階段を降りる時に膝が痛い、膝が痛くて立ち上がれない、など多くの方が膝の痛みで悩んでいらっしゃいます。
特に60歳以上の方で、その原因の多くが『変形性膝関節症』です。
今回はその変形性膝関節症についてお話しします。
目次
今回の話の10秒まとめ。
① 変形性関節症とは、関節面の軟骨がすり減ってしまった状態のこと。
② 変形は治らないが、痛みはコントロールできる。
③ 「痛みを取る治療」と「痛まない環境を作る治療」を分けて考える。
③ 太ももの前の筋力upが痛みを減らし、進行を遅らせる。
④ 最近の治療の話題。ヒアルロン酸の注射は効果がないかも。
変形性膝関節症とは?
(今回は日本整形外科学会発行のパンフレット 整形外科シリーズ3 変形性膝関節症を用いて説明いたします。)
歩き始めや椅子から立ち上がるとき、または、階段を降りるときに膝に痛みを感じる。
その痛みの原因はもしかすると変形性膝関節症かもしれません。
膝の痛みを抱え整形外科を受診された方は、この病名をお聞きになったことがあるかもしれません。
では、変形性膝関節症とはどんな病気なのでしょうか?
関節とはご存知の通り、骨と骨が接続する部分ですが、接続している骨同士の表面は非常に滑らかな関節軟骨で覆われています。
関節を使いすぎることによって、この関節軟骨がすり減り、しまいには軟骨がなくなってしまいます。
この状態が変形性関節症です。そしてこれが膝に生じたものが、変形性膝関節症です。
変形性膝関節症に分類には、レントゲン検査がよるものが一般的に用いられます。
こちらについて詳しくお尻になりたい方は、下記の記事をご覧ください。
変形性関節症って治るの?
もしみなさんが「変形性関節症を治します。」といった表現を目にした場合、それは嘘だと思ってください。
現在の医療では変形性関節症を治すことはできません。
このようにお話をすると「じゃあこの痛みは取れないの?」とがっかりする方もいらっしゃると思いますが、痛みを軽減させ、場合によっては一時期的に無くなることは可能です。
勘違いしないでいただきたいのは「治ること=痛みが取れること」ではありません。変形性関節症は治らなくても痛みをとることはできます。
繰り返しになりますが、現代医療では、無くなってしまった関節軟骨を取り戻すことはできません。しかし、うまく痛みをコントロールし日常生活を無理なく過ごすことは現代医療でも可能です。
変形性膝関節症の治療法とは
変形性膝関節症の治療は、①「痛みをとる治療」と②「痛まない環境を作る治療」の2つに分けることができます。
①「痛みをとる治療」
変形性膝関節症で痛みを感じる原因は、関節の変形に伴う炎症や関節周囲の筋及び関節包(関節を覆っている軟部組織)の緊張が原因と考えられております。
よって痛みを取り除くためには、以下のような治療を行います。
1)炎症を抑えるために抗炎症薬の内服
2)炎症を抑えるために副腎皮質ステロイド薬
3)ヒアルロン酸の関節内注射
4)炎症が強く腫れや痛みが強い時は、安静や冷却
これらは全て変形性膝関節症に伴う炎症を取り除く「痛みをとる治療」と考えることができます。
これと同じ、もしくはそれ以上に大切な治療方針として、「痛まない環境を作る治療」があります。
②「痛まない環境を作る治療」
「痛みをとる治療」と同じ、もしくはそれ以上に大切な治療方針として、「痛まない環境を作る治療」が挙げられます。。
この「痛まない環境を作る治療」がおろそかにすると、どんなに「痛みをとる治療」を行っても、痛みをコントロールすることは難しいです。せっかく炎症をとるための治療を行っても、環境が良くなっていなければ、再び炎症が起こり振り出しに戻ってしまうからです。
変形性膝関節症において痛みを取る治療とは、膝関節周囲の安定性を高めるために、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)を鍛えることです。
この大腿四頭筋を鍛えることは、痛みを取り除くことにも、変形の進行を遅らせることにも効果があると言われております。(→Quadriceps weakness and osteoarthritis of the knee.)
そのほか、痛まない環境を作り進行を遅らせる方法については下記記事にまとめてあります。
ぜひご覧ください。
変形性膝関節症では、安静にすべきか、動くべきか?
「痛みを取る治療」の中に安静があることや「体調が悪い時な安静にする」といった考えがあるからでしょうか、変形性膝関節症の方で極力歩かずに動かないようにしてしまう方が多くいらっしゃいますが、これは逆効果です。
もちろん、腫れや痛みが強い時は安静が必要です。
しかし、安静にしすぎることで膝関節周囲の筋肉が衰えてしまうと、もっと痛みやすい膝になってしまいます。
歩いて痛みを感じる時も、プール内を歩くや自転車を漕ぐなどの、膝関節にかかるストレスは少ないけれど、大腿四頭筋を刺激する運動は積極的に行うようにしましょう。
また、これらの治療を行っても痛みが取れない場合は、人工の関節に置き換える「人工関節置換術」という手術も検討する必要があります。
人工膝関節置換術に関して詳しくお知りになりたい方は、下記記事もご覧ください。
また、人工膝関節置換術後には、日常生活に戻るために積極的なリハビリテーションが必要になります。
術後のリハビリテーションについては、下記記事をお読みください。
ヒアルロン酸の関節注射は意味がない??
最近、面白い研究結果が出ました。変形性膝関節症の患者さんを対象に、痛み止めの内服、ステロイド、ヒアルロン酸またはPRP(多血小板血漿:自分の血液から遠心分離によって血小板を多く血漿を抽出したもの)の関節内注射、と偽薬をの効果を比べた研究を集めて解析した結果を示した論文です。
(→Mixed Treatment Comparisons for Nonsurgical Treatment of Knee Osteoarthritis: A Network Meta-analysis)
その結果、関節内ヒアルロン酸注射は除痛効果や関節機能改善に関して関節内偽薬投与との差がなかったとのことです...。
臨床現場では、患者さんから関節内ヒアルロン酸の効果を感じるという声を聞くことが多いのですが、なんとも残念な結果です。
しかし国内の研究では、関節内ヒアルロン酸の投与によって人工関節置換術を行うまでの期間を伸ばすことができたとする報告もあります。
保険の制度が異なるため、これらを比較することで一概に効果の有無を議論することはできませんが、日本のガイドラインではヒアルロン酸の関節内注射は推奨されております。
(→変形性関節症治療の国内外のガイドライン)
最近注目を集めている膝関節の再生医療
これまでは傷んでしまった軟骨は修復することが出来ないと考えられていましたが、近年の医学の進歩により、軟骨も再生できる可能性ができました。
このような治療法は再生治療と呼ばれるものであり、現在代表的なものに①PRP療法と②脂肪肝細胞療法が挙げられます。
PRP療法については下記の記事をご覧ください。
また、当院に併設された慶友整形外科脊椎関節病院では、脂肪肝細胞治療もおこなっております。
ぜひこちらも一度ご覧ください。
いずれにせよ、変形性膝関節症の疼痛コントロール及び進行予防には大腿四頭筋の筋力の維持・向上は有効ですので、可能なかぎり歩くなどの運動を日常生活に取り入れるようにしましょう。
また、膝の痛みでお悩みの方で専門的な治療を検討される場合は一度当院までご相談ください。
当院のご紹介
整形外科の診療に必要な『すべて』が揃った診療所
当院は、各種専門領域を持った医師の診療に加え、大学病院と同様の医療機器を有し、かつ、理学療法士・作業療法士によりリハビリテーションも積極的におこなっている診療所です。また、併設の慶友整形外科脊椎関節病院では手術加療も行なっております。
そのため当院では、整形外科疾患におけるほぼ全ての治療を提供することができます。
当院の『7つの特徴』や『ミッション』についてご案内いたします。
各部門の専門家が集まった特殊外来を設置
当院は、一般的な関節の痛みや筋肉の痛みを診る整形外科の他に、「脊椎(首・腰)」、「肩関節」、「股関節」、「膝関節」、「手」、「足」とそれぞれの専門家が集まった専門外来を用意しております。
他院で診断がつかない症状に関して、各領域の専門家が診察をいたします。
手や足が痺れる、膝や股関節は痛い、背中が曲がってきたなどの症状でお困りの方へ。
都内最大級のリハビリ室を完備
患者様の健康を取り戻すため、当院ではリハビリテーションに力を入れております。
国家資格を有するセラピスト達が、責任を持って治療を行います。
腰が痛い、姿勢が悪い、歩くとふらつくなどの症状でお困りの方へ。
交通事故診療に強い整形外科専門医が診察
不幸にも交通事故に遭われた患者様の多くは、「事故のことは保険屋さんに聞けば良いが、体の不調をどこに相談すれば良いのかわからない」という悩みを抱えていらっしゃいます。
当院では交通事故診療に強い整形外科専門医が治療を行います。ぜひ一度ご相談ください。
当院は、整形外科専門医が交通事故治療を行う医療機関です。