スポーツ障害による膝の痛み|症状と治療の進め方
バスケットボールでのジャンプや着地、サッカーでの急な方向転換、マラソンでの長時間の走り込みなど、スポーツに打ち込む中で膝の痛みを経験する方は少なくありません。
一時的な痛みであればと様子を見る方もいますが、中にはスポーツ活動の継続が困難になるほどの障害が隠れていることもあります。
スポーツによる膝の痛みは、適切な対処をしないと症状が悪化したり、後遺症が残ったりする可能性もあるため、正しい知識を持つことが重要です。
この記事では、スポーツ障害によって引き起こされる膝の痛みの原因から、代表的な疾患、整形外科での診断、そして治療の進め方までを詳しく解説します。
スポーツを愛するすべての方が、膝の痛みと正しく向き合い、再び全力でプレーできるようになるための一助となれば幸いです。
目次
スポーツで膝を痛める主な原因
スポーツ活動中に膝関節へかかる負担は、日常生活の比ではありません。ジャンプ、着地、急停止、方向転換といった動作は、体重の何倍もの負荷を膝にかけます。
ここでは、どのような原因で膝の痛みが引き起こされるのかを解説します。
使いすぎ(オーバーユース)による負荷の蓄積
特定の動作を繰り返し行うことで、膝関節やその周辺の組織に微細な損傷が蓄積していく状態を「オーバーユース」と呼びます。
特に、ランニングやジャンプ動作が多い競技では、腱や軟骨に炎症が起きやすくなります。十分な休息を取らずに練習を続けると、組織の修復が追いつかず、慢性的な痛みにつながります。
成長期の選手は骨や軟骨がまだ柔らかいため、特にオーバーユースによる障害が起こりやすい傾向にあります。
急な方向転換やジャンプによる外傷
サッカーやバスケットボール、スキーなどで見られる急激な方向転換やストップ動作、ジャンプからの着地といった動きは、膝関節に大きな捻れの力を加えます。
この捻れの力によって、膝の安定性を保つ靭帯や、衝撃を吸収する半月板が損傷することがあります。
これらの外傷は「ブチッ」という断裂音を伴うこともあり、強い痛みや腫れ、関節の不安定感を引き起こします。
膝への負荷がかかる代表的な動作
動作の種類 | 主な競技 | 膝への影響 |
---|---|---|
ジャンプ・着地 | バレーボール、バスケットボール | 膝蓋骨周辺の腱や軟骨に強い衝撃がかかる |
急な方向転換 | サッカー、テニス、スキー | 靭帯や半月板に捻れの力が加わる |
長時間の走行 | マラソン、陸上長距離 | 膝関節周辺の組織に持続的な摩擦や負荷がかかる |
選手同士の接触による直接的な衝撃
ラグビーやアメリカンフットボール、柔道といったコンタクトスポーツでは、選手同士の衝突が避けられません。
タックルなどで膝に直接的な強い衝撃が加わることで、骨折や脱臼、靭帯損傷といった大きな外傷につながることがあります。
特に、膝の側面から衝撃を受けると、内側側副靭帯などを損傷しやすくなります。
不適切なフォームや身体の使い方
自分では気づかないうちに、膝に負担のかかるフォームでプレーを続けているケースも少なくありません。
例えば、着地の際に膝が内側に入る「ニーイン」と呼ばれる動作は、前十字靭帯損傷のリスクを高めることが知られています。
また、股関節や足首の柔軟性が低いと、その代償として膝関節に過剰な負担がかかり、痛みの原因となることがあります。
身体の使い方の癖を修正することも、膝のスポーツ障害を予防する上で大切です。
代表的なスポーツによる膝の障害
スポーツ活動によって生じる膝の痛みには、様々な疾患が考えられます。ここでは、スポーツ整形外科でよく見られる代表的な膝の障害について、その特徴と症状を解説します。
靭帯損傷(前十字靭帯、内側側副靭帯など)
膝関節の安定性を支える重要な組織である靭帯の損傷は、スポーツ外傷の中でも特に重篤なものの一つです。
最も損傷しやすいのが、膝の中心にあって捻る動きを制御する「前十字靭帯(ACL)」と、膝の内側の安定を担う「内側側副靭帯(MCL)」です。
前十字靭帯損傷はジャンプの着地や急な方向転換で、内側側副靭帯損傷は膝の外側からのタックルなどで起こりやすいです。
受傷時には断裂音を感じ、膝がガクッと崩れるような感覚(膝崩れ)や強い痛みを伴います。
半月板損傷
半月板は、大腿骨と脛骨の間にあるC型をした軟骨組織で、クッションの役割を果たしています。
スポーツ中の捻り動作で半月板が挟み込まれたり、断裂したりするのが半月板損傷です。
症状としては、膝の曲げ伸ばしの際の痛みやひっかかり感、特定の角度で膝が動かなくなる「ロッキング」現象が見られます。
放置すると、関節軟骨を傷つけ、将来的に変形性膝関節症へ移行するリスクを高めることがあります。
代表的な膝のスポーツ障害と好発スポーツ
障害名 | 主な症状 | 起こりやすいスポーツ |
---|---|---|
前十字靭帯損傷 | 膝崩れ、痛み、腫れ | バスケットボール、サッカー、スキー |
半月板損傷 | ひっかかり感、ロッキング | サッカー、ラグビー、体操 |
ジャンパー膝 | お皿の下の痛み | バレーボール、バスケットボール |
ランナー膝 | 膝の外側の痛み | マラソン、陸上長距離 |
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)
ジャンパー膝は、バレーボールやバスケットボールなどジャンプ動作を多用する競技の選手によく見られます。
膝のお皿(膝蓋骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ膝蓋腱に炎症が起こり、運動時にお皿の下あたりに痛みが生じます。
初期は運動後の痛みだけですが、進行するとプレー中にも強い痛みを感じるようになります。大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)の柔軟性低下が原因の一つと考えられています。
ランナー膝(腸脛靭帯炎)
ランナー膝は、長距離ランナーに多く見られるオーバーユース障害です。
太ももの外側にある腸脛靭帯が、膝の外側の骨の出っ張り(大腿骨外側上顆)と繰り返しこすれることで炎症が起こり、膝の外側に痛みが生じます。
特に、坂道を下るときや、長時間走った後に痛みが強くなる傾向があります。ウォーミングアップ不足や、硬い路面でのトレーニング、足に合わないシューズの使用などが誘因となります。
症状から考えられる膝の状態
膝の痛みの場所や性質、付随する症状は、原因となっている障害を推測する上で重要な手がかりとなります。
ご自身の症状と照らし合わせながら、どのような状態が考えられるかを確認してみましょう。ただし、これらはあくまでも一般的な傾向であり、正確な診断には専門医による診察が必要です。
膝の内側が痛む場合
膝の内側には、内側側副靭帯や半月板(内側)、鵞足(がそく)と呼ばれる腱の付着部など、痛みの原因となりうる組織が複数存在します。
タックルなどで外側から衝撃を受けた後の痛みであれば内側側副靭帯損傷、膝を捻った後の痛みやひっかかり感があれば内側半月板損傷が疑われます。
また、ランニングなどで徐々に痛みが出てきた場合は、鵞足炎の可能性も考えられます。
膝の外側が痛む場合
膝の外側の痛みの代表例は、ランナー膝(腸脛靭帯炎)です。長距離のランニングや自転車競技などで、膝の曲げ伸ばしを繰り返すことで発症します。
その他、外側半月板損傷や外側側副靭帯損傷でも膝の外側に痛みが出ることがあります。これらの外傷は、膝を内側に捻るような動作で起こりやすいです。
痛みの場所と疑われる障害の例
痛みの場所 | 考えられる主な障害 | 特徴的な症状 |
---|---|---|
膝の内側 | 内側側副靭帯損傷、内側半月板損傷、鵞足炎 | 圧痛、不安定感、ひっかかり |
膝の外側 | 腸脛靭帯炎(ランナー膝)、外側半月板損傷 | 走行時の痛み、圧痛 |
膝のお皿周辺 | ジャンパー膝、膝蓋軟骨軟化症 | ジャンプ時の痛み、階段昇降時の痛み |
膝のお皿周辺が痛む場合
膝のお皿(膝蓋骨)のすぐ下が痛む場合はジャンパー膝(膝蓋腱炎)が、お皿の上が痛む場合は大腿四頭筋腱付着部炎が考えられます。これらはジャンプやダッシュの繰り返しで発症します。
また、お皿の裏側に痛みを感じる場合は、膝蓋軟骨軟化症や膝蓋大腿関節障害の可能性があります。
特に若い女性に多く、階段の上り下りや長時間座った後などに痛みが出やすいのが特徴です。
膝が腫れて熱を持っている場合
膝の腫れは、関節内部の炎症や出血を示唆する重要なサインです。
靭帯損傷や半月板損傷、骨折などの外傷では、関節内に出血が起こり(関節血腫)、受傷後数時間で急速に膝が腫れ上がります。
オーバーユースによる障害でも、炎症が強い場合は関節液が過剰に分泌されて膝が腫れる(関節水腫)ことがあります。
腫れに加えて熱感がある場合は、強い炎症が起きている証拠であり、早めの対処が必要です。
スポーツ整形外科での診断の流れ
スポーツによる膝の痛みを正確に診断するためには、専門的な知識と経験を持つ医師による診察が重要です。
スポーツ整形外科を受診した場合に、どのような手順で診断が進められていくのかを解説します。
問診で確認されること
診断は、患者さんから詳しい話を聞くことから始まります。医師は、痛みの原因を特定するために様々な質問をします。
正確な情報を伝えることで、より的確な診断につながります。
- いつ、どのような状況で痛くなったか(受傷機転)
- どのような動きで痛みが強くなるか
- 痛みの場所や種類(ズキズキ、ジンジンなど)
- 過去のケガの経験
- 現在行っているスポーツの種類や練習頻度
身体所見(徒手検査)の重要性
問診の次に行われるのが、医師が直接膝を触ったり動かしたりして状態を確認する身体所見です。特に、靭帯や半月板の損傷を評価するための「徒手検査」は重要です。
医師が膝にストレスを加えて関節の緩み(不安定性)を調べたり、特定の肢位で膝を動かして痛みやひっかかりを誘発したりします。
これらの検査は、医師の経験と技術が求められる診察方法であり、画像検査だけではわからない情報を得ることができます。
画像検査(レントゲン、MRI、超音波)の目的
身体所見で得られた情報をもとに、診断を確定するために画像検査を行います。それぞれの検査には得意な分野があり、目的に応じて使い分けます。
画像検査の種類とわかること
検査方法 | 主な目的 | わかること |
---|---|---|
レントゲン(X線) | 骨の状態を調べる | 骨折、脱臼、骨の変形、骨端線の状態(成長期) |
MRI | 軟部組織(靭帯、半月板、軟骨)を調べる | 靭帯断裂、半月板損傷、軟骨損傷、骨挫傷 |
超音波(エコー) | 筋肉や腱、靭帯の表層を調べる | 腱や靭帯の炎症・部分断裂、水腫の有無 |
診断を確定するまでの考え方
最終的な診断は、問診、身体所見、画像検査の結果を総合的に判断して下されます。
例えば、膝を捻って受傷し、徒手検査で前十字靭帯の緩みが認められ、MRIで靭帯の断裂が確認された場合に「前十字靭帯損傷」と診断が確定します。
一つの情報だけで判断するのではなく、複数の情報から論理的に診断を導き出すことが、適切な治療方針を立てる上で大切です。
膝のスポーツ障害に対する治療の選択肢
膝のスポーツ障害の治療は、損傷した組織や重症度、選手の年齢や競技レベルなどを考慮して決定します。
治療法は、手術をしない「保存療法」と、手術によって損傷部位を修復する「手術療法」に大別されます。
基本となる保存療法(RICE処置、リハビリテーション)
多くのスポーツ障害では、まず保存療法から治療を開始します。特に、受傷直後の急性期には、炎症と腫れを抑えるためのRICE処置が基本です。
RICEとは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったものです。
痛みが落ち着いてきたら、理学療法士の指導のもとでリハビリテーションを開始し、関節の動きや筋力を回復させていきます。
RICE処置の具体的な内容
項目 | 目的 | 具体的な方法 |
---|---|---|
Rest (安静) | 患部の保護、悪化防止 | 運動を中止し、松葉杖などを使用する |
Ice (冷却) | 痛みと腫れの軽減 | 氷のうなどで1回15〜20分、1〜2時間おきに冷やす |
Compression (圧迫) | 内出血と腫れの抑制 | 弾性包帯やサポーターで患部を軽く圧迫する |
Elevation (挙上) | 腫れの軽減 | 患部を心臓より高い位置に保つ |
薬物療法や注射による痛みの管理
痛みが強い場合には、薬物療法を併用します。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の飲み薬や貼り薬を用いて、痛みと炎症を和らげます。
また、関節内にヒアルロン酸注射を行い、関節の動きを滑らかにしたり、炎症が強い場合にはステロイド注射を行って症状を抑えたりすることもあります。
ただし、これらの治療は対症療法であり、根本的な原因を解決するためにはリハビリテーションが重要です。
手術療法が必要になるケース
保存療法では改善が見込めない場合や、関節の不安定性が強く競技復帰が困難な場合には、手術療法を検討します。
特に、前十字靭帯が完全に断裂した場合、自然治癒することはほとんどないため、高いレベルでの競技復帰を目指す選手には靭帯を再建する手術を勧めます。
半月板損傷でロッキング症状が続く場合や、軟骨が大きく損傷した場合も手術の対象となります。
保存療法と手術療法の比較
項目 | 保存療法 | 手術療法 |
---|---|---|
対象 | 軽度の靭帯・半月板損傷、腱炎など | 完全な靭帯断裂、重度の半月板・軟骨損傷 |
身体への負担 | 少ない | 大きい |
競技復帰までの期間 | 比較的短い | 長い(数ヶ月〜1年) |
再生医療などの新しい選択肢
近年では、自己治癒力を高めることを目的とした再生医療も選択肢の一つとして注目されています。
例えば、患者さん自身の血液から血小板を濃縮して抽出した成分(PRP:多血小板血漿)を患部に注射するPRP療法は、腱や靭帯、筋肉の損傷治癒を促進する効果が期待されています。
これらの治療法は、まだ保険適用外の場合が多いですが、新たな選択肢として広がりつつあります。
信頼できる整形外科医を見つけるための視点
膝のスポーツ障害を適切に治療し、安心して競技に復帰するためには、信頼できる医師との出会いが非常に重要です。
「スポーツ整形外科の膝の名医」を探す際には、どのような点に注目すれば良いのでしょうか。ここでは、医師や医療機関を選ぶ上でのいくつかの視点を紹介します。
膝関節やスポーツ医学の専門性
整形外科の中でも、医師にはそれぞれ得意とする分野があります。膝のスポーツ障害に関しては、「膝関節外科」や「スポーツ医学」を専門としている医師を選ぶことが望ましいです。
専門医は、特定の疾患に対する知識や治療経験が豊富であり、最新の知見に基づいた治療を提供してくれる可能性が高いです。
医療機関のウェブサイトなどで、医師の専門分野や経歴を確認しましょう。
専門性を示す資格・所属学会の例
資格・学会名 | 内容 |
---|---|
日本整形外科学会認定 整形外科専門医 | 整形外科全般に関する一定水準以上の知識と技量を持つ医師 |
日本スポーツ協会公認スポーツドクター | スポーツ選手の健康管理やスポーツ外傷・障害の診療を専門とする医師 |
日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS) | 膝関節外科やスポーツ医学に関する学術団体 |
十分な説明と納得できる治療方針の提示
良い医師は、患者さんの話をよく聞き、現在の膝の状態や考えられる障害について、専門用語を多用せず分かりやすく説明してくれます。
また、治療法の選択肢を複数提示し、それぞれのメリットとデメリットを説明した上で、患者さんの意向を尊重しながら一緒に治療方針を決めていく姿勢を持っています。
一方的な説明で治療を進めようとするのではなく、患者さんが納得して治療に臨めるように配慮してくれるかどうかが重要です。
リハビリテーション体制の充実度
スポーツ障害の治療、特に手術後の回復や競技復帰において、リハビリテーションは治療そのものと同じくらい重要です。
そのため、医療機関を選ぶ際には、理学療法士が在籍し、専門的なリハビリテーションを受けられる体制が整っているかを確認することも大切です。
医師と理学療法士が密に連携し、患者さん一人ひとりの状態に合わせたプログラムを作成してくれる環境が理想的です。
医師の経歴や資格の確認方法
医師の専門性や経験を知るためには、医療機関のウェブサイトを確認するのが最も手軽な方法です。
多くのウェブサイトには、医師のプロフィールとして以下のような情報が掲載されています。
- 出身大学、卒業年
- 所属学会
- 保有資格(専門医など)
- 過去の勤務先や留学経験
- 専門分野や担当領域
これらの情報を参考にすることで、その医師がどのような分野で研鑽を積んできたのかを知る手がかりになります。
競技復帰に向けたリハビリテーションの重要性
痛みを取り除き、損傷した組織を修復するだけでは、治療は完了しません。
元のパフォーマンスを取り戻し、再発を防ぎながら安全に競技へ復帰するためには、計画的で段階的なリハビリテーションが欠かせません。
リハビリテーションの目的と開始時期
リハビリテーションの主な目的は、ケガによって低下した身体機能(関節の可動域、筋力、バランス能力など)を回復させ、スポーツ活動に必要なレベルまで高めることです。
手術をした場合はもちろん、保存療法の場合でも、痛みが許す範囲で早期にリハビリを開始することが、機能回復を早め、筋力低下や関節の硬化を防ぐ上で重要です。
段階的なアスレティックリハビリテーション
競技復帰に向けたリハビリテーションは「アスレティックリハビリテーション」と呼ばれ、身体機能の回復状態に合わせて段階的に運動強度を上げていきます。
初期はストレッチや軽い筋力トレーニングから始め、徐々にジョギング、ダッシュ、ジャンプといった動作へと移行し、最終的には各競技特有の動きを取り入れたトレーニングへと進んでいきます。
この進行は自己判断で行うのではなく、医師や理学療法士の評価のもとで慎重に進める必要があります。
リハビリテーションの一般的な段階
時期 | 目的 | 主な内容 |
---|---|---|
急性期〜回復期初期 | 痛みと炎症の管理、可動域の維持・改善 | RICE処置、関節可動域訓練、軽い筋力維持訓練 |
回復期中期 | 筋力の回復、基本的な動作の再学習 | 筋力強化訓練、バランストレーニング、歩行・ジョギング |
復帰準備期 | 競技特性に応じた動作の獲得、再発予防 | ダッシュ、ジャンプ、方向転換、競技特有の練習 |
再発予防のために取り組むべきこと
一度ケガをした部位は、再発しやすい傾向にあります。
再発を防ぐためには、リハビリテーションを通じて、ケガの原因となった身体の使い方や筋力不足、柔軟性の低下といった問題を解決することが大切です。
- 体幹や股関節周りの筋力強化
- 全身の柔軟性向上(特に股関節、足関節)
- 正しいフォームの習得
- 十分なウォーミングアップとクールダウンの徹底
これらの取り組みを継続することが、長期的にスポーツを楽しむための鍵となります。
心理的なサポートの役割
長期にわたる治療やリハビリテーションは、選手にとって精神的な負担も大きいものです。特に、競技から離れることへの焦りや、復帰への不安を感じることは少なくありません。
医師や理学療法士、トレーナー、指導者などが選手の心理状態にも配慮し、励まし、サポートしていくことが、スムーズな競技復帰を後押しします。
スポーツによる膝の痛みに関するよくある質問
ここでは、スポーツによる膝の痛みに関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
痛みを我慢してスポーツを続けても良いですか?
基本的には推奨できません。痛みは、身体が発している危険信号です。
痛みを我慢してプレーを続けると、初期の段階であれば安静にすることで治癒したかもしれない軽度の損傷が、治療が長期化する重度の損傷に進行してしまう可能性があります。
また、痛みをかばうことでフォームが崩れ、膝以外の部位に新たなケガを引き起こす二次的な障害のリスクもあります。痛みを感じたら、まずは勇気をもって休むことが大切です。
サポーターやテーピングは効果がありますか?
サポーターやテーピングは、関節の動きを適切にサポートしたり、不安定感を軽減させたりする効果が期待できます。このことにより、プレー中の安心感につながることもあります。
ただし、これらはあくまで補助的なものであり、損傷した組織を治癒させる効果はありません。根本的な治療にはならず、サポーターに頼りきることで筋力が低下する可能性も指摘されています。
使用する際は、専門家の指導のもとで適切な種類や巻き方を選ぶことが重要です。
成長期の子供の膝の痛みで気をつけることは何ですか?
成長期の子供の骨はまだ成長過程にあり、骨端線(成長軟骨)という弱い部分が存在します。
この時期に過度な負担がかかると、オスグッド・シュラッター病(膝のお皿の下の骨が出っ張って痛む)などの骨端症や、剥離骨折といった成長期特有の障害が起こりやすいです。
大人のケガとは異なる配慮が必要なため、「成長痛」と自己判断せず、症状が続く場合は一度スポーツ整形外科を受診することを勧めます。
手術後の競技復帰までどのくらいかかりますか?
手術の内容や個人の回復力によって大きく異なりますが、一つの目安として、前十字靭帯再建術後の場合、競技への完全復帰までには約8ヶ月から1年程度を要するのが一般的です。
半月板の切除術であればより短期間で復帰できることもありますが、縫合術の場合は長期間の安静が必要となります。
焦らず、医師や理学療法士が立てたリハビリテーションプログラムに従って、段階的に復帰を目指すことが、再受傷のリスクを減らし、最良の結果につながります。
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