スポーツ外傷の中でも、現場復帰までに非常に時間がかかり、経過によってはパフォーマンスにも大きな影響を与える膝前十字靭帯損傷。
膝前十字靭帯(ACL)損傷は、サッカー・バスケ・バレー・スキーなどのスポーツに多く認めます。今回はACL損傷の症状・診断・治療について解説します。
(文章中に、日本整形外科スポーツ医学会が配布しているスポーツ損傷シリーズ「膝前十字靭帯損傷」の図を利用させて頂きました。ぜひこちらもご活用下さい。)
目次
今回の10秒まとめ
①前十字靭帯は、大腿骨に対する脛骨の前方移動と内旋・過伸展を制動し、膝関節に安定性を与える役割がある。
②ACL損傷後の主な症状は、疼痛・可動域制限・腫脹・膝関節の不安定性・膝崩れが挙げられる。
③ACL損傷の描出には、MRI検査が最も優れている。
④ACL損傷の治療は、保存療法と手術療法(ACL再建術)に分けられるが、現在では手術療法を行うのが一般的である。
⑤ACL再建術後のリハビリテーションは、術部の保護をしながら各個人の身体特性に合わせて段階的にスポーツ復帰を目指していく。
膝前十字靭帯とは?
膝関節には4つの大きな靭帯があり関節を安定させています。
・後十字靭帯(Posterior cruciate ligament:PCL)
・内側側副靭帯(Medial collateral ligament:MCL)
・外側側副靭帯(Lateral collateral ligament:LCL)
この中で前十字靭帯は、大腿骨に対する、脛骨の前方移動と内旋・過伸展を制動する役割があります。
ACL損傷の受傷機転には接触型と非接触型があります。
スポーツ中の方向転換(Cutting)・ジャンプからの着地・ダッシュからの減速や停止など、膝関節へ過度なストレスが加わるとACLの断裂が生じます。すなわち股関節が内旋位のまま脛骨内旋にストレスが加わる動作にて損傷します。結果的にいわゆるKnee-in・Toe-outと呼ばれるACL損傷に特有な肢位が生じると言われています。
前十字靭帯損傷の症状は?
・膝関節の腫脹及び関節内血腫
・膝関節の不安定感・膝崩れ
受傷時には膝関節の激痛とACLの断裂音(ポップ音)を感じる事が多いです。
急性期(受傷後3週間くらい)には膝の痛み・腫れ(関節内血腫)・可動域制限がみられます。急性期を過ぎるといずれの症状も軽快してきますが膝の不安定感や膝崩れが徐々に目立ってくることがあります。不安定感があるまま放置しておくと新たに半月板損傷や軟骨損傷などを生じ、慢性的な痛みや腫れが出現します。
前十字靭帯損傷の診断は?
・Lachman test(ラックマンテスト)陽性
・pivot test
・膝関節前方引き出しテスト陽性
・X線検査(レントゲン)
・MRI検査
問診では、受傷時の状況や「膝がガクンとなる」「プチっと音がした」などの訴えを聞きます。
膝関節に徒手的にストレスを加えてACLの緩みや痛みの程度を健側と比較します。
X線検査ではACL損傷の診断をすることはできませんが、ACL損傷を示唆する間接的なX線所見(脛骨の裂離骨折・大腿骨の陥凹)を確認します。また受傷機転が比較的似ている膝蓋骨脱臼との鑑別診断にも用いります。
MRIは軟部組織の描出に優れている検査でACL損傷診断の精度を高める検査になります。MRI検査ではACLの損傷だけでなく、脛骨の骨挫傷や半月板損傷合併の有無も同時に評価できます。
前十字靭帯損傷の治療は?
保存療法
スポーツ活動を望まない中高年者には装具装着と早期から痛みの無い範囲で可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようリハビリテーションを行います。ただし現在では、手術療法を行うのが一般的で、ACL損傷を手術加療せず放置すると関節軟骨損傷・半月板損傷のリスクが高くなることが知られています。
手術療法
スポーツ活動を望む方には、膝関節機能を回復させるためにACL再建術を選択します。前十字靭帯の治療は自家組織を用いての再建術が一般的です。手術は関節鏡を用いてできる限り低侵襲で行います。
現在では、自家腱移植が一般的です。用いる自家腱には、骨付き膝蓋腱(bone-patella-tendon bone:BTB)を用いる方法と、半腱様筋腱(semitendinosus tendon:ST)、またそれに加えて薄筋腱(semitendinosus and grasilis tendons:STG)を多重折りにして用いる方法に分けられます。
手術療法か保存療法か、治療方法の選択についてお悩みの方は、下記の記事をお読みください。
前十字靭帯を損傷したら手術は必要ですか?
前十字靭帯再建術後のリハビリテーションは?
スポーツ復帰には6か月~最大12ヶ月かかり、合併症の有無や術式によって復帰時期は変わります。
術後管理(~2週)
再建術直後は、2~3週間程の免荷期間を設けます。また手術部の保護や術後合併症、炎症症状の管理を行いながら、関節可動域制限・筋機能低下の改善を図ります。
術後早期からジョギング開始まで(2週~3ヶ月)
この期間は術後の炎症が沈静化し、機能回復に向けて徐々にリハビリテーションが加速化される時期です。膝関節の可動域獲得の為に、積極的に可動域練習や筋力増強トレーニング(特に大腿四頭筋訓練)を行います。またスポーツに関連する基本動作の中で膝関節にストレスが加わるような不良姿勢や動作の修正を行っていきます。
ACL損傷や再受傷の要因は多岐にわたるため、膝関節だけでなく、足関節や股関節、体幹機能にも着目して個々に応じたリハビリテーションを行っていく必要があります。
ジョギング開始からスポーツ復帰まで(3~9ヶ月)
スポーツ復帰に向けて更に膝関節の筋力強化や股関節・体幹の複合的な不安定性や非対称性の改善を図ります。動的な片脚立位・片脚ジャンプ着地・カッティング動作など、スポーツ復帰に必要な応用動作の改善に向けて負荷量を上げていきます。スポーツ復帰の時期は、様々な基準を設けて適切な時期を検討していきます。
ACL損傷術後のスポーツ復帰については、下記の記事を参考にしてください。
膝前十字靭帯再建術後はどのくらいでスポーツ復帰できますか?
当院のご紹介
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当院は、各種専門領域を持った医師の診療に加え、大学病院と同様の医療機器を有し、かつ、理学療法士・作業療法士によりリハビリテーションも積極的におこなっている診療所です。また、併設の慶友整形外科脊椎関節病院では手術加療も行なっております。
そのため当院では、整形外科疾患におけるほぼ全ての治療を提供することができます。
当院の『7つの特徴』や『ミッション』についてご案内いたします。
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