股関節が痛いのはなぜか – 整形外科医の見解
股関節が痛いのは 何が原因であるか、その答えは一つではありません。
加齢に伴う軟骨のすり減り、生まれつきの骨の形状、あるいはスポーツによる負荷や腰からの神経痛など、多岐にわたる要因が複雑に絡み合っています。
痛みを放置すると歩行機能に支障をきたす恐れがあるため、ご自身の痛みの背景にある原因を正しく理解することが、症状改善への確実な一歩となります。
この記事では整形外科医の視点から、痛みの正体とその背景を詳しく紐解いていきます。
目次
股関節の構造と痛みを引き起こす組織の変化
股関節痛の主な原因は、軟骨の摩耗や関節唇の損傷、そして周囲の筋肉の炎症にあります。
股関節は体重の数倍もの負荷を支え続ける人体で最大級の関節であり、その強靭な構造が崩れたときに痛みが発生します。
骨盤の寛骨臼という受け皿に、大腿骨頭という球状の骨がはまり込む構造をしていますが、これらの骨の表面は弾力のある軟骨で覆われています。
正常な構造がどのように変化することで痛み信号が発せられるのか、そのメカニズムを解説します。
骨と軟骨の摩擦による炎症反応
健康な股関節では、軟骨が水分を十分に含み、滑らかに動くことで摩擦を防いでいます。しかし、長年の使用や負担によって軟骨の表面が摩耗し始めると、その滑らかさが失われます。
軟骨そのものには痛みを感じる神経は通っていませんが、すり減った軟骨の欠片が関節の中を刺激すると、関節を包んでいる滑膜という組織が炎症を起こします。
この滑膜炎こそが、初期の「なんとなく痛い」という感覚の正体であるケースが多く見られます。炎症が起きると関節液が過剰に分泌され、関節内の圧力が上がり、さらなる痛みを誘発します。
進行すると軟骨が消失し、骨同士が直接ぶつかり合うようになります。
骨膜には神経が豊富にあるため、骨同士の衝突は鋭く激しい痛みを生じさせ、歩行時だけでなく安静時にも痛みを感じるようになります。
関節唇の損傷と股関節の不安定性
骨盤側の受け皿の縁には、関節唇(かんせつしん)と呼ばれる線維軟骨のリングが存在します。
これはゴムパッキンのような役割を果たし、大腿骨頭を吸着させて関節を安定させる重要な組織です。
深くしゃがみ込む動作や激しいスポーツ、あるいは骨の形状異常によって、この関節唇が損傷したり断裂したりすることがあります。
関節唇が傷つくと、股関節を動かした際に「ゴリッ」という異音が生じたり、引っかかり感(キャッチング)を覚えたりします。
損傷した関節唇が骨の間で挟み込まれるたびに鋭い痛みが走り、本来のパッキン機能が低下するため、関節全体が不安定になります。
この不安定性が続くと、特定の場所に力が集中しやすくなり、結果として軟骨の摩耗を早めることにつながります。
周囲の筋肉や腱のトラブル
痛みは必ずしも関節の中で起きているとは限りません。
股関節を動かすために周囲を取り囲んでいる中殿筋や腸腰筋といった筋肉、あるいはそれらが骨に付着する腱の部分が痛みの発生源となることもあります。
関節の動きが悪くなると、それを補おうとして周囲の筋肉が過剰に緊張し、凝り固まってしまいます。
特に股関節の外側や鼠径部(脚の付け根)の痛みは、筋肉の疲労や腱の炎症(腱炎)に由来することが珍しくありません。
筋肉由来の痛みは、動き始めや長時間同じ姿勢を続けた後に強く出やすい特徴があります。
レントゲンで骨に異常がないと言われた場合、これらの軟質組織のトラブルが原因であることが多いです。
股関節を構成する組織と痛みの関係
| 組織名 | 主な役割 | 痛みの発生要因 |
|---|---|---|
| 関節軟骨 | 骨の表面を覆い衝撃を吸収する | 摩耗による滑膜の刺激と炎症 |
| 関節唇 | 骨頭を包み込み安定させる | 断裂や亀裂による挟み込み |
| 関節包・滑膜 | 関節を包み潤滑液を出す | 炎症による腫れと内圧上昇 |
| 周囲の筋肉 | 関節を動かし支える | 過緊張、疲労、腱の炎症 |
日本人に多い変形性股関節症の進行と症状
日本人の股関節痛の原因として最多である変形性股関節症は、進行度合いに応じて痛みや可動域制限が変化するため、現在の状態を正確に把握することが治療方針の決定に必要です。
かつては乳児期の脱臼などが原因とされてきましたが、現在では寛骨臼形成不全(臼蓋形成不全)という、骨盤の受け皿が生まれつき小さい形状が主な要因であることがわかっています。
受け皿が浅いために体重を支える面積が狭くなり、一部分に圧力が集中することで軟骨が若いうちから傷んでしまうのです。
初期段階における違和感と運動時痛
病気の始まりは、明確な激痛ではなく、ふとした瞬間の違和感からスタートすることがほとんどです。
長時間歩いた後や、椅子から立ち上がろうとした瞬間に、脚の付け根やお尻のあたりに重だるさや鈍い痛みを感じます。
この段階では、少し休めば痛みが治まることが多く、日常生活に大きな支障をきたさないため、受診を先延ばしにしてしまう方が少なくありません。
しかし、関節内部ではすでに軟骨の摩耗が始まっており、骨が反応して硬くなる「骨硬化」という現象が見え始めます。
季節の変わり目や寒い日に古傷が痛むような感覚を覚えることもあります。この時期に適切な運動療法や生活習慣の見直しを行うことで、進行を遅らせることが大いに期待できます。
進行期に見られる可動域制限と日常生活への支障
軟骨の摩耗が進むと、骨と骨の隙間が明らかに狭くなり、すり減った骨の縁に「骨棘(こつきょく)」という棘状の突起ができ始めます。
この段階になると痛みは慢性化し、休んでも完全には痛みが引かなくなります。特徴的なのは、股関節の動きが悪くなる「可動域制限」です。
具体的には、足の爪切りがしにくくなる、靴下が履きづらくなる、和式トイレのような深くしゃがむ動作が困難になる、といった変化が現れます。
また、痛みを避けるために無意識に体を揺らして歩く「跛行(はこう)」が見られるようになるのもこの時期です。
階段の上り下り、特に下りの動作で強い痛みを感じるようになり、外出を控えるなど生活の質が低下し始めます。
末期状態における夜間痛と骨の変化
軟骨がほとんど消失し、骨と骨が直接擦れ合う状態に至ると、末期と診断されます。
この段階での痛みは非常に強く、体重をかけていなくても痛む「自発痛」や、寝ている間に痛みで目が覚める「夜間痛」が現れることがあります。
骨の変形も顕著になり、脚の長さが短くなったように感じることもあります。
長期間の痛みにより、股関節周りの筋肉が痩せてしまい、関節が固まって動かなくなる「拘縮(こうしゅく)」という状態に陥ることもあります。
ここまで進行すると、保存療法(リハビリや薬)だけで痛みをコントロールすることは難しくなり、人工関節置換術などの手術療法を検討する必要が出てきます。
変形性股関節症の病期分類と特徴
| 病期(ステージ) | 関節の状態 | 主な自覚症状 |
|---|---|---|
| 前期・初期 | 軟骨の摩耗開始、隙間は保たれる | 立ち上がりや動き始めの痛み |
| 進行期 | 隙間が狭小化、骨棘の形成 | 靴下が履きにくい、持続的な痛み |
| 末期 | 軟骨消失、骨同士の接触 | 安静時痛、夜間痛、歩行困難 |
加齢以外の疾患が原因となるケース
変形性股関節症以外にも、大腿骨頭壊死症や関節リウマチなど、専門的な診断を要する股関節疾患が存在するため、痛みの発症様式や合併症状に注意を払う必要があります。
これらは加齢による変化とは異なる原因で発症するため、治療法や対処法も異なります。
痛みの性質が「徐々に」ではなく「急に」であったり、他の関節にも症状があったりする場合は、以下のような疾患を疑います。
大腿骨頭壊死症という血流障害
大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)は、大腿骨頭への血液供給が途絶え、骨の組織が死んでしまう(壊死する)病気です。
ステロイド薬の大量使用や、アルコールの多量摂取がリスク因子として知られていますが、原因が特定できない特発性のものもあります。
壊死しただけでは痛みを感じませんが、壊死した部分が体重の負荷に耐えきれずに「圧潰(あっかい)」して潰れた瞬間に、激しい痛みが生じます。
急に股関節が痛くなり、歩けなくなるのが特徴です。国の指定難病の一つであり、早期のMRI検査による診断が必要です。
関節リウマチによる破壊
関節リウマチは、免疫の異常によって自分自身の関節を攻撃してしまう全身性の病気です。手や指の関節に症状が出ることが多いですが、股関節にも病変が及ぶことがあります。
滑膜が異常に増殖し、軟骨や骨を溶かしていくため、急速に関節の破壊が進むことがあります。
朝方に関節がこわばって動かしにくい症状が特徴的です。
近年は薬物療法の進歩により、関節破壊の進行を食い止めることが可能になってきていますが、早期発見とリウマチ専門医によるコントロールが必要です。
大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)
近年注目されている概念で、大腿骨と寛骨臼の形状のわずかな不適合により、動かすたびに骨同士が衝突(インピンジメント)を起こす状態です。
特に深く曲げたりねじったりする動作で骨が衝突し、その繰り返しによって関節唇や軟骨が損傷します。
スポーツ活動が盛んな若年層から中高年まで幅広く見られます。
変形性股関節症の前段階とも考えられており、特定の動作でのみ鋭い痛みが走る場合はこの疾患の可能性があります。
注意すべきその他の股関節疾患
- 大腿骨頭壊死症
血流低下により骨が壊死し、潰れることで急激な痛みが発生する。 - 関節リウマチ
免疫異常により滑膜が炎症を起こし、関節破壊が進行する。 - 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)
骨の形状による衝突が繰り返され、関節唇などを損傷する。 - 化膿性股関節炎
細菌感染により関節内に膿が溜まる。緊急の治療が必要。
痛む場所から推測する原因の違い
患者さんが訴える痛みの場所(鼠径部、殿部、膝など)によって、原因となっている組織や病態をある程度推測することが可能ですが、放散痛の可能性にも注意が必要です。
ご自身の痛みがどのあたりにあるのかを確認することは、医師に症状を伝える際にも非常に役立ちます。
ただし、痛みは神経を介して離れた場所に飛ぶこともあるため、痛い場所=悪い場所とは限らない点には留意してください。
鼠径部(脚の付け根)の痛み
最も典型的な股関節痛の訴えは、鼠径部(脚の付け根の前側)に集中します。ここは股関節の関節包の前面にあたり、変形性股関節症や関節唇損傷の多くで最初に痛みが出る場所です。
椅子から立ち上がる時や、歩き始めにこの部分が「ズキッ」とする、あるいは詰まるような感じがする場合は、股関節内部の異常である可能性が高いと言えます。
また、腸腰筋という股関節を曲げる筋肉の腱炎や、滑液包炎といった関節外のトラブルでもこの場所に痛みが出ることがあります。
リンパ節の腫れやヘルニア(脱腸)など、整形外科以外の疾患との鑑別も必要になるエリアです。
殿部(お尻)や大転子(外側)の痛み
「お尻の横が痛い」「お尻のえくぼのあたりが痛い」という訴えも非常に多く聞かれます。
お尻の外側、太ももの付け根の骨が出っ張っている部分(大転子)周辺の痛みは、大転子滑液包炎や中殿筋の付着部炎であることが多いです。これらは関節の中ではなく、筋肉や腱の問題です。
一方、お尻の奥の方が痛い場合は、股関節そのものの痛みが後ろ側に放散しているケースや、梨状筋症候群などの坐骨神経痛が関与しているケースがあります。
お尻の痛みは腰椎疾患との関連も深いため、慎重な見極めが必要です。
膝の痛みとしての関連痛
意外に思われるかもしれませんが、股関節が悪いのにもかかわらず、「膝が痛い」と感じることがあります。これを「関連痛(放散痛)」と呼びます。
股関節と膝関節は、閉鎖神経や大腿神経といった共通の神経支配を受けています。このため、脳が股関節からの痛み信号を膝からの信号と勘違いしてしまうのです。
特に変形性股関節症の初期では、股関節にはあまり痛みを感じず、膝の内側や太ももの前側に痛みを感じることがあります。
膝の検査をしても異常がないのに痛みが続く場合は、股関節のチェックを行うことが大切です。
痛みの部位と想定される主な原因
| 痛む場所 | 疑われる主な原因 | 特徴的な症状 |
|---|---|---|
| 鼠径部(前方) | 変形性股関節症、関節唇損傷 | 立ち上がり時や着地時の鋭い痛み |
| 殿部・大転子(外側・後方) | 中殿筋腱炎、滑液包炎、坐骨神経痛 | 患部を下にして寝ると痛い、圧痛がある |
| 膝・太もも前面 | 股関節からの関連痛 | 膝そのものには異常がないのに痛む |
生活習慣や動作が与える股関節への負担
体重の増加や偏った身体の使い方など、日々の生活習慣が股関節への物理的なストレスを増大させ、症状を悪化させる要因となります。
股関節は、立っているだけで体重の約0.6倍から1倍、歩行時には約3倍から4倍もの力がかかると言われています。
原因不明の痛みが続く場合、病気そのものだけでなく、日常の身体の使い方を見直すことが症状改善の鍵となることもあります。
体重増加による物理的なストレス
体重は股関節にとって最も直接的な負荷因子です。体重が1kg増えると、歩行時の股関節への負担は3kgから4kg増加すると計算されます。
つまり、3kg太れば関節には10kg以上の余計な負荷がかかり続けることになるのです。この過剰な負荷は軟骨の摩耗を早め、変形の進行を加速させます。
逆に言えば、適正な体重管理を行うことは、最も効果的かつ副作用のない治療法の一つとなり得ます。
過度なスポーツや偏った身体の使い方
健康のために行うスポーツも、やり方を間違えれば股関節を傷める原因になります。
特に、マラソンやジャンプ動作の多い競技、あるいはバレエやヨガのような極端な可動域を求める動作は、関節唇や軟骨に微細な損傷を与えるリスクがあります。
また、日常生活での「脚を組む癖」「横座り」「片脚重心で立つ」といった左右非対称な姿勢は、骨盤の傾きを生み、股関節のかみ合わせを悪くする原因となります。
長時間の座位と筋力低下
現代人に多いデスクワークなどでの長時間座りっぱなしの生活は、股関節前面の筋肉や靱帯を縮こまらせ、柔軟性を奪います。
柔軟性が低下した状態で急に動こうとすると、関節に無理な力がかかり痛みを生じます。
さらに、運動不足によって股関節を支えるお尻の筋肉(中殿筋など)が衰えると、歩行時の衝撃吸収能力が落ち、関節への直接的な負担が増大してしまいます。
股関節への負担を増やす習慣と要因
- 体重過多(肥満)
歩行時の負担を倍増させ、軟骨摩耗を加速させる最大の要因。 - 負担の大きいスポーツ
コンクリート上でのランニングや、過度な開脚動作の繰り返し。 - 不良姿勢・座り方
脚組み、横座り、あぐらなど、骨盤を歪ませる座り方の常態化。 - 筋力と柔軟性の不足
運動不足による中殿筋の筋力低下や、股関節前面の硬化。
腰椎疾患との鑑別が必要なケース
股関節疾患と腰椎疾患は症状が酷似しているため、痛みの誘発動作やしびれの有無などを慎重に見極めることが、適切な治療選択において極めて重要です。
「股関節が痛いと思っていたら、実は腰が原因だった」あるいはその逆のパターンは、整形外科の診療現場で頻繁に遭遇します。
腰の骨(腰椎)と股関節は位置的にも近く、神経の走行も密接に関連しているため、患者さん自身で区別することは非常に困難です。
坐骨神経痛によるお尻の痛み
腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症によって神経が圧迫されると、坐骨神経痛が生じます。この痛みは腰からお尻、太ももの裏側を通って足先へと走ります。
患者さんは「お尻の奥が痛い」「股関節の後ろが痛い」と感じることが多いため、股関節の病気と誤解されがちです。
しかし、坐骨神経痛の場合、股関節そのものを動かしても痛みが増強しないことが多く、むしろ前屈などの腰の動きで痛みが変化する傾向があります。
脊柱管狭窄症と股関節症の併発
高齢になると、腰の変形と股関節の変形が同時に進行しているケースも珍しくありません。これを「ヒップ・スパイン・シンドローム(Hip-Spine Syndrome)」と呼びます。
この場合、痛みが腰由来のものなのか、股関節由来のものなのか、あるいは両方が混在しているのかを慎重に切り分ける必要があります。
腰の治療をしても痛みが取れない場合、隠れていた股関節症が痛みの主原因であることもありますし、その逆もあり得ます。
痛みの再現による見極め方
医師は診察時、パトリックテストなどの徒手検査を行い、股関節を特定の方向に動かして痛みが再現されるかを確認します。
股関節を動かして鼠径部に痛みが出れば股関節疾患の可能性が高く、股関節を動かしても痛くないが、脚を上げたり腰を反らしたりすると痺れや痛みが走る場合は、腰椎疾患の可能性が高くなります。
精密な診断には、MRI検査や神経ブロック注射による反応の確認が役立ちます。
股関節疾患と腰椎疾患の症状の違い
| 比較項目 | 股関節疾患の特徴 | 腰椎疾患の特徴 |
|---|---|---|
| 痛む場所 | 鼠径部(前)、大転子(横) | お尻(後)、太もも裏、すね |
| 痛む動作 | 靴下を履く、あぐら、歩き始め | 前屈、長く歩くと痺れる、腰を反る |
| しびれ | 通常はない | 足指や足裏にしびれが出やすい |
年齢層によって異なる痛みの原因
股関節痛の原因は小児、青壮年、高齢者で大きく異なり、各世代に応じた特有の疾患を理解しておくことが早期発見につながります。
子供の痛みと高齢者の痛みでは、疑うべき病気が全く別物であることも少なくありません。ここでは、各世代で代表的な痛みの原因について解説します。
小児期から思春期に見られる疾患
子供が「股関節が痛い」または「膝が痛い」と訴えた場合、成長痛で片付けずに注意深く観察する必要があります。
幼児期では単純性股関節炎という一時的な炎症が多く見られますが、ペルテス病(大腿骨頭の血流障害)や大腿骨頭すべり症といった、専門的な治療を要する病気も存在します。
子供は痛みを正確に表現できないため、歩き方の異常(足を引きずるなど)がないかを確認することが大切です。
青壮年期のスポーツ障害と初期変形
活動的な20代から40代では、スポーツや仕事によるオーバーユース(使いすぎ)が原因となることが多いです。関節唇損傷やグロインペイン症候群などが代表的です。
また、女性では臼蓋形成不全による初期の変形性股関節症が症状を出し始めるのもこの年代です。妊娠や出産を機に、骨盤周りの負担が増えて痛みが出ることもあります。
中高年期以降の変性疾患と骨折
50代以降になると、長年の負担の蓄積による変形性股関節症が主役となります。
軟骨の摩耗が進み、痛みが慢性化しやすくなります。さらに高齢になると、骨粗鬆症を背景とした大腿骨近位部骨折のリスクが急上昇します。
転倒直後に立てなくなった場合は骨折を強く疑いますが、いつの間にか骨折している脆弱性骨折というケースもあり、些細な痛みでも油断はできません。
世代別に見る股関節痛の主な原因
| 年齢層 | 主な原因疾患・要因 | 留意点 |
|---|---|---|
| 小児・思春期 | 単純性股関節炎、ペルテス病 | 膝の痛みとして訴えることも多い |
| 青壮年期 | 関節唇損傷、臼蓋形成不全 | スポーツや仕事の負荷が引き金 |
| 中高年以降 | 変形性股関節症、骨折、偽痛風 | 加齢変性と骨の脆さが主因 |
受診を急ぐべき危険な兆候とセルフチェック
多くの股関節痛は慢性的な経過をたどりますが、感染症や骨折など緊急性を要する危険なサインを見逃さず、該当する場合は速やかに整形外科を受診してください。
様子を見てよい痛みと、すぐに病院へ行くべき痛みの境界線を知っておくことは、重大な後遺症を防ぐために必要です。
以下のような症状がある場合は、自己判断でストレッチなどを控え、医療機関を受診してください。
感染症や骨折を示唆するレッドフラグ
細菌が関節内に入り込む化膿性股関節炎は、急速に軟骨や骨を破壊する恐ろしい病気です。発熱を伴う激しい股関節痛がある場合は緊急事態です。
また、高齢者の転倒後の痛みは、たとえ歩けたとしても骨折(ヒビ)が入っている可能性があります。骨折を見逃して動き回ると、ズレが大きくなり手術が大掛かりになってしまいます。
安静にしていても治まらない痛み
一般的な筋肉痛や軽い炎症であれば、楽な姿勢で安静にしていれば痛みは和らぎます。
しかし、じっとしていても痛い、夜も眠れないほどの痛みがある場合は、悪性腫瘍(骨転移など)や重度の炎症、あるいは急速に進行する骨頭壊死などの可能性があります。
痛みの強さが日に日に増している場合も要注意です。
歩行困難なほどの機能障害
足に体重をかけられない、あるいは脚が全く動かせないといった機能障害が出ている場合、関節の構造的な破綻や神経の麻痺が疑われます。
これを無理に我慢して生活を続けると、反対側の脚や腰にも過度な負担がかかり、身体全体のバランスが崩壊してしまいます。
直ちに医療機関へ行くべき症状リスト
- 発熱を伴う股関節の激痛
関節内感染の疑いがあり、数日で関節が破壊される危険がある。 - 転倒後、足が動かせない・立てない
大腿骨近位部骨折の可能性が高く、手術が必要な場合が多い。 - 安静時や夜間の持続的な強い痛み
内臓疾患の関連痛や腫瘍、重度の炎症などが疑われる。 - 急激な可動域の悪化
昨日までできていた動作が急にできなくなった場合。
よくある質問
最後に、日々の診療の中で患者さんから頻繁に寄せられる疑問について、簡潔にお答えします。ご自身の状況と照らし合わせて参考にしてください。
痛い時は歩いたほうがいいのでしょうか?
痛みの強さと時期によります。炎症が強く熱を持っているような急性の時期は、無理に歩くと炎症を悪化させるため安静が必要です。
一方、慢性的な痛みで、動かさないことによる筋力低下や拘縮が懸念される場合は、痛みの出ない範囲での運動(プール歩行など)が推奨されます。
過度な安静は逆効果になることもあるため、主治医と相談しながら活動量を調整してください。
親が変形性股関節症だと遺伝しますか?
変形性股関節症そのものが遺伝するわけではありませんが、その主な原因である「臼蓋形成不全(骨盤の受け皿が浅い形状)」は遺伝する傾向があります。
お母様やお祖母様が股関節を悪くされていた場合、似た骨格を受け継いでいる可能性があります。
早めにレントゲン検査を受けてご自身の骨の形状を知っておくことで、予防的な対策を取ることが可能です。
温めるのと冷やすの、どちらが正解ですか?
基本的には、急に痛くなった場合や熱を持っている場合は「冷やす(アイシング)」、慢性的に痛い場合や重だるい場合は「温める」のが原則です。
変形性股関節症の多くは慢性痛ですので、お風呂などで温めると血流が良くなり痛みが和らぐことが多いです。ただし、運動直後で熱感がある場合は一時的に冷やしたほうが良いでしょう。
サプリメントで軟骨は再生しますか?
グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントは人気がありますが、現時点で「飲めばすり減った軟骨が再生する」という医学的に確実な証拠はありません。
あくまで補助食品として捉え、過度な期待は禁物です。治療の基本は体重管理、筋力トレーニング、そして必要に応じた薬物療法や手術療法であることを理解しておきましょう。
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