足立慶友医療コラム

膝のリハビリと運動療法|効果的な改善方法

2025.09.19

膝の痛みは、多くの方にとって日常生活の質を大きく左右する深刻な問題です。

特に、加齢とともに増加する変形性膝関節症(OA)は、歩行や階段の上り下りといった基本的な動作さえ困難にすることがあります。

痛みを和らげ、再び自分らしい生活を取り戻すためには、適切なリハビリテーションと運動療法が非常に重要です。

この記事では、膝の痛みの原因から、ご自宅でも取り組める具体的な運動療法の種類、効果的な改善方法までを詳しく解説します。

なぜリハビリが必要なのか、どのような運動が膝の機能回復に役立つのかを理解し、痛みのない快適な毎日を目指すための第一歩を踏み出しましょう。

膝の痛みの原因とリハビリの重要性

膝の痛みに悩む方は少なくありませんが、その背景にはさまざまな原因が隠されています。

原因を正しく理解し、なぜリハビリが改善への道筋となるのかを知ることは、前向きに取り組むための大切な土台となります。

ここでは、膝の痛みの代表的な原因である変形性膝関節症(OA)に触れながら、リハビリテーションの根本的な重要性について掘り下げていきます。

変形性膝関節症(OA)とは何か

変形性膝関節症は、膝の関節にある軟骨がすり減ることで、骨同士がこすれ合い、痛みや炎症を引き起こす疾患です。

関節軟骨は、関節が滑らかに動くためのクッションの役割を担っています。しかし、この軟骨が長年の使用や負荷によって徐々に弾力性を失い、すり減っていくのです。

進行すると、関節の変形や、膝に水が溜まる(関節水腫)といった症状も見られます。

初期段階では、立ち上がりや歩き始めに痛みを感じる程度ですが、症状が進むと安静にしていても痛みが続くようになり、日常生活に大きな支障をきたします。

加齢や筋力低下が膝に与える影響

膝関節は、私たちの体重を支え、歩く、走る、座るといったあらゆる動作の中心となる重要な部分です。

加齢によって関節軟骨の水分量が減少し、弾力性が失われることは、変形性膝関節症の大きな要因の一つです。

さらに、年齢とともに膝を支える筋肉、特に太ももの筋肉(大腿四頭筋など)が衰えると、関節にかかる衝撃を十分に吸収できなくなります。

この筋力の低下が、関節軟骨への負担を一層増大させ、症状の悪化を招くのです。

膝の痛みを引き起こす主な要因

  • 加齢による関節軟骨の質の変化
  • 膝を支える筋力の低下
  • 体重の増加による関節への負荷増大
  • 過去の怪我(骨折、靭帯損傷、半月板損傷など)の後遺症
  • O脚やX脚といった骨格のアライメント異常

運動不足がもたらす悪循環

膝に痛みを感じると、人は無意識のうちに体を動かすことを避けるようになります。しかし、この「安静」が、かえって症状を悪化させる悪循環を生み出すことがあります。

動かないことで膝周りの筋力はさらに低下し、関節の安定性が損なわれます。また、関節を動かさないと、関節の動きが悪くなる「拘縮(こうしゅく)」という状態に陥りやすくなります。

血行も悪化し、痛みの物質が溜まりやすくなるなど、負の連鎖が続いてしまうのです。

膝の痛みにおける悪循環

段階状態結果
1:痛みの発生膝に痛みを感じ、動かすことを避ける。活動量が低下する。
2:筋力低下運動不足により、膝を支える筋肉が衰える。膝関節の不安定性が増す。
3:負担増大不安定な関節にさらなる負荷がかかる。軟骨のすり減りが進行し、痛みが増強する。

なぜリハビリテーションが必要なのか

リハビリテーションは、この悪循環を断ち切るための最も効果的な手段の一つです。

薬物療法や注射は痛みを一時的に和らげることができますが、膝の機能そのものを改善するものではありません。

リハビリを通じて、低下した筋力を回復させ、関節の柔軟性を取り戻し、膝への負担を軽減する正しい体の使い方を習得します。

これにより、痛みの根本的な原因にアプローチし、症状の進行を抑制し、より長期的な改善を目指すことができるのです。

リハビリは、単なる機能回復訓練ではなく、質の高い生活を取り戻すための積極的な治療法と言えます。

膝のリハビリテーションの基本的な考え方

膝のリハビリを成功させるためには、やみくもに運動を始めるのではなく、その基本的な考え方を理解しておくことが大切です。

目的を明確にし、ご自身の状態に合わせた適切なアプローチを選ぶことが、安全で効果的な改善につながります。

ここでは、リハビリに取り組む上での心構えや、専門家との連携の重要性について解説します。

リハビリの目的を明確にする

リハビリを始める前に、「何のために行うのか」という目的をはっきりさせることが重要です。

例えば、「痛みを和らげたい」「杖なしで歩けるようになりたい」「趣味の旅行を楽しみたい」など、具体的な目標を設定します。

目標が明確であるほど、モチベーションを維持しやすくなります。

医師や理学療法士と相談し、現実的で達成可能な短期目標と長期目標を立てることで、一歩一歩着実に前進している実感を得られます。

痛みの管理と段階的なアプローチ

リハビリは、痛みを我慢して行うものではありません。痛みが強い時期には、まず炎症を抑え、痛みをコントロールすることが最優先です。

痛みの程度に合わせて運動の強度や内容を調整し、無理のない範囲で少しずつ進めていく「段階的なアプローチ」が基本となります。

状態が安定してきたら、徐々に筋力トレーニングやより活動的な運動へと移行していきます。

リハビリテーションの段階

段階主な目的内容の例
急性期痛みと炎症の軽減安静、アイシング、痛みのない範囲での関節運動
回復期機能の回復(筋力、柔軟性)筋力トレーニング、ストレッチ、バランストレーニング
維持期再発予防と活動性の向上有酸素運動、日常生活動作の改善、スポーツへの復帰

専門家(医師や理学療法士)の役割

自己流のリハビリは、症状を悪化させる危険性を伴います。医師は、正確な診断を下し、全体的な治療方針を決定します。

理学療法士は、その方針に基づき、一人ひとりの身体の状態や生活スタイルを評価し、個別のリハビリプログラムを作成する専門家です。

どの筋肉をどのように鍛えるべきか、どの程度の負荷が適切かなど、専門的な視点から具体的な指導を行います。

定期的に評価を受け、プログラムを更新していくことで、安全かつ効果的にリハビリを進めることができます。

自宅でできることと専門施設でのリハビリ

リハビリは、専門施設だけで完結するものではありません。理学療法士から指導された運動を、自宅で継続して行う「ホームエクササイズ」が非常に重要です。

専門施設では、専用の機器を使ったり、専門家による徒手的なアプローチを受けたりしながら、正しい運動方法を習得します。

そして、その内容を自宅で実践することで、リハビリの効果を最大限に高めることができます。両者をうまく組み合わせることが、回復への近道となります。

膝の機能を回復させる運動療法の種類

膝のリハビリテーションの中核をなすのが運動療法です。運動療法にはいくつかの種類があり、それぞれが異なる目的を持っています。

筋力をつける、関節の動きを良くする、全身の持久力を高めるなど、これらの運動をバランス良く組み合わせることで、膝の機能は総合的に改善していきます。

ここでは、代表的な運動療法の種類とその役割について見ていきましょう。

筋力トレーニング(筋トレ)

筋力トレーニングは、膝関節を安定させる上で最も重要な運動です。特に、太ももの前側にある「大腿四頭筋」は、膝にかかる衝撃を吸収する天然のサポーターのような役割を果たします。

この筋肉を鍛えることで、歩行時や階段昇降時の膝のぐらつきを抑え、軟骨への負担を直接的に軽減します。

その他にも、太もも裏側の「ハムストリングス」やお尻の「殿筋群」など、膝の動きに関わる筋肉を総合的に強化することが大切です。

ストレッチング(柔軟運動)

膝の痛みが続くと、周辺の筋肉が硬くなりがちです。筋肉が硬くなると、関節の動きが制限され(可動域制限)、血行も悪くなります。

ストレッチングは、この硬くなった筋肉をゆっくりと伸ばし、柔軟性を取り戻すための運動です。

関節の可動域が広がることで、歩幅が大きくなったり、膝の曲げ伸ばしがスムーズになったりします。

また、筋肉の緊張が和らぐことで、痛みの緩和にもつながります。運動前後のストレッチは、怪我の予防にも効果的です。

有酸素運動

有酸素運動は、心肺機能を高め、全身の持久力を向上させる運動です。ウォーキング、水泳、サイクリングなどが代表的です。

膝のリハビリにおいては、体重管理の面で大きなメリットがあります。体重が1kg増えると、歩行時の膝への負荷は約3kg増えると言われています。

有酸素運動によって適正体重を維持することは、膝への負担を減らす上で非常に効果的です。また、血行を促進し、体全体の健康状態を向上させる効果も期待できます。

バランストレーニング

膝の機能が低下すると、体のバランスを保つ能力も衰えがちです。ふらつきや転倒は、さらなる怪我につながる危険性があります。

バランストレーニングは、不安定な状態であえて体を支える練習をすることで、体の平衡感覚や、筋肉と神経の連携を改善する訓練です。

例えば、片足で立つ練習や、バランスディスクの上に乗るなどの運動があります。関節の位置や動きを正確に脳に伝える感覚(固有受容覚)を再教育し、歩行の安定性を高めます。

運動療法の種類と主な目的

運動療法の種類主な目的期待される効果
筋力トレーニング膝関節の支持性と安定性の向上衝撃吸収、ぐらつきの減少、軟骨への負担軽減
ストレッチング筋肉の柔軟性向上と関節可動域の改善動作の円滑化、痛みの緩和、拘縮の予防
有酸素運動全身持久力の向上と体重管理膝への負荷軽減、心肺機能の改善、血行促進
バランストレーニング平衡感覚の改善と転倒予防歩行の安定、ふらつきの改善、怪我の予防

自宅でできる膝の筋力トレーニング

膝の機能を改善し、痛みを軽減するためには、継続的な筋力トレーニングが欠かせません。専門家の指導を受けた上で、ご自宅でも安全に取り組める運動を習慣にすることが大切です。

ここでは、特に重要な膝周りの筋肉を鍛えるための、基本的なトレーニング方法をいくつか紹介します。無理のない範囲から始め、徐々に回数を増やしていきましょう。

太もも前側の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える運動

大腿四頭筋は、膝を伸ばす際に働く最も重要な筋肉です。この筋肉が弱ると、膝が不安定になり、痛みが出やすくなります。

椅子に座った状態や、寝た状態で行えるため、膝への負担が少なく、初期のリハビリに適しています。

椅子に座って行う膝伸ばし運動(レッグエクステンション)

1. 椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばします。
2. 片方の足をゆっくりと持ち上げ、床と水平になるまで膝を伸ばします。
3. 太ももの前側に力が入っていることを意識しながら、その状態で5秒間静止します。
4. ゆっくりと元の位置に足を下ろします。
5. この動作を10回繰り返し、反対側の足でも同様に行います。

仰向けでの足上げ運動(ストレートレッグレイズ)

手順動作ポイント
1仰向けに寝て、片方の膝を立てます。腰が反らないように注意します。
2もう片方の足は、膝を伸ばしたまま、つま先を天井に向けます。足首の角度を90度に保ちます。
3伸ばした方の足を、立てた膝の高さまでゆっくりと持ち上げます。太ももの前側の筋肉を意識します。
4ゆっくりと床につく直前まで下ろします。これを10回繰り返します。勢いをつけず、コントロールしながら行います。

太もも裏側の筋肉(ハムストリングス)を鍛える運動

ハムストリングスは、膝を曲げる際に働く筋肉で、大腿四頭筋と対になる重要な筋肉です。両者の筋力バランスが整うことで、膝の動きが安定します。

うつ伏せで行う簡単な運動から始めましょう。

うつ伏せでの膝曲げ運動(レッグカール)

1. うつ伏せになり、両腕を顔の横で組みます。
2. 片方の膝をゆっくりと、お尻に近づけるように曲げていきます。
3. 太ももの裏側に力が入るのを感じながら、曲げられるところまで曲げます。
4. ゆっくりと元の位置に戻します。
5. この動作を10回繰り返し、反対側の足でも同様に行います。

お尻の筋肉(殿筋群)を鍛える運動

お尻の筋肉(特に中殿筋)は、歩行時に骨盤を安定させ、膝が内側に入るのを防ぐ役割があります。

この筋肉が弱いと、歩行時の膝へのねじれが大きくなり、痛みの原因となります。

横向きでの足上げ運動(サイドレッグレイズ)

1. 体が一直線になるように横向きに寝ます。下の腕で頭を支えるか、枕を使います。
2. 上側の足を、膝を伸ばしたままゆっくりと真上に持ち上げます。
3. 体が前後に倒れないように注意し、お尻の横の筋肉を意識します。
4. ゆっくりと元の位置に戻します。
5. この動作を10回繰り返し、反対側も同様に行います。

トレーニングを行う上での注意点

自宅でトレーニングを安全かつ効果的に行うためには、いくつかの点に注意が必要です。自己判断で無理をすると、かえって膝を痛めてしまう可能性があります。

以下の点を守り、慎重に進めましょう。

  • 痛みを感じる場合は無理をしない、または運動を中止する
  • 呼吸を止めず、自然な呼吸を心がける
  • 正しいフォームを意識し、勢いをつけずゆっくり行う
  • 体調が良い日に行い、無理のない回数から始める

膝の柔軟性を高めるストレッチング

筋力トレーニングと並行して、膝周りの筋肉の柔軟性を保つストレッチングもリハビリには重要です。

硬くなった筋肉をほぐすことで、関節の動きが滑らかになり、血行が促進され、痛みの緩和につながります。ここでは、自宅で簡単に行える基本的なストレッチを紹介します。

リラックスした状態で、気持ちよく伸びるのを感じながら行いましょう。

太もも前側のストレッチ

大腿四頭筋は、日常生活で酷使されやすく、硬くなりがちな筋肉です。この筋肉が硬いと、膝のお皿(膝蓋骨)の動きが悪くなり、痛みの原因になることがあります。

  1. 壁や椅子に手をついて体を支え、安定した姿勢で立ちます。
  2. 片方の足首を持ち、かかとをお尻にゆっくりと引き寄せます。
  3. 太ももの前側が心地よく伸びているのを感じる位置で、20〜30秒間静止します。
  4. ゆっくりと元に戻し、反対側の足も同様に行います。

太もも裏側のストレッチ

ハムストリングスが硬いと、骨盤の動きが制限され、膝を伸ばしにくくなります。結果として、歩行時に膝が曲がったままになり、膝への負担が増加します。

  1. 床やベッドに座り、片方の足を伸ばします。もう片方の足は膝を曲げ、足の裏を伸ばした足の内ももにつけます。
  2. 背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと体を前に倒していきます。
  3. 太ももの裏側が伸びているのを感じる位置で、20〜30秒間静止します。
  4. ゆっくりと体を起こし、反対側の足も同様に行います。

ふくらはぎのストレッチ

ふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)は、足首の動きに関わり、硬くなると歩行時の衝撃吸収能力が低下し、間接的に膝への負担を増やします。

  1. 壁に向かって立ち、両手を壁につけます。
  2. 片足を大きく後ろに引き、かかとを床につけたままにします。
  3. 前の膝をゆっくり曲げていき、後ろ足のふくらはぎが伸びるのを感じます。
  4. その状態で20〜30秒間静止し、反対側の足も同様に行います。

ストレッチを効果的に行うためのポイント

ストレッチの効果を最大限に引き出すためには、いくつかのポイントがあります。ただ伸ばすだけでなく、質を意識することが大切です。

ストレッチングの基本原則

項目内容理由
時間1回につき20〜30秒間、ゆっくり伸ばし続ける。筋肉が十分に伸長し、柔軟性が高まるため。
強度「痛い」と感じる手前の「気持ちいい」範囲で止める。強く伸ばしすぎると、筋肉を傷める可能性があるため。
呼吸息を止めずに、ゆっくりと自然な呼吸を続ける。リラックス効果が高まり、筋肉が伸びやすくなるため。
タイミング体が温まっているお風呂上りや、運動後に行うと効果的。血行が良く、筋肉が弛緩している状態で伸ばしやすいため。

膝への負担が少ない有酸素運動と日常生活の工夫

筋力や柔軟性が向上してきたら、次は全身の健康を視野に入れたアプローチが重要になります。膝に過度な負担をかけずに心肺機能を高める有酸素運動は、体重管理や体力維持に役立ちます。

また、普段の何気ない生活動作を見直すことも、膝を長持ちさせるための賢い知恵です。ここでは、膝に優しい運動と日常生活での工夫について具体的に紹介します。

水中ウォーキングや水泳の効果

水中では浮力が働くため、膝関節にかかる体重の負荷を大幅に軽減できます。陸上では痛みがあって難しいという方でも、水中なら楽に運動できることが多いです。

水の抵抗を利用することで、筋力トレーニングの効果も得られます。また、水圧によるマッサージ効果で血行が促進され、リラックス効果も期待できる、まさに一石二鳥の運動です。

サイクリング(自転車)の利点

サイクリングも、膝への直接的な衝撃が少ない優れた有酸素運動です。自転車をこぐ動作は、膝の曲げ伸ばしを滑らかに行うため、関節の動きをスムーズにする効果があります。

サドルに座って行うため、体重の大部分がサドルにかかり、膝への負担はごくわずかです。フィットネスバイクを利用すれば、天候に左右されず、安全な環境で自分のペースで取り組めます。

膝に優しい有酸素運動の比較

運動の種類主な利点注意点
水中ウォーキング浮力により膝への負荷が極めて少ない。水の抵抗で筋力もつく。プール施設へ行く必要がある。水温が低いと筋肉が硬くなることも。
サイクリング体重がかからず、衝撃が少ない。関節を滑らかに動かす練習になる。サドルの高さを適切に調整しないと、膝に負担がかかる場合がある。

正しい歩き方と靴選び

毎日行う「歩く」という動作も、意識を変えるだけで膝への負担を減らすことができます。

背筋を伸ばし、かかとから着地して、足の裏全体で体重を支え、親指の付け根で地面を蹴り出すように歩くのが理想です。

大股で歩くよりも、歩幅をやや狭くして歩数を増やす方が、膝への衝撃は少なくなります。また、靴選びも非常に重要です。

クッション性が高く、かかとをしっかりと支え、足の指が自由に動く程度のゆとりがある靴を選びましょう。

靴選びのポイント

  • 十分なクッション性がある
  • かかと部分がしっかりしている
  • つま先に5mm〜1cm程度の余裕がある
  • 靴底が適度に曲がりやすい

日常生活で膝の負担を減らす工夫

リハビリの効果を無駄にしないためにも、日常生活の動作を見直してみましょう。少しの工夫で、膝への負担は大きく変わります。

場面別の膝への配慮

場面工夫のポイント理由
椅子からの立ち座り机や手すりに手をつき、腕の力も使って体を持ち上げる。膝だけで体重を支える負荷を分散させるため。
階段の上り下り上りは痛くない方の足から、下りは痛い方の足から一段ずつ。体重を支える時間を、負担の少ない方の足で長くするため。
床からの立ち上がり正座は避け、できるだけ椅子を使う生活を心がける。膝を深く曲げる動作は、関節への圧力を高めるため。
荷物を持つとき荷物を左右に分けるか、カートを利用して、片側に負担が偏らないようにする。体のバランスを保ち、膝への不自然な負荷を防ぐため。

膝のリハビリと運動療法に関するよくある質問

膝のリハビリテーションに取り組む中で、多くの方がさまざまな疑問や不安を感じます。

ここでは、運動療法の進め方や日常生活での注意点に関して、特によく寄せられる質問とその回答をまとめました。

正しい知識を持つことで、安心してリハビリを続けられるようになります。

運動は毎日やるべきですか?

リハビリの初期段階では、指導された運動を毎日少しずつでも続けることが大切です。習慣化することで、筋力や柔軟性が維持・向上しやすくなります。

ただし、筋肉にも休息は必要です。特に筋力トレーニングは、1日おきに行うなど、筋肉が回復する時間を設ける方が効果的な場合もあります。

疲労感が強い日や、体調が優れない日は無理をせず休みましょう。有酸素運動は、週に3〜5日程度を目安に、ご自身の体力に合わせて行うのが良いでしょう。

大切なのは「毎日やらなければ」と気負うことではなく、「無理なく継続できる」ペースを見つけることです。

痛みがあるときでも運動して良いですか?

この判断は非常に重要です。基本的には、「強い痛みを感じる運動は避けるべき」です。運動中に鋭い痛みや、いつもとは違う種類の痛みを感じた場合は、すぐに中止してください。

ただし、「少し重だるい」「動かし始めがこわばる」程度の軽い違和感であれば、痛みの出ない範囲でゆっくりと関節を動かすことが、かえって症状を和らげることもあります。

運動後に痛みが強くなったり、腫れが出たりした場合は、運動の強度が高すぎる可能性があります。判断に迷う場合は、必ず医師や理学療法士に相談してください。

運動を中止・相談すべきサイン

  • 運動中に鋭い痛みが生じた
  • 運動後に膝の腫れや熱感が増した
  • 痛みが翌日以降も続く
  • 関節が不安定になる、膝が抜けるような感覚がある

どのくらいの期間で効果が出ますか

リハビリの効果が現れるまでの期間は、個人差が非常に大きいです。年齢、症状の進行度、筋力の状態、リハビリへの取り組み方など、多くの要因が関係します。

数週間で痛みの軽減や歩きやすさを実感できる方もいれば、数ヶ月単位での継続が必要な方もいます。大切なのは、焦らずに長期的な視点で取り組むことです。

すぐに目に見える変化がなくても、運動を続けることで膝を支える力は着実に養われています。

小さな変化、例えば「前より少し長く歩けた」「階段が少し楽になった」といった点に目を向け、モチベーションを維持することが継続の鍵となります。

サポーターは使った方が良いですか

膝用サポーターは、膝関節を安定させ、保温効果によって痛みを和らげるなど、リハビリの助けになることがあります。

特に、外出時や運動時に使用することで、安心感を得られるという心理的なメリットも大きいです。

ただし、サポーターに頼りすぎると、本来鍛えるべき筋肉が働かなくなり、かえって筋力低下を招く可能性も指摘されています。

サポーターはあくまで補助的なものと考え、筋力トレーニングを基本とすることが重要です。

主なサポーターの種類と特徴

種類特徴適した場面
簡易タイプ(筒状)保温と軽い圧迫が目的。装着が簡単。日常的な保温、冷えによる痛みの予防。
ストラップタイプベルトで圧迫度を調整でき、膝のお皿周りを安定させる。軽いスポーツや、膝のお皿が不安定な場合。
支柱(ヒンジ)付きタイプ両脇の支柱で膝の横ブレを強力に防ぐ。固定力が高い。靭帯損傷後や、関節の不安定性が強い場合。

どのタイプのサポーターが適切かは、ご自身の膝の状態によって異なります。

自己判断で購入する前に、医師や理学療法士に相談し、適切な種類やサイズについてアドバイスを受けることをお勧めします。

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Author

北城 雅照

医療法人社団円徳 理事長
医師・医学博士、経営心理士

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