち、膝蓋骨の骨折や、大腿骨・脛骨の関節面から少し外れた部分の骨折では、直接的に体重を支える主要な部分への影響が比較的小さいことがあります。

このため、体重をかけた際の安定性が保たれ、歩行が可能になる場合があります。

周囲の筋肉による支え

膝の周りには、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)やハムストリングス(太ももの裏側の筋肉)といった強力な筋肉が存在します。

これらの筋肉や靭帯が、骨折した部分をギプスのように支え、一時的に安定性を保つことがあります。この筋肉による代償作用により、痛みを感じながらもなんとか歩けてしまうのです。

しかし、これはあくまで一時的なもので、筋肉の疲労や腫れの増大に伴い、徐々に歩行が困難になることが一般的です。

歩ける場合に考えられる膝の骨折

一言で「膝の骨折」といっても、骨折する部位によって症状や重症度は大きく異なります。歩行が可能な場合でも、以下のような骨折が隠れている可能性があります。

それぞれの骨折の特徴を理解し、ご自身の症状と照らし合わせてみましょう。

膝蓋骨骨折(膝のお皿の骨折)

膝蓋骨は、膝の前面にあるお皿状の骨です。転倒して膝を直接強打した場合などに発生しやすい骨折です。

骨折のずれ(転位)が小さい場合や、ひびが入っただけの場合は、膝を伸ばす筋肉の力が伝わるため、歩行が可能なことがあります。

しかし、膝の曲げ伸ばしで強い痛みを感じたり、膝の前に腫れや皮下出血が現れたりするのが特徴です。骨折がずれていると、自力で膝を伸ばすことができなくなります。

膝蓋骨骨折の主な原因

  • 転倒による直接的な強打
  • ダッシュやジャンプによる急激な筋肉の収縮
  • 交通事故

脛骨高原骨折(すねの骨の上部)

脛骨高原は、すねの骨(脛骨)の最上部にある、大腿骨と関節をなす平らな部分です。この部分の骨折は、関節内骨折にあたります。

スポーツ中のジャンプ着地や、交通事故などで膝に強い垂直方向の力が加わった際に発生します。骨折の程度が軽く、関節面の陥没やずれが小さい場合は、痛みをこらえて歩けることがあります。

しかし、関節内骨折であるため、関節内に血が溜まり(関節血腫)、強い腫れと痛みを伴うことが多く、放置すると関節の機能に大きな影響を及ぼす可能性があります。

骨折部位と特徴

骨折名主な受傷原因歩ける可能性
膝蓋骨骨折膝の直接強打ずれがなければ歩けることがある
脛骨高原骨折ジャンプ着地など垂直方向の衝撃陥没が軽度なら歩けることがある
大腿骨顆部骨折強い外力、高齢者の転倒ひび程度なら歩けることがある

大腿骨顆部骨折(太ももの骨の下部)

大腿骨顆部は、太ももの骨(大腿骨)の膝側にある、脛骨と関節をなす部分です。

この部位の骨折は、非常に強い外力が加わらないと起こりにくいため、交通事故や高所からの転落などで発生することが多いです。

ただし、骨粗鬆症で骨がもろくなっている高齢者の場合は、転倒などの比較的軽い外力でも骨折することがあります。

この骨折も関節内骨折であり、骨のずれがほとんどない不全骨折の場合に限り、歩行が可能なケースも考えられますが、通常は激しい痛みと腫れで歩行困難となります。

自分で確認できる症状のチェックリスト

医療機関を受診する前に、ご自身の膝の状態を客観的に把握することは、医師に症状を正確に伝える上でとても大切です。

以下のチェックリストを参考に、痛み、腫れ、動きなどを慎重に確認してみてください。ただし、確認する際に無理は禁物です。

症状が悪化する可能性があるため、強い痛みを感じる場合はすぐに中止してください。

痛みの特徴と場所

まずは痛みの性質を確認します。「ズキズキ」と脈打つような痛みか、あるいは動かした時だけ「ズキッ」と鋭い痛みが走るのか。

安静にしていても痛む場合は、炎症が強いサインです。また、痛みの場所も重要です。膝のお皿の上、内側、外側など、押してみて最も痛みが強い場所(圧痛点)を探してみましょう。

骨折している場合、限局した場所に強い圧痛があることが特徴です。

痛みの種類の比較

痛みの種類考えられる状態注意点
持続的な痛み(自発痛)炎症が強い、骨折の可能性が高い安静にしていても痛む
動かした時の痛み(運動時痛)骨折、靭帯損傷、半月板損傷など特定の動きで悪化する
押した時の痛み(圧痛)骨折や炎症の部位を示唆する限局した強い痛みは骨折のサイン

腫れや内出血の有無

受傷した方の膝と、健康な方の膝を見比べてみてください。関節全体が腫れぼったくなっていませんか?腫れは、炎症や関節内の出血(関節血腫)を示唆する重要なサインです。

特に、受傷後すぐにパンパンに腫れてきた場合は、関節内での出血量が多い可能性があり、注意が必要です。

また、数日経ってから青紫色の内出血(皮下出血斑)が膝の周りや、ふくらはぎに出てくることもあります。

膝の動き(可動域)の制限

ゆっくりと膝を曲げたり伸ばしたりしてみてください。

痛みや腫れ、あるいは何かが引っかかるような感じで、健康な方と同じくらい動かせますか?

可動域が明らかに制限されている場合、骨折した骨片が関節の動きを妨げている(ロッキング)か、痛みや腫れが原因で動かせなくなっている可能性があります。

特に、自力で膝を完全に伸ばせない場合は、膝蓋骨骨折や膝を伸ばす組織の損傷が疑われます。

膝が不安定な感覚

体重をかけた時や歩行中に、膝が「ガクッ」と崩れるような、抜けるような感覚(膝崩れ)はありませんか?

この不安定感は、骨折によって関節の支持性が失われている、あるいは骨折に伴って靭帯も損傷している可能性を示唆します。

不安定性を感じる場合は、転倒してさらなる怪我につながる危険があるため、無理に歩き続けるのは避けるべきです。

緊急受診が必要な危険なサイン

歩けるからといって安心はできません。中には、すぐさま専門医の診察を受けるべき危険な状態も存在します。

以下に挙げるサインが一つでも見られる場合は、様子を見ずに、夜間や休日であっても救急外来などを受診することを強く推奨します。迅速な対応が、後の回復を大きく左右します。

激しい痛みで全く体重をかけられない

最初は歩けていたのに、徐々に痛みが強くなり、全く体重を支えられなくなった場合は、骨折部がずれてしまった(転位した)可能性があります。

また、骨折だけでなく、半月板や靭帯といった複数の組織が重篤な損傷を受けていることも考えられます。

このような状態での移動は危険なため、可能であれば周囲の人に助けを求め、患部を動かさないようにして医療機関に向かってください。

明らかな膝の変形

健康な方の脚と比べて、膝の形が明らかに変わってしまっている場合、それは骨が大きくずれている(転位・脱臼)サインです。

外見からも変形がわかるほどの骨折は、重症である可能性が極めて高いです。無理に自分で元に戻そうとせず、そのままの状態で速やかに専門医の診察を受けてください。

緊急性の高い症状の判断基準

症状考えられる状態取るべき行動
激痛・歩行不能骨折の転位、重度の複合損傷即時、救急外来を受診
明らかな変形骨の転位、脱臼患部を動かさず、すぐに受診
足先のしびれ・冷感血管や神経の損傷一刻も早く受診

足先のしびれや冷感

膝の骨折に伴い、足先がしびれたり、感覚が鈍くなったり、血の気が引いて冷たく感じたりする場合、これは最も危険なサインの一つです。

骨折した骨のかけらが、膝の裏を通る重要な血管や神経を圧迫・損傷している可能性があります。

この状態を放置すると、足先に血液が届かなくなり組織が壊死したり、神経麻痺が後遺症として残ったりする危険性があります。

このことにより、一刻も早い処置が必要となります。

関節に血がたまる(関節血腫)

受傷後、短時間のうちに膝がパンパンに腫れあがり、動かすことも困難になった場合、関節内骨折による大量の出血(関節血腫)が疑われます。

関節内が高圧になると、激しい痛みの原因となるだけでなく、関節軟骨への血流が悪くなり、将来的に軟骨が傷んでしまう可能性があります。

医師による適切な診断と、場合によっては関節内の血液を抜く処置(関節穿刺)が必要です。

膝の骨折を放置する危険性

「歩けるから大丈夫」「そのうち治るだろう」と軽く考え、膝の骨折を治療せずに放置してしまうと、さまざまな問題が生じる可能性があります。

初期の適切な治療がいかに重要か、具体的なリスクを理解しておきましょう。

変形治癒と後遺症

骨折した骨がずれたままくっついてしまうことを「変形治癒」といいます。膝関節は体重を支え、複雑な動きをする重要な関節です。

この部分が変形して治癒すると、関節の動きが制限されたり、歩行時に痛みが出たりといった後遺症が残る可能性が高くなります。

一度変形して治癒した骨を元に戻すには、大掛かりな手術が必要になることもあります。

放置による主なリスク

リスク名内容将来的な影響
変形治癒骨がずれたまま治ってしまう状態慢性的な痛み、可動域制限
偽関節骨が正常に癒合しない状態関節の不安定性、持続する痛み
変形性膝関節症関節軟骨がすり減り、炎症が起きる歩行困難、生活の質の低下

変形性膝関節症への移行

関節内骨折で関節面が少しでもずれたり、陥没したりしたまま放置されると、関節の表面が滑らかでなくなり、特定の部分に負担が集中します。

この負担の集中により、関節軟骨が通常より早くすり減ってしまい、将来的に「変形性膝関節症」を発症するリスクが高まります。

変形性膝関節症は、痛みや関節の変形を伴い、進行すると歩行が困難になることもある病気です。

偽関節(骨がくっつかない状態)

骨折部が安定せず、適切な固定が行われないと、骨の癒合プロセスが正常に進まず、いつまでたっても骨がつかない「偽関節(ぎかんせつ)」という状態になることがあります。

偽関節になると、骨折した部分がグラグラと不安定なままになり、痛みや機能障害が持続します。この状態の治療には、多くの場合、手術が必要となります。

慢性的な痛みと機能障害

不適切な治療や放置によって、膝の痛みや腫れが慢性化することがあります。また、膝の可動域制限や筋力低下が残ってしまうと、日常生活のさまざまな場面で不便を感じることになります。

例えば、階段の上り下りが辛い、正座ができない、スポーツ活動に復帰できないなど、生活の質(QOL)を大きく低下させる原因となります。

医療機関での診断と主な治療法

医療機関を受診すると、まず問診や診察で怪我の状況を確認し、必要な検査を行って正確な診断を下します。診断結果に基づいて、個々の患者さんの状態に合わせた治療方針を決定します。

ここでは、一般的な診断から治療までの流れを解説します。

問診と身体診察

医師はまず、いつ、どこで、どのように怪我をしたのかを詳しく尋ねます。その後、膝の状態を注意深く観察し、腫れや変形、内出血の有無を確認します。

さらに、膝をそっと動かして可動域を調べたり、膝の特定の場所を押して痛みの中心(圧痛点)を探したりします。

これらの情報から、どの部分の骨折が疑われるか、靭帯など他の組織の損傷はないかなどを推測します。

画像検査(レントゲン、CT、MRI)

骨折の診断を確定するためには、画像検査が重要です。一般的には、まずレントゲン(X線)撮影を行います。レントゲンで骨折の有無や骨のずれの程度を確認できます。

しかし、複雑な骨折や、レントゲンでは分かりにくい微細な骨折の場合、より詳細な情報が必要になります。

その際は、骨の状態を立体的に評価できるCT検査や、靭帯や半月板、軟骨といった軟部組織の状態を描出するのに優れたMRI検査を追加で行うことがあります。

画像検査の比較

検査方法主な目的特徴
レントゲン骨折の有無、ずれの程度の確認最も基本的な検査。簡便で迅速。
CT検査骨折の立体的な詳細評価複雑骨折や関節内骨折の評価に有用。
MRI検査靭帯、半月板、軟骨などの評価骨以外の組織の損傷も確認できる。

保存療法(ギプス固定など)

骨折のずれ(転位)がほとんどない、あるいは全くない安定した骨折の場合は、手術をしない「保存療法」が選択されます。

ギプスやシーネ、装具などを用いて膝関節を適切な位置に固定し、骨が自然に癒合するのを待ちます。固定期間は骨折の部位や程度によって異なりますが、数週間から数ヶ月に及ぶこともあります。

この期間中は、骨折部に負担をかけないよう、松葉杖を使って体重をかけずに歩く(免荷)指示が出ることが一般的です。

手術療法

骨のずれが大きい不安定な骨折や、関節面のずれ・陥没を伴う関節内骨折、開放骨折(骨折部が皮膚を突き破っている状態)などの場合は、手術が必要となります。

手術の目的は、ずれた骨を元の正しい位置に戻し(整復)、スクリューやプレートなどの金属製の器具で内側から固定することです。

この手術により、早期から関節を動かすリハビリテーションを開始でき、関節が硬くなるのを防ぎ、より良い機能回復を目指すことができます。

膝の骨折に関するよくある質問

ここでは、膝の骨折に関して患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。ご自身の疑問や不安の解消にお役立てください。

Q. 骨折か捻挫か見分ける方法はありますか?

A. 症状だけで骨折と捻挫を完全に見分けることは非常に困難です。

一般的に、骨折では限局した部位に強い圧痛(押した時の痛み)があったり、体重をかけた際の痛みが強かったり、関節以外の場所(骨幹部)が腫れたりする特徴があります。

しかし、軽度の骨折と重度の捻挫の症状は非常によく似ているため、最終的な判断は医療機関でレントゲンなどの画像検査を受けないとできません。

「歩けるから捻挫だろう」と自己判断せず、疑わしい場合は一度診察を受けることが重要です。

骨折と捻挫の一般的な違い

項目骨折で多い傾向捻挫で多い傾向
痛み(圧痛)骨の上に限局した強い痛み靭帯の走行に沿った痛み
腫れ骨折部を中心に強く腫れる関節全体が腫れる
音「ゴリッ」「ポキッ」という骨の音「ブチッ」という靭帯が切れる音

Q. 治療期間はどのくらいかかりますか?

A. 治療期間は、骨折の部位、重症度、治療法(保存療法か手術か)、そして患者さんの年齢や全身状態によって大きく異なります。

あくまで一般的な目安ですが、骨が癒合するまでに最低でも1.5ヶ月から3ヶ月程度かかります。その後、リハビリテーションで関節の動きや筋力を回復させる期間が必要です。

社会復帰やスポーツ復帰までには、数ヶ月から1年近くかかることもあります。担当の医師から示される治療計画をよく理解することが大切です。

Q. リハビリは必要ですか?

A. はい、ほとんどの場合でリハビリテーションは非常に重要です。

ギプスなどで長期間固定していると、関節が硬くなり(拘縮)、筋肉も痩せてしまいます(筋萎縮)。骨が癒合しても、これらの機能が回復しないと、痛みや動かしにくさが残ってしまいます。

リハビリテーションでは、理学療法士などの専門家の指導のもと、関節の可動域を広げる訓練や、筋力を取り戻すためのトレーニングを段階的に行い、元の生活へのスムーズな復帰を目指します。

リハビリテーションの主な目的

  • 関節可動域の改善
  • 筋力の回復
  • 痛みの軽減
  • 正しい歩き方の再学習

以上

参考文献

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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